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つうん@📚🐟💙
594
羽海汐遠
13,549
#群像劇
えぬた
202
病院を出ると、街並みがゆっくりと流れ始める。
しばらく無言で景色を眺めていると、田中さんが前を向いたまま口を開いた。
田中
ハル
田中
俺は窓の外へ目を向ける。
総合病院。
研究施設。
製薬会社のビル。
白衣姿の人たちが行き交う街。
ハル
田中
田中さんが小さく笑う。
田中
田中
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中
ハル
思わず笑ってしまう。
すると助手席の真紀さんが、突然前を指差した。
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
真紀
病院を出る直前に聞こえてきた噂話が頭をよぎる。
――鬼看護師長が笑った。
あれは一体、何だったんだろう。
真紀
ハル
真紀
ハル
慌てて我に返る。
ハル
真紀
真紀さんが満面の笑みを浮かべた。
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
結局、田中さんは文句を言いながらもサービスエリアへ車を入れた。
数分後
車内にはハンバーガーやポテトの香ばしい匂いが広がっていた。
ハル
袋を開けようとして、俺は首を傾げる。
ハル
田中
ハル
助手席の真紀さんが嬉しそうに箱を掲げる。
真紀
真紀
ハル
真紀
箱に描かれているのは、発光する頭を持った奇妙な生き物。
可愛いと言うには、かなり独特な見た目だった。
真紀
真紀
ハル
俺は少し考える。
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
ハル
田中
運転席から田中さんが呆れた声を出す。
田中
ハル
俺が笑うと、田中さんも小さく笑った。
田中
高速道路を降りる。
やがて景色は医療街から工業街へ変わり、巨大な工場や倉庫が並び始めた。
さらにその先
見慣れた街並みが姿を見せる。
探偵事務所のある街だった。
田中
田中さんが思い出したように口を開く。
田中
ハル
ハル
田中
真紀
田中
信号待ちで車が止まる。
田中
ハル
田中
ハル
田中
ハル
田中
その一言で、車内の空気が少しだけ変わった。
胸の奥がざわつく。
田中
田中
俺は静かに頷いた。
田中
ハル
田中
田中さんはルームミラー越しに俺を見る。
田中
ハル
少しだけ緊張が走る。
だが次の瞬間
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
田中
真紀
思わず笑いがこぼれる。
さっきまで張り詰めていた空気が、一気に和らいだ。
田中
田中さんが煙草を灰皿へ押し付ける。
田中
古いセダンが事務所の前でゆっくりと止まる。
田中
エンジンを切る。
静かな車内で、田中さんがぽつりと言った。
田中
その言葉だけが、妙に胸へ残った。
コンコン。
探偵事務所の扉が、静かに二度叩かれた。
室内に流れていた穏やかな空気が、その音だけでわずかに張り詰める。
田中
ソファに腰掛けていた田中さんが、低く呟いて顔を上げた。
僕と真紀さんも、自然と入口へ視線を向ける。
すると、扉の向こう側から、聞き覚えのない 言い争うような声が聞こえてきた。
謎の女性
謎の男性
謎の女性
謎の男性
幻夜
呆れ混じりの、聞き慣れた声が割って入る。
ハル
僕が思わず呟くと、田中さんはやれやれといった様子で眉をひそめ、真紀さんは首を傾げた。
真紀
ハル
耳を澄ませる。
真紀
謎の女性
謎の男性
幻夜
田中
田中さんが深い溜息を吐いた、その時だった。
ガチャリ、と扉が開く。
幻夜
先頭で入ってきたのは幻夜さんだった。相変わらずの飄々とした笑みを浮かべたまま、ひらりと手を上げる。
その後ろから、一人の女性が静かに一礼して続いた。
謎の女性
柔らかな笑顔。落ち着いた口調。どこか上品さを感じさせる物腰。
桜
丁寧な自己紹介。なのに、なぜだろう。
その整った笑顔の奥に、肌を刺すような妙な圧を感じる。 優しいはずなのに、どうしようもなく近付けない。
そんな得体の知れない存在感を纏っていた。
幻夜
幻夜さんが横へと促す。
幻夜
白石
軽く手を上げて笑う青年。 整った顔立ちに爽やかな笑顔、すらりとした長身。
まるで少女漫画から飛び出してきたような、隙のないイケメンだった。
その瞬間。
真紀
真紀さんが素っ頓狂な声を上げた。
真紀
ハル
真紀
ハル
真紀
白石さんは照れくさそうに後頭部を掻いた。
白石
桜
即座に桜さんが切り捨てる。
白石
桜
白石
本気で困惑する白石さんをよそに、桜さんは完璧な笑顔を崩さない。
桜
白石
……この二人、どうやら普段からこんな調子らしい。
呆気にとられる僕たちをよそに、田中さんが顎をしゃくった。
田中
桜
桜さんが椅子へ腰を下ろす。 白石さんも向かいへ座り、僕たちもそれぞれの定位置についた。
先ほどまでの賑やかさが嘘のように、室内の空気が引き締まっていく。
幻夜さんが田中さんを見た。
幻夜
田中
田中さんは首を振る。
田中
白石
白石さんの表情から、先ほどの軽口がスッと消えた。
彼は鞄から一枚の調査書を取り出し、机の中央へと置く。
自然と、全員の視線がそこに集まった。
白石
一拍置く。白石さんの声音が低くなった。
白石
僕の背筋が、冷たいもので撫でられたようにピンと伸びた。
異様なまでの白に包まれた世界。
あの男の、不気味な笑み。今でも鮮明に思い出せる。
白石
白石さんは静かに、しかしはっきりと告げた。
白石
部屋の空気が、さらに重くなる。
白石
白石さんは、資料の文字に視線を落とした。
白石
聞いたこともない名前だった。
だが、それに続く言葉が、僕の心臓を嫌な音で跳ねさせた。
白石
白石
ハル
思わず、間抜けな声が漏れた。
ハル
白石
白石さんはゆっくりと頷いた。
白石
机の上に、一枚の写真が滑らされる。
白石
差し出された写真に視線を落とした瞬間、僕の息が完全に止まった。
ハル
間違いない。白髪。穏やかでありながら底知れない、あの笑み。
あの『白い世界』で僕たちの前に立ち塞がった男、そのものだった。
ハル
自分でも驚くほど、かすれた声だった。
ハル
真紀さんも写真を覗き込み、青ざめた顔で小さく頷く。
真紀
事務所の中が、シンと静まり返る。誰もすぐには言葉を発せなかった。
やがて、白石さんが小さく息を吐き捨てる。
白石
僕は思わず両手で頭を抱えた。
田中
ハル
苦笑するしかなかった。
ハル
田中
田中さんは腕を組み、唸るように息を吐く。
田中
その一言で、全員の意識が再び田中さんに引き戻された。
田中
静かだが、重みのある声だった。
田中
部屋の空気がさらに澱む。
田中
一拍。
田中
さらに一拍。
田中
その断言に迷いはなかった。だからこそ、疑問の濁流が押し寄せる。
ハル
僕は写真の男を見つめながら呟いた。
ハル
誰も答えられなかった。静寂だけが、重く事務所を支配する。
その沈黙を破ったのは、やはり幻夜さんだった。
幻夜
その顔から、いつもの飄々とした笑みは綺麗に消え失せていた。
田中
ゆっくりと、田中さんがもう一枚の写真を取り出した。
田中
机の上へ置かれた写真を見た瞬間、僕たちは自然と身を乗り出した。
写っていたのは、一人の女性だ。二十代前半くらいだろうか。
柔らかな笑みを浮かべ、古い石造りの建造物を背に立っている。
写真自体はひどく古びて、端が黄ばんでいた。だが、それ以上に目を引くものがあった。
女性の背後に広がる、およそ現実離れした巨大な遺跡。
崩れかけた石柱。苔むした階段。 そして、見たこともない複雑な紋様が刻まれた巨大な石壁。
ハル
白石さんが目を細める。田中さんが静かに口を開いた。
田中
ハル
幻夜さんの表情が曇る。
幻夜
田中
田中さんは短く頷いた。
幻夜
桜
桜さんが鋭く眉を寄せる。
田中
幻夜さんは肩をすくめる。
幻夜
田中さんは写真を指先で軽く叩く。
田中
ハル
真紀さんが首を傾げる。
真紀
田中
言われて、全員がもう一度目を凝らす。
白石さんが写真を手に取り、光にかざして角度を変えた。
桜さんも目を細め、僕も遺跡の隅々まで視線を走らせる。
石柱。崩れた壁。奥へ続く暗い通路。どこに違和感がある?
真紀
白石さんが唸る。
白石
桜
桜
桜さんが冷静に分析する。
幻夜
即座に否定したのは幻夜さんだった。
幻夜
ハル&真紀
僕たちが顔を上げると、幻夜さんは写真から目を離さないまま、田中さんへ問いかけた。
幻夜
田中
幻夜
その問いに、室内の空気がピタリと凍りついた。
ハル&真紀
僕と真紀さんの声が綺麗に重なる。 桜さんも、さすがに珍しく表情を強張らせた。
桜
白石さんだけが、何かを察したように黙ったまま写真を見続けている。
田中さんは小さく息を吐いた。
田中
吸いかけの煙草を灰皿へ押し付ける。
田中
ハル
誰も、すぐにはその言葉の意味を呑み込めなかった。
ハル
僕がようやく声を絞り出す。
田中
田中
背筋を、耐えがたい寒気が這い上がった。
ハル
田中
田中さんは腕を組む。
田中
ハル
誰も反論できなかった。現実味のない話だ。
だが、その写真だけが生々しく机の上で存在感を放っている。
気味が悪い、という言葉すら生ぬるかった。
田中さんは、隣に座る白石へ視線を向けた。
田中
白石
白石さんは写真を見つめたまま、納得したように頷く。
白石
まず人差し指を立てる。
白石
次に中指を立てる。
白石
ハル
僕は小さく呟く。
ハル
白石
白石さんの表情が、専門家のそれに切り替わる。
白石
白石
真紀
真紀さんが身を乗り出す。
白石
白石さんが僕たちを見る。
白石
ハル
僕はあの閉ざされた空間の異様な感覚を思い出し、頷いた。
白石
白石
ハル
白石
白石さんの声音から、冗談めいた響きが消えていた。
白石
白石
ハル
白石
その一言に、全員が息を呑んだ。
白石
白石
白石
桜
そこまで言って、白石さんは苦笑した。
白石
白石
その言葉に、事務所の空気が完全に凍り付いた。
真紀
真紀さんが小さく呟き、桜さんも眉間を抑える。
桜
幻夜さんは苦笑すら浮かべず、ただ小さく首を振った。
幻夜
一拍置いて、深く息を吐き出す。
幻夜
幻夜
誰も何も言えなかった。
写真の中で、少女は変わらず柔らかな笑みを浮かべている。
その笑顔だけが妙に鮮明で、見れば見るほど背筋が凍るようだった。
静寂が再び事務所を支配する。
その沈黙を断ち切るように、幻夜さんがゆっくりと口を開いた。
幻夜
その言葉に、田中さんが静かに顔を上げた。
重苦しい沈黙の中、誰もが写真から目を離せずにいた。
五十年前には消えたはずの遺跡。二十年前に死んだはずの男。 そして、今なお終わらない神隠し。
それらが、目に見えない糸で一本の線へと結ばれようとしている。
その事実だけで、十分すぎるほど脅威だった。
やがて、幻夜さんが息を整える。
幻夜
田中
幻夜
幻夜さんは苦笑しながら肩をすくめる。
幻夜
幻夜
幻夜
そして、幻夜さんの視線が、僕たちを真っ直ぐにとらえた。
幻夜
田中
幻夜
幻夜
事務所の空気がピリッと張り詰める。
田中さんは少しだけ考えるように顎に手を当てた。
田中
そして、平然と言い放つ。
田中
ハル
思わず僕はツッコミを入れた。
ハル
真紀
呆れ顔の僕たちをよそに、田中さんは至って真面目だった。
田中
田中
幻夜さんは呆れたように、しかしどこか嬉しそうに頷く。
幻夜
田中
ハル
桜
田中
真紀
田中
田中さんは当然のように言い切り、幻夜さんが思わず吹き出した。
幻夜
田中
幻夜
張り詰めていた空気が、わずかに和らぐ。だが、それも一瞬だった。
幻夜さんはすぐに表情を引き締める。
幻夜
幻夜
桜
白石
桜さんは笑顔を絶やさぬまま、ぴくりと眉を動かす。
桜
白石
白石さんも慌てて立ち上がる。
白石
幻夜
白石
幻夜
白石
白石さんが頭を抱え、桜さんは笑顔のまま静かに凄む。
桜
幻夜
桜
白石
幻夜
桜
白石
田中さんがやれやれと溜息を吐いた。
田中
桜
白石
幻夜
事務所に、小さく乾いた笑いが広がる。
その様子を眺めながら、幻夜さんはやれやれと首を振った。
幻夜
桜
桜さんが、これ以上ないほど美しい笑顔で問いかける。
幻夜
桜
幻夜
白石さんは天井を仰ぎ見た。
白石
幻夜
白石
そんな二人のやり取りを見て、真紀さんはくすりと笑う。
真紀
桜
白石
真紀
桜
桜さんは軽く咳払いを一つして、すっと背筋を伸ばした。
桜
彼女が立ち上がると、白石さんも慌てて鞄を引っ掴んだ。
白石
二人が出口へ向かう。 その途中、桜さんは一度だけ足を止め、ふわりと振り返った。
桜
田中
桜
田中
田中さんは短く頷く。
田中
桜
桜さんは、どこか温度のない、けれど鮮烈な笑みを浮かべた。
桜
ガチャリ、とドアが開く。
白石
桜
白石
賑やかな足音が遠ざかり、重い扉が静かに閉まった。
再び、事務所の中に静寂が戻る。
田中
田中さんが小さく呟き、僕は机の上の写真に視線を戻した。
神山陸斗。消えた遺跡。神隠し。
頭の中で整理しようとしても、新たな謎が次々と積み重なっていくばかりだ。
真紀
ハル
真紀
僕は少しだけ考え込み、それからもう一度、色褪せた写真へと視線を落とした。
ハル
それだけは、痛いほど分かった。
ハル
田中さんが新しく取り出した煙草に火をつけ、紫煙がゆらゆらと天井へ昇っていく。
田中
ハル
僕は写真を見つめ続けた。
どこか幸せそうに笑う少女の表情は、見れば見るほどひどく不気味で、歪んで見えた。
二十年前に死んだはずの男。
五十年前から存在しないはずの遺跡。
今この瞬間も続いている、終わりの見えない神隠し。
点と点でしかなかった出来事が、音もなく一本の線へと繋がり始めている。
その時の僕は、まだ知らなかった。
この依頼が、僕たちの日常を根底から粉々に叩き壊すことになるなんて。
そして”異形”という存在が持つ、本当の恐ろしさを目の当たりにすることになるなんて。
コメント
1件
いやー、今回も面白かったです! 真紀さんと田中さんの車内のやりとり、あの騒がしさが日常の温かさを感じさせて好きです。それでいて、白髪の男が「二十年前に死亡した」って知らされた時のハルくんの衝撃、すごく伝わってきました。そして石神教授の娘さんの写真の遺跡が「五十年前に消えた場所」って…。日常と非日常のギャップがゾクゾクしますね。明日の情報共有が楽しみで怖い。続き、気になります!