大食いの彼女には秘密がある

卯木家の薄暗いリビングでは 千寿がソファに腰を下ろして 両手で顔を覆っていた

十数年前

そこには莉子と千寿 そして父親である 樹（いつき）の 仲睦まじい姿があった

皆はこんな幸せな生活が 未来永劫ずっと続く

そう信じて疑わなかった

しかしそんな幸せな日は 突如として終わりを迎えたのだった

樹の不倫という 最悪な結末によって

千寿は不倫した樹を 声を荒げて問い詰める

樹はうつむいたまま 家を出て行く

会話の一部始終を自室で聞いていた莉子が不安な眼差しでリビングにやって来る

莉子は涙を流しながら 千寿に抱きつく

翌日

莉子は音弥に抱きつく

音弥は莉子の頭を 優しく撫でる

2人は朝日に 照らされた部屋で 口づけを交わす

それから数日間

あれから千寿からの連絡も一切なく 穏やかな日々を過ごしていた

同時刻の卯木家

千寿は仕事に向かうため 玄関から出てきた

張り込みをしていた警官は 千寿に近づいて行く

音弥は微笑む

莉子は照れたように 音弥の肩を優しく叩く

音弥は去っていく莉子の 姿を見つめながら笑みをこぼす

家を出て職場に向かう莉子

莉子は時折スキップをしながら 有頂天と言った様子で 職場までの道のりを歩く

すると

随分と楽しそうね？

背後から聞き覚えの ある声が聞こえてくる

莉子は恐怖に引き攣った顔で 背後に振り向く

そこに立っていたのは千寿だった

莉子はその場から 逃げ出そうとする

莉子は声を荒げる千寿に 恐れ慄いて足が止まる

千寿は不敵な笑みを浮かべる

千寿が口にしたのは 音弥の家の住所だった

莉子の顔は青ざめ 額からは冷や汗が溢れ出す

その場を去ろうとすり千寿を 莉子が声を荒げて呼び止める

莉子に危険が迫っている事など 知る由もない音弥は

晩御飯の為に 冷蔵庫の中身を確認していた

音弥はハンバーグを食べる 莉子の姿を想像して笑みをこぼす