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伊織の罪悪感とかめっちゃ伝わってきてゾクッとしたわ
─かすかに聞こえる、先輩のすすり泣き。
その涙に濡れた頬を撫でると、 先輩は頭をこちらに預けてきた。
クロ
伊織
メイ
メイ
クロ
先輩はクロの身体をぎゅっと抱き締め、 着ていた服に顔を埋めた。
そして、もごもごと話し始める。
伊織
伊織
伊織
伊織
…これを聞く覚悟をしなければ、 この人は救えない。
─聞かなきゃ。
メイ
メイ
─俺の、兄ちゃん。
少しだけ、愛の伝え方を間違えた
あくまで普通の、一般人。
きっと兄ちゃんには、 "性加害"だとかそういう犯罪じみた言葉は通じない。
兄ちゃんにとっては、 それは愛情を伝えていたことに過ぎなかったから。
兄ちゃん─蓬莱 廉。
なんだか距離感がおかしい人やった。
伊織
伊織
廉
廉
…きっと兄ちゃんは、 俺が向ける"好き"を勘違いしとったんやと思う。
だいぶ前に、それに気づいた。
…まあ、気づいたというか。 そうなんかなって思い始めたんが、だいぶ前。
そのちょっと後に、 その疑いを答え合わせされた。
伊織
廉
廉
…キスを、された。
まるで愛を教えられるみたいに、何回も。
名前を呼ばれ、愛を囁かれる度にぞっとして。
深く、甘く。 涎が糸を引くまで、ずっと交わしあった。
正直、気持ち悪くて仕方なかった。
恋人でもない、しかも兄とのキスなんて、 嫌悪感しか感じない。
でも、それだけやなかった。
伊織
伊織
伊織
廉
廉
廉
廉
─兄ちゃんに、抱かれた。
下腹部に感じる、圧倒的な存在感。
痛くて、熱くて。
とにかく色々なモノで、 致死量と言っても過言ではないほどの愛を注がれた。
─その一件のせいで、 俺は完全に兄ちゃんが怖くなってしまった。
俺には絶対に出さなかったが、 兄ちゃんは怒ると手が出てしまう。
抱かれることより痛いことの方が嫌だったから、 従うしかなかった。
名前を呼ばれて、好きだと囁かれる度に、 背筋に嫌な寒気が走る。
それでも、つかの間の快楽に溺れて、頬を優しく撫でられて。 それだけで許してしまう、自分もまた憎らしかった。
だから、俺は…
俺は、兄ちゃんを殺した。
真っ白なシーツに染み付いた血のせいで、 罪悪感は余計に増えていった。
吐瀉物と血と、それから涙で塗れた顔を、 そっと撫でたこと、今でも覚えとる。
伊織
体温を全く感じない肌に、 その時生まれて初めて、触れた。
今してしまったことへの後悔が、 膨大な不安と共に襲いかかる。
伊織
伊織
殺した。……それで? 死体の処理は?
アリバイ工作は? この先の仕事は?
…違う。そうじゃない。
兄ちゃんを殺して、本当に良かったん?
良くないことばかりが頭をくるくる回って、 耐えられないほどの吐き気に襲われた。
熱い塊が胃から込み上げてきて、 でも吐けなくて。
ひたすらに、泣いたのを覚えてる。
─その後、家を飛び出して逃げた俺は、 見ず知らずの人…後の上司に拾われた。
殺しの仕事、取引、ハニートラップ。 俺にできそうなことを、次々教え込まれて。
初めて人を殺した時は、 手が震えて仕方がなかったけれど。
……今はもう、なんの躊躇もない。
今もたぶん、後悔しとる。
なんで殺したんやろうって、 なんで人殺しなんかしとるんやろって、
毎日考えて、泣いとった。
…ほんまに、なんでこんなになったんやろうね。
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
そう言って、先輩は微笑む。
まだ何も知らないような、幼い子供のような顔で。
…本当に、神様は皮肉なものだ。
伊織
伊織
伊織
伊織
メイ
メイ
メイ
メイ
クロ
クロ
…先輩は、僕らをぎゅうっと抱き締める。
離した時には、 目尻にほんの少しの涙が煌めいていた。
それから、 とびっきりの笑顔を浮かべて。
伊織
伊織
伊織
伊織
伊織
「─大好きな、頑張った跡!」
続