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─かすかに聞こえる、先輩のすすり泣き。

その涙に濡れた頬を撫でると、 先輩は頭をこちらに預けてきた。

クロ

落ち着きました?

伊織

…ん

メイ

よかった

メイ

…ありがとう、クロ

クロ

うん

先輩はクロの身体をぎゅっと抱き締め、 着ていた服に顔を埋めた。

そして、もごもごと話し始める。

伊織

…ありがとう

伊織

本当…情けない先輩でごめん

伊織

……さっきの、"兄ちゃん"の話

伊織

してもええかな?

…これを聞く覚悟をしなければ、 この人は救えない。

─聞かなきゃ。

メイ

はい

メイ

聞かせてください

─俺の、兄ちゃん。

少しだけ、愛の伝え方を間違えた

あくまで普通の、一般人。

きっと兄ちゃんには、 "性加害"だとかそういう犯罪じみた言葉は通じない。

兄ちゃんにとっては、 それは愛情を伝えていたことに過ぎなかったから。

兄ちゃん─蓬莱 廉。

なんだか距離感がおかしい人やった。

伊織

…何?

伊織

急に抱きついて…なんかあったん?

……ううん、なんでもないよ

あったかいなあ…

…きっと兄ちゃんは、 俺が向ける"好き"を勘違いしとったんやと思う。

だいぶ前に、それに気づいた。

…まあ、気づいたというか。 そうなんかなって思い始めたんが、だいぶ前。

そのちょっと後に、 その疑いを答え合わせされた。

伊織

…あ

……好きだよ

愛してる、伊織

…キスを、された。

まるで愛を教えられるみたいに、何回も。

名前を呼ばれ、愛を囁かれる度にぞっとして。

深く、甘く。 涎が糸を引くまで、ずっと交わしあった。

正直、気持ち悪くて仕方なかった。

恋人でもない、しかも兄とのキスなんて、 嫌悪感しか感じない。

でも、それだけやなかった。

伊織

…え……?

伊織

ちょっ、待っ……!

伊織

いや、!嫌…!!

…かわいい

大丈夫、痛くはしない

君のなかも声も全部、

愛してあげる

─兄ちゃんに、抱かれた。

下腹部に感じる、圧倒的な存在感。

痛くて、熱くて。

とにかく色々なモノで、 致死量と言っても過言ではないほどの愛を注がれた。

─その一件のせいで、 俺は完全に兄ちゃんが怖くなってしまった。

俺には絶対に出さなかったが、 兄ちゃんは怒ると手が出てしまう。

抱かれることより痛いことの方が嫌だったから、 従うしかなかった。

名前を呼ばれて、好きだと囁かれる度に、 背筋に嫌な寒気が走る。

それでも、つかの間の快楽に溺れて、頬を優しく撫でられて。 それだけで許してしまう、自分もまた憎らしかった。

だから、俺は…

俺は、兄ちゃんを殺した。

真っ白なシーツに染み付いた血のせいで、 罪悪感は余計に増えていった。

吐瀉物と血と、それから涙で塗れた顔を、 そっと撫でたこと、今でも覚えとる。

伊織

…死んで、る

体温を全く感じない肌に、 その時生まれて初めて、触れた。

今してしまったことへの後悔が、 膨大な不安と共に襲いかかる。

伊織

……はぁ、ッ、あ"…

伊織

どないしよ、っ、俺……!

殺した。……それで? 死体の処理は?

アリバイ工作は? この先の仕事は?

…違う。そうじゃない。

兄ちゃんを殺して、本当に良かったん?

良くないことばかりが頭をくるくる回って、 耐えられないほどの吐き気に襲われた。

熱い塊が胃から込み上げてきて、 でも吐けなくて。

ひたすらに、泣いたのを覚えてる。

─その後、家を飛び出して逃げた俺は、 見ず知らずの人…後の上司に拾われた。

殺しの仕事、取引、ハニートラップ。 俺にできそうなことを、次々教え込まれて。

初めて人を殺した時は、 手が震えて仕方がなかったけれど。

……今はもう、なんの躊躇もない。

今もたぶん、後悔しとる。

なんで殺したんやろうって、 なんで人殺しなんかしとるんやろって、

毎日考えて、泣いとった。

…ほんまに、なんでこんなになったんやろうね。

伊織

…でも

伊織

これしとらんかったら

伊織

二人に会えんかった

伊織

こんなに優しくて、

伊織

ひまわりみたいな人に

伊織

会えて、本当に嬉しい

そう言って、先輩は微笑む。

まだ何も知らないような、幼い子供のような顔で。

…本当に、神様は皮肉なものだ。

伊織

…話、聞いてくれてありがとね

伊織

もう、大丈夫

伊織

久しぶりに、あったかい体温に触れたなあ

伊織

嬉しい…

メイ

…先輩の話が聞けてよかった

メイ

それであなたが嬉しいと思えたのなら

メイ

僕らも嬉しい

メイ

…ね!

クロ

……うん

クロ

それで先輩の孤独が埋まれば…

…先輩は、僕らをぎゅうっと抱き締める。

離した時には、 目尻にほんの少しの涙が煌めいていた。

それから、 とびっきりの笑顔を浮かべて。

伊織

…これなら

伊織

梅雨も好きになったって、言える

伊織

二人のおかげ

伊織

雨も、あの傷も

伊織

ぜんぶぜんぶ、

「─大好きな、頑張った跡!」

あめあめふれふれ、追憶とともに【創作if】

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16

コメント

2

ユーザー

伊織の罪悪感とかめっちゃ伝わってきてゾクッとしたわ

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