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目を開けると辺りは夜… 月も姿を隠した闇紫の空… 降りしきる雨が激しさを増す中 私はぬかるんだ地面を仰向けの姿で倒れていた… 立ち込め、臭うのは… 雨に湿気った草や路上の生臭さと… 他のものとは間違いようのない 鼻を突く硝石と火薬の臭いだ…
保安官
どこかから馬の足音が響いて来るのが聞こえた… それも一つや二つじゃない…
保安官
胸から背にかけて強烈なまでの激痛が走る…
器官の奥から生暖かい液体が込み上げてくる感覚に襲われ… それは口元から溢れ出しながら流れ落ちていく… 辛うじて動く手で拭いそれを見ると…
保安官
???
保安官
それは、保安隊の若手で… 私の部下でもあるジョンソンのものだ。 ブラウンのテンガロンハットを被り… 私の目の前で片膝を着いてしゃがみこんだ…
ジョンソン
保安官
自分の身体を首から上だけ動かして見る… すると… そこには片手に握る太さはある長い木の破片が、私の胸元深くに突き刺さっていた…
保安官
思い出した… 護衛していた輸送物資を積んだ馬車が襲われたんだった… 脇道に潜んでいた敵に気づかず… 通りがけに放り投げられたダイナマイト… 導火線が燃え尽きるのが見えて… 騎手を庇った拍子に爆風で吹き飛ばされたんだ…
保安官
ジョンソン
保安官
悔しい… 善良な市民を死なせてしまった… その次の瞬間だ…
パァン!パンパァン!!!
遠くから乾いた破裂音が何発も響くと同時、命中したり跳ね飛んだりする音を響かせていた… 音から察するに、数人からなる敵の射撃音だ。
ジョンソン
ジョンソンが、私をかばいながら腰元のホルスターからシングルアクションを引き抜いて応戦する…
レッドアイブス… この近辺で強盗行為を繰り広げる連中だ… 構成員は数十人に登る…
ダメだ… 今回護衛として参加した保安隊は確か4人程度… 圧倒的に不利だ こうしてはいられない…
保安官
器官に血が詰まる…上手く声が出せない…!
ジョンソン
保安官
ジョンソン
苦しい等思っていられない… 伝えねば…!
保安官
ジョンソン
保安官
一瞬視界が真っ暗になった… 限界が近い…
最後の力を振り絞って… 私の胸元から、保安官の証たるシルバースターを引きちぎる… 本来は汚れなき白銀だった 今は爆炎にあぶられ燻銀と化したそれをジョンソンに差し出す。
保安官
ジョンソン
一瞬目元に涙を浮かべたジョンソンが顔を背ける… そして、覚悟を決めた顔で私のバッチを掴んで言い放った…
ジョンソン
あぁ…とても凛々しく…立派な表情だ… 背を向け、飛び交う銃弾の中を駆け抜ける… その後ろ姿を見守りながら… 徐々に瞼を閉じていった…
…薄れゆく意識の中、いくつもの記憶が頭をよぎった。
これが走馬灯というものなのだろう…
思えば…ロクな時代で無かった…
両親が殺され…
戦う為に銃を取り…
多くの無法者を捕らえた…
馬に跨り…
騎兵隊を指揮し…
南軍の砲声響く鉄火場を駆け抜けた…
そんな中でやっと最愛の人ともめぐり逢えた…
数えられる程の部下と共に誇りを持って街の平和も守った…
こんな形で終わってしまうとは…
いや…悪党とはいえ私も人を手にかけた…
殺される覚悟はできている…
………
そうして…私の意識は…静かに消えた…
1875年、12月4日… アメリカ西部ネバダ… 広大な荒野の中 保安管█████・████ 隣町への現金輸送護衛の折 近隣にて指名手配を受けるレッドアイブス強盗団の待ち伏せを受け戦死… 投擲されたダイナマイトによる 深度3相当の上半身火傷 及び破壊された馬車の車輪片による 心臓損傷と出血多量が死因である 享年38歳、自由と暴力が蔓延る時代にも関わらず、善良な人々が平和に生きる姿を愛する… 博愛精神に溢れる正義の守り手であった…