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コメント
1件
うわ、このエピソードめっちゃ良かったです!看護師長さんの不動明王エピソードから始まって、怖い話の幽霊を一本背負いって…笑いと恐怖のバランスが絶妙でした。真紀さんの「私の筋肉はまだ燃えている!」には声出して笑っちゃいましたよ。でも一番響いたのは高瀬さんの「戦うことだけがすべてじゃない」って言葉。能力者としての生き方の多様性を感じさせてくれるシーンでした。看護師長の陰口を聞いた時のハルくんのモヤモヤした気持ちもすごく共感できて、この作品の優しさを感じる回でしたね。次も楽しみにしてます!
つうん@📚🐟💙
594
羽海汐遠
13,549
#群像劇
えぬた
202
夜の帳と不動明王
その夜
ハル
病室の白い壁に掛けられた丸い時計を見上げ、俺は思わず固まった。
ハル
時計の下には、ラミネート加工された無情なプレートが貼られている。
『消灯 22:00』
ハル
思わず声が裏返った。
ハル
真紀
隣のベッドから、消灯時間とは思えないほど 元気な声が飛んできた。真紀さんだ。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀さんはベッドの上で、子どものようにバタバタと足を暴れさせた。
真っ白なシーツがぐしゃぐしゃになる。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
口を尖らせて、心底不満そうに唸る。
俺はため息をつきながら、枕元のスマホを手に取った。
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀さんは
真紀
と頬を限界まで膨らませ、そのままベッドへ仰向けに倒れ込んだ。
スプリングが軋む音が病室に響く。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
俺は慌ててベッドから身を乗り出し、人差し指を口元へ当てた。
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
その、瞬間だった。
看護師長
空気が、完全に凍りついた。
俺と真紀さんは、錆びた機械のようにゆっくりとドアの方へ首を向ける。
そこには、看護師長が立っていた。
腕を組み、無表情。
足音一つ立てず、暗がりに静かに佇んでいる。
……怒ってる。
いや。単なる怒りなどという生易しいものではない。
俺にははっきりと見えた。 彼女の背後に、紅蓮の炎を背負った不動明王の幻影が。
真紀
ハル
看護師長
ハル
俺はベッドの上で即座に正座し、深く頭を下げた。
すると。
看護師長
隣の気配が動かない。
横目で盗み見ると、真紀さんが口を半開きにしたまま石化していた。
ハル
真紀
我に返った真紀さんは、勢いよくスライディング土下座のような姿勢をとった。
真紀
看護師長は、氷点下の空気を纏ったまま小さくため息を吐いた。
看護師長
ハル
看護師長
ハル
看護師長
一拍置いて。鋭い眼光が俺たちを射抜く。
看護師長
ハル
看護師長
ハル
真紀
看護師長はそれだけ言うと、背中の炎を揺らしながら静かに病室を出て行った。
カチャン、とドアが閉まる音。
その瞬間、俺と真紀さんは同時に肺の空気を全部吐き出した。
ハル
真紀
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
二人で暗闇の中、顔を見合わせる。
ハル
真紀
ハル
真紀
その夜。俺たちは消灯時間の病院で、命に関わる大切な真理を一つ学んだ。
この病院で一番逆らってはいけないのは、看護師長だ。
病院の怪談と最強伝説
翌日の昼。
午前中の診察も終わり、俺と真紀さんは松葉杖をつきながらリハビリ室へ向かう廊下を歩いていた。
ハル
真紀
ハル
真紀
真紀
ハル
そんな生産性のない会話をしていると。
看護師
前方からカルテを持った若い看護師さんが歩いてきた。
看護師
ハル
真紀
看護師さんは俺たちの顔を見るなり、クスクスと苦笑した。
看護師
ハル
看護師
ハル
真紀
俺と真紀さんは顔を見合わせる。
ハル
看護師
ハル
看護師
ハル
真紀
看護師さんは吹き出した。
看護師
ハル
看護師
ハル
真紀さんが腕を組んで唸る。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
しまった。二人同時に口を噤む。
看護師さんは不思議そうに小首を傾げた。
看護師
ハル
俺は必死に作り笑いを浮かべる。
ハル
看護師
ハル
その横で、真紀さんがボソッと呟く。
真紀
ハル
真紀
看護師さんはカルテで口元を隠し、肩を震わせて笑っていた。
看護師
ハル
真紀
ハル
看護師
真紀
真紀さんはビシッと敬礼した。
ハル
真紀
ハル
俺が突っ込むと、看護師さんがふと思い出したように言った。
看護師
ハル
看護師
ハル
背筋に嫌な汗が伝う。
ハル
看護師
ハル
真紀
真紀さんが目を輝かせて俺を見る。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
真紀さんが、ギチィッと拳を握り込んだ。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
看護師さんは笑いを噛み殺しながら、少しだけ声を落とした。
昼間の明るい廊下なのに、空気が急にひんやりと冷たくなる。
看護師
ハル
看護師
ハル
真紀
俺は息を呑んだ。
隣を見ると、さっきまで元気だった真紀さんが無表情で固まっている。
看護師
看護師さんがゆっくりと続ける。
看護師
ハル
看護師
…………沈黙。
普通に怖い。オチのないリアルな怪談は一番タチが悪い。
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
俺は自分の右腕を見た。
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
真紀さんは無言でパッと手を離した。
真紀
ハル
真紀
ハル
看護師さんがたまらず吹き出した。
病院の廊下に、緊張を解きほぐすような笑い声が響いた。
その日の午後
俺たちはリハビリ室で汗を流していた。
理学療法士
担当の理学療法士さんが、笑顔で記録ボードにペンを走らせる。
ハル
理学療法士
俺がゴムバンドを引っ張る横で、真紀さんは鬼のような 下半身トレーニングを強いられていた。
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
真紀
新人の理学療法士
新人の理学療法士
真紀
思わず笑ってしまう。そんな俺を見て、理学療法士さんが小さく笑った。
理学療法士
ハル
理学療法士
俺はゴムバンドを引っ張ったまま固まった。
ハル
理学療法士
ハル
理学療法士
絶対ナースステーションのグループLINEだ。
理学療法士
理学療法士さんが、少し声を潜めた。
理学療法士
ハル
理学療法士
一拍置く。
理学療法士
ハル
真紀さんがスクワットの姿勢でピタリと止まった。俺も手を止める。
真紀
真紀さんが前のめりになる。
真紀
理学療法士
ハル
真紀
深い沈黙。
ハル
俺は思わず聞き返した。
理学療法士
ハル
理学療法士
ハル
理学療法士
ハル
頭の中で映像が再生される。
夜の病院。薄暗い廊下。ふわりと現れる白いナース服の怨霊。
そこへ現れる、炎を背負った看護師長。
『オラァ!』
襟首を掴み、見事な背負い投げ。
ドォン!!
ハル
理学療法士
理学療法士さんは笑いを堪えきれない様子で続ける。
理学療法士
ハル
真紀
ハル
理学療法士
ハル
理学療法士
ハル
真紀さんが腕を組んで深く頷いた。
真紀
ハル
ハル
理学療法士
ハル
理学療法士
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
リハビリ室に笑い声が広がる。
リハビリを終えた翌日の午後
俺たちは真紀さんと荷物をまとめ、ついに病院の玄関までやって来ていた。
数日しかいなかったはずなのに、見慣れたロビーの景色が不思議と少し名残惜しく感じる。
ハル
真紀
俺たちが深く頭を下げると、担当医はカルテを小脇に抱えながら困ったように笑った。
担当医
ハル
担当医
先生の表情が、スッと真顔になる。
担当医
ハル&真紀
担当医
若い看護師
横にいた若い看護師さんがからかうように笑う。
ハル
若い看護師
ハル
そんな和やかなやり取りをしていると。
看護師長
空気をピリッと引き締める、聞き慣れた低い声が響いた。
反射的に俺と真紀さんの背筋が伸びる。
ハル
真紀
振り返ると、相変わらず隙のない姿勢で立つ看護師長がいた。
白衣にはシワ一つなく、歩く姿は病院の規律そのものを背負っているかのようだ。
看護師長
ハル
看護師長
ハル
看護師長
ハル
毅然とした、でもどこか優しい口調だった。
その言葉には、今まで何人もの患者を見送ってきた人間の確かな重みがあった。
看護師長
看護師長が俺を見る。
看護師長
ハル
看護師長
看護師長
ハル
図星を突かれ、一瞬だけ言葉が詰まった。
ハル
それしか言えなかった。見透かされている気がした。
すると、真紀さんが
真紀
と元気に前に出る。
真紀
看護師長
真紀
看護師長
真紀
看護師長
真紀
看護師長
真紀
看護師長
周囲のスタッフからドッと笑いが漏れる。
若い看護師
担当医
ハル
真紀
真紀さんが頬を膨らませる。
その様子を見て、看護師長も、ほんの少しだけ口元を緩めた。
本当に一瞬の、柔らかな笑顔だった。
看護師長
ハル
真紀
俺たちが深く頭を下げると、看護師長は軽く頷き、踵を返して病院の奥へと歩いていった。
自動ドアが閉まりかけた、その時だった。
少し離れたナースステーションの方から、ひそひそとした声が聞こえてきた。
看護師A
看護師B
看護師C
看護師A
看護師B
くすくすと笑う声。
すると、さっきまで俺たちと笑っていた若い看護師が、小さくため息をついた。
若い看護師
看護師A
若い看護師
若い看護師
看護師C
若い看護師
看護師B
周囲が苦笑で同調する。そこへ年上の看護師が少し困ったように言った。
年上の看護師
若い看護師
看護師B
少しだけ間が空く。
そして、一人がぽつりと漏らした。
若い看護師
空気が止まる。
年上の看護師
看護師A
若い看護師
看護師C
若い看護師
誰かが苦笑して、慌てて話を終わらせようとする。
その時
若い看護師
小さな、だが確かな笑いが起こった。
深い悪意があるわけじゃない。
日々のストレスからくる、ただの愚痴。
冗談交じりの世間話。それだけのはずだった。
俺は、ふと病院の奥へ目を向けた。
長い廊下の先
看護師長は立ち止まることなく、一定のペースで歩いている。
距離的に聞こえていないはずだ。……そう思った。
だけど、ほんの一瞬だけ。
白衣の袖の下で、彼女の握った拳に、ぐっと力が込められたような気がした。
その背中は、不動明王なんかではなく。
ただ、病院という巨大な組織の責任を一人で背負う、孤独で不器用な大人の背中に見えた。
真紀
真紀さんが俺の顔を覗き込む。
真紀
ハル
俺はゆっくりと首を横に振った。
ハル
気のせいだったのかもしれない。そう思うことにした。
俺なんかが立ち入っていい問題じゃない。
自動ドアが静かに開く。
振り返ると、看護師長はもう角を曲がり、姿を見えなくなっていた。
外へ出ると、むっとした夏の空気が全身にまとわりついた。 アスファルトからは陽炎が立ち上っている。
真紀
真紀さんが両腕を大きく広げた。
真紀
そのまま、空に向かって大きく伸びをする。
入院生活から解放された純粋な喜びが、弾けるように伝わってきた。
真紀
ハル
真紀
ハル
俺が苦笑した、その時だった。
田中
だみ声が飛んできた。
見ると、病院の駐車場の端っこに、一台の古びたセダンが停まっていた。
塗装は剥げかけ、車体には細かな傷がいくつも走っている。
その横で、くたびれたスーツを着た男が片手を上げていた。
ハル
真紀
田中さんは吸っていた煙草を携帯灰皿へ乱暴に押し込み、面倒くさそうにこちらへ歩いてきた。
スーツからは微かにヤニの匂いがする。
田中
ハル
田中
田中さんは短く頷く。言葉はそれだけだった。
でも、その鋭い眼光は俺と真紀さんの全身を、頭の先からつま先まで一度じっくりと舐め回すように確認していた。
怪我の具合はどうか。ちゃんと自分の足で歩けているか。
無言の中に、確かな安堵が混じっているのが分かった。
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中
真紀さんがニヤニヤしながら田中さんを小突く。
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
ぴしゃりと遮られる。
田中
真紀
真紀さんがジリジリと照りつける太陽を見上げる。
真紀
田中
真紀
ハル
俺たちは笑いながら、熱を帯びた車へ向かった。
助手席へ真紀さんが飛び乗り、俺は後部座席へ腰を下ろす。
ドアが閉まると、田中さんがキーを回した。
キュルキュル……ブルルルルン!
少し苦しそうな、今にもエンストしそうなエンジン音が響く。
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中さんはフッと鼻で笑い、ギアをドスッと入れてゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
古いセダンは病院を後にし、逃げ水が揺れる夏の街へと走り出した。