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消えたい 静かになくなりたい

ここにいれば いずれその切望が 現実のものになるかもしれないと かすかに予感していた

ぼくにとりついた悪魔は ぼくの思考すべてを 悪性の腫瘍に取り換えてしまった

この先踏んばって生きていくことも あるいは首を吊って自裁することも

どちらも選択できない 無という名の闇に従属してしまった心

ぼくはそれに操られて 身体をここへ運ばせる

毎日 高校に行くとうそぶいて 電車に揺られるまま 終着点へ進行する

このK駅で日が暮れるまで 意味の無い時間を浪費する

どこに赴いても 存在を許諾されないぼくには ただこの場所だけが逃げ場だった

ホームの長椅子に腰かけ 不味い弁当を咀嚼して

モノクロームの街並みを うち眺める

なににも動じなくなってしまった この心はもう癒されなくていい

ただ楽になりたい それに拘泥するだけ

ただ暗くなるまで こうしていよう

そのつもりだった 「それ」と邂逅するまでは

琉斗

…今日も、かな

なにかの気配を感じて振り向くと そこには

制服姿の女の子がひとり ぼくを見下ろすようにして立っている

あ…

その少女と会うのは5回目だった

最初は偶発的な出来ごとだと思った

しかしそれは単に たまたまそうなっているわけでは ないということを

少女の顔つきが物語っているように ぼくには思えた

ぼくがずっと少女を凝視していると 不思議なことに

少女もぼくを 渇望するような目つきで 見つめ返しているのだった

あ…

少女はホームと外部とを 隔てている金網に

右手の手のひらを 押し当ててきた

あ…

意味を成さない彼女の発声

何度か 金網に押し当てた手を揺すると

フェンス全体が がたがた音を立てた

あ…!

少女は涙を流しながら ぼくになにかをうったえかける

かといってぼくになにができる? 少女を救うことはおそらく困難だ

そもそも何から 救うというのか

ぼくはせめてもと 金網ごしに自らの手のひらを

少女のそれに重ね合わせた

琉斗

…うっ!

するとからだに電気が走り 何かが一瞬にして 空中にとけ込んだ気がした

おもわず尻もちをついてしまった

それとともに 身体が少し軽くなったような気がした

琉斗

いてて…

みあげると 少女は両手のひらをみて ぽたぽたとなみだを落としていた

これ、わたし…

わたし、はる…

わたし、ことば、しる…

なにに感激しているのか わからなかった

ぼくも自らの手のひらを見た

すると不思議な感覚を覚えた まるでなにかが抜け去ったような

あるいは身体にまとわりつく 重みがなくなったような

きて、もう、いっかい

少女はふたたび 手のひらをフェンスに押し当てた

ぼくはまるでそれに操られるように 立ち上がって手のひらを重ねた

するとまたからだに 電気がはしる感覚があった

少女はぼくを見つめて 自らの頬の涙を拭いた

ありがとう

わたし、春っていうの

この日を、待っていた

あなたなら、と思ってた

あなたの、名前は?

鈴がなるような可愛らしい声の春

ぼくは久しぶりに声をだす

琉斗

ぼくは、琉斗

琉斗

なんだか不思議だよ

なにが?

琉斗

うまく言葉にできないけど…

身体が少しだけ 軽くなったような気がするのだ

琉斗

いったいさっきどうやって

琉斗

魔法みたいな…その、なにをつかったの?

そう聞くと 春はまた手のひらを押し当てた

ねえ、また、して

ぼくもそれをやり返す

手を重ねると ぼくのなかでなにかが弾ける音がした

なるほど 手が重なるたびに

ぼくの心が軽くなっていくのだ

琉斗くん…

春はいっかい金網から手をはなす

琉斗くんは、辛かったんだね…

琉斗

えっ

琉斗

どういうこと?

わたしね

さっきから琉斗くんの言葉を

わたしのものにしていってたんだ

春はすこし顔を下にむけた

わたしには言葉を吸収する力がある

さっきみたいに手を重ねて

これまではうまくいかなかったけど

今回はとてもうまくいってる

琉斗くんのおかげなんだよ

琉斗

そんなことないよ

琉斗

ぼくはただ…

不登校だった

春はぼくの言葉から 節を繋げたように言った

学校から遠ざかるうちに

戻ることが怖くなって

生きることも死ぬこともできず

この駅まで来る毎日を過ごしている

そのうちに戻ることを忘れてしまった

…でしょ?

ぼくは口を開けていた

琉斗

なんでそれを

ごめんね

わたしは、琉斗くんから言葉を吸収したの

わたしも昔何度も死のうと思ったから

琉斗くんの気持ち

とってもわかるよ

少し小さな声で話す春 ぼくに同情してくれているみたいだ

ただ不思議なことに

いまは苦しさを感じない

まるで不登校になってしまった事実が 信じられないくらい

気分が晴れている

琉斗

そうかあ

琉斗

でも

琉斗

ぼくもなんだか楽になれた気がするなぁ

琉斗

ありがとう

すると春はくしゃっと笑った

素敵な笑顔だ

春の笑顔が こんなに素敵だとは思わなかった

ねぇ、もしよかったらでいいけど

もういっかい、だめ?

春はフェンスに手を触れる

断ることはない ぼくの言葉で彼女を幸せにできるなら

それはとても幸福なことだからだ

もしかしたらこの先に 彼女と仲間になる日が あるのかもしれない

ぼくは春をみて笑い返し 手を合わせた

きっとぼくは 幸せになる方法を 見つけたんだ

またあの感じがきた

…ん?

これは、この言葉は…!?

琉斗くん!

声が きこえる

琉斗

ぼくは

なにも わからない

琉斗くん、お願いだからやめて!

すぐ行く!そこから動かないでっ!

やめて? なにを、やめて?

分からない

春 消えた

ぼく ひとり

琉斗

ぼくは

かんかんかん 音

まぶしい ひかり

琉斗

ぼくは

うるさい 大きい音

琉斗

ぼくは

もう 行かなくちゃ

ひかりの さきへ

はやく

はやく

はやく

琉斗

さよなら

からだ

だれかに つつまれた

ごめんなさい…ごめんなさい…

琉斗くんにわたしがこんなことしなければ

こんなことにならずに済んだのに

琉斗

ぼくは

こめんね…琉斗くん…

わたしは琉斗くんの言葉を吸い取ってしまった

奪ってしまった

もう元には戻らない

でも琉斗くん

最後までほんとうに苦しかったんだね

最後にその苦しみも

わたしがなくしてあげる

手 かさなった

琉斗

ぼくは

大丈夫

わたしが琉斗くんを守るよ

ぼくは

これでもう大丈夫

琉斗くんがまた動けるようになったら

一緒にどこか遠いところへ

旅行にでもいこうね

ぼくは

琉斗

あ…

ね、約束だよ

琉斗

あ…

ぼくは

大丈夫、わたしは琉斗くんの気持ち

ちゃんとわかるよ

琉斗

あ…

ありがとう、琉斗くん

ぼくは

きみが

すきだった

Fin. 最後までお読みくださり ありがとうございました

この物語は フィクションです

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