この作品はいかがでしたか?
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山本 智
前から歩いてきたヤツに
声をかけられた.
ちなみに"タク"っていうのは
俺のあだ名.
拓斗(タクト)だから"タク"。
目を細めてジッと見つめる.
かなりの至近距離に近づいて
ようやくわかった.
小学校からの心友、智(サトシ)だ.
本日の絶不調の原因を作った男.
山本 智
山本 智
能天気にそう言われて
カチンときた.
新竹 拓斗
俺は昨夜の出来事を
智に話して聞かせた.
昨夜、早めにベッドに入った俺は
夜中にけたたましく鳴る携帯の
着信音で起こされた.
寝ぼけながらベッドサイドの
チェストの上を探っている時に
そこに置いてあったメガネを
落とし、さらにそれを
踏みつけて割ってしまったんだ.
たいした用でもないのに
電話してきた、智を
恨みたくなる.
眼鏡代をよこせ.
ちなみに俺の視力は
0.1も無い.
今もぼんやりとしか
景色は見えていない.
黒板の文字も見えないから
今日の授業は当然のように
集中なんかできなかった.
山本 智
山本 智
話を聞いた智は悪びれる様子も
なくケラケラと笑っていた.
新竹 拓斗
なんとなく腑に落ちない気が
したが、とりあえず
納得することにした.
新竹 拓斗
新竹 拓斗
山本 智
俺の問いかけに智は
肩をすくめた.
智とはそこで別れた.
廊下を歩いていると、何人もの
知り合いとすれ違った.
よく見えてないが
多分そうだと思う……。
この高校には同じ中学出身の
ヤツらがやたらと多い.
さっきからみんな声を
かけてくれるんだけど
その都度「メガネは?」って
驚かれるのが面白い.
面倒なので
いちいち説明しねーけど.
適当に愛想を振りながら
俺は目当ての教室へ向かう.
開けっ放しになった扉から
中を覗き込んだ.
いつだって……
メガネなんかなくても
すぐに見つけられるんだ.
新竹 拓斗
入口のすぐ側で誰かと
話しこんでいた彼女は
俺の声で振り返る.
星野 ゆう
星野 ゆう
ユウ. 幼稚園の頃からの
幼馴染であり、俺の一番
大事な女の子.
彼女の存在……それが
この高校を選んだ理由だった.
彼女は俺を"シン"って呼ぶ.
"新"竹の"シン".
他のヤツらとは違う
彼女だけが使う、俺の呼び名.
新竹 拓斗
新竹 拓斗
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
お前は……。
なんで、そういうことを
簡単に言えるのかなぁ.
顔が赤く染まりそうになるのを
必死に抑えた.
そんな俺の様子なんてまるで
気付かないのか、彼女は
マイペースに話し続ける.
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
彼女とさっきまで
話し込んでいたらしい男は
俺の方をチラリと見て
軽く会釈をする.
『オマエ、ダレ?』
いかにも、そんな表情で.
オレもオマエなんて
覚えてないんですけど.
男同士の気まづい空気なんて
気にする様子もなく、彼女は
無邪気な笑顔を振りまく.
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
星野 ゆう
新竹 拓斗
新竹 拓斗
浅野ってヤツの『空気読めよ』
って表情にムッとしながら
そう答えた.
いつも愛用している
ヘッドフォンを耳にあてると
急ぎ足でその場を離れた.
彼女が俺の知らない男と
話す声をこれ以上耳に
入れたくなかったんだ.
本当は一緒に帰りたかったのに.
今日は全てが上手く
いかないような気がして
さらに落ち込んだ.
またため息をついて
ふと足を止めた.
あんなの口から出たでまかせ
だったけど、嘘をついた手前
このまま帰るわけにもいかない.
困った俺はとりあえず
1階まで降りると出口とは
逆の方向へ向かった.
適当なところで廊下を曲がる.
そこは、北校舎と南校舎を
繋ぐ渡り廊下.
歩きながらぼんやりと
その横に広がる中庭の
景色を眺めていた.
初めてここを見た時は
かなり驚いた.
まるで昔読んだ童話に
出てきそうな英国風の庭.
花壇には花が咲き乱れ
その間をクネクネと曲がった
レンガの小道が敷いてある.
さらに極めつけは
金持ちの庭にありそうな
趣味の悪いベンチが
その存在感を放っている.
ううーん……。
はっきりいって悪趣味だと思う.
でもこういうの好きとか
言う女っているんだろなぁ……
新竹 拓斗
頭の中で考えていたセリフは
声から漏れていたかもしれない.
ヘッドフォンからは大音量で
ロックがかかっていて
自分の声さえも耳に
届かないような状態だったから.
__ドンッ!
鋭い衝撃に俺の足は止まった.
一瞬、何が起こったのか
わからなかった.
気がつくと目の前に
女の子が立っていた.
彼女とぶつかったんだという
ことに気づくまで
数秒を要した.
足元にはノートのような物が
落ちていた.
口をパクパクさせて
何か言っている.
この状況だし、多分
謝ってるんだろう.
俺は慌ててヘッドフォンを
はずしながら謝った.
新竹 拓斗
新竹 拓斗
しゃがみこんで
足元にあるものを拾う.
それは小さな
スケッチブックだった.
新竹 拓斗
真宮 桜音
真宮 桜音
真宮 桜音
スケッチブックを手渡す俺に
彼女は何度もペコペコと
頭を下げていた.
この子、謝ってばっかりだな.
吹き出しそうになって慌てて
ヘッドフォンを耳にあてると
その場を去った.
顔はよく見てないけど.
おどおどしてて、なんか
小動物みたいな子だったな.
なぜかじわじわと
口元がほころび
笑いがこみ上げてきた.
多分それは、朝からずっと
不機嫌だった俺が今日
初めてこぼした笑みだった.
♡きたら続き出します!! 読んでくれて📖 ありがとです!!☺︎ ぜひほかの作品も 見てみてください!!☃
コメント
1件
なんか貴方様、語彙力の塊ですね( ˙-˙ )面白かったです!