コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※少しグロ表現があるため ご注意ください!
今でも鮮明に覚えている。
真っ暗な部屋の中月明かりに 照らされた背の高い男が1人。
こちらを向いたその顔はべっとりと した真っ赤な液体に染まっていた。
わたし
わたしはむせかえるような その生臭い匂いに顔をしかめながら その男に声をかけた。
クロ
クロ
真っ赤な口元からポツリとこぼれた 小さな声は
そのまま血でベトベトの床に落ちて 彼の足元に転がる母と父のそばを 転がってわたしの足元で止まった。
わたしはそれをゆっくりと拾いながら
長い夜の始まりに胸を躍らせている 自分に気がつく。
クロ
いつの間にか目の前にその人が立っていてわたしを見下ろしていた。
わたし
血の匂いが、鼻を撫でる。
クロ
クロ
小さく動くその人の口元から 鋭い真っ赤な歯がのぞいた。
わたし
わたし
不器用な私の言葉を 優しく受け止めながら
その人の左手が私の右頬を 優しく包んだ。
クロ
わたし
クロ
わたし
クロ
腫れた頬の上を長い指がなぞる。
優しく優しく、なぞってくれた。
わたし
わたし
わたしは男を見上げた。
長い黒髪の隙間に宝石のような輝きを見つけた。
今日のお月様よりももっときれいな 銀色の瞳。
クロ
クロ
その鋭い眼差しが わたしを貫いていた。
わたし
わたし
しんと静かな月が綺麗な夜。
わたしは今でも、鮮明に覚えている。
クロ
月明かりの下でわたしの頭を 優しく撫でてくれた 冷たくて大きな手のひら。
細まる銀色の瞳が弧を描き、 葉から落ちる雫のように 小さな微笑みがこぼれた。
クロ
クロ
わたしはきっと これからも忘れない。
わたしの世界に あなただけしかいなくなった
あの瞬間を。