この作品はいかがでしたか?
19
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─その1件から、数週間経った。 梅雨は明け、日差しが肌を焼く夏になる。
あれきり、先輩とは会っていない。
連絡を取ろうと思っても、 ブロックされていてできなかった。
部屋に行ってノックをしても、最近は返事を返してくれない。 鍵も、毎日施錠されていた。
メイ
クロ
メイ
メイ
クロ
クロが苦笑いした。
あの人が居なくなってから、 僕らは普通の日常を送っている。
聖葉先輩
メイ
クロ
鳴
鳴
メイ
聖葉先輩
鳴
響
アヲ
ヰロハ
ヰロハ
聖葉先輩
聖葉先輩が、鞄から何かを取り出す。
─桃色の小さな紙袋だった。
聖葉先輩
聖葉先輩
メイ
メイ
鳴
クロ
メイ
メイ
アヲ
聖葉先輩
クロ
微かにあの甘い香りがする白色の封筒に、 綺麗な字で「伊織より」の文字。
中には、一枚の便箋が入っていた。
メイ
─急に自主退学なんかして、ごめん。
心配かけたかもしれんけど、別に精神的な問題やないの。 俺は人殺し(物騒やね…)に専念します。
…急なお別れになったけど、 やっぱりまだ言い足りないことがあったので。
ここにひたすら、綴ります。
まず、メイ。
どんなときでも俺に世話焼いてくれたね。
リストカットにだって、一番最初に気づいとった。
きっと今まで、色んな人を笑顔にしてきたんやなって思う。
そうやなって確信できるくらい、 君は優しかった。
短い間だったけれど、 俺の道を照らしてくれてありがとうね。
んで、クロ。
君は…なんだかいつもガチガチでさ。 最初はちょっと頼りなかった。
でも、君は誰よりも勇気がある人やった。 まるで、王子様。
真っ先に抱き締めてくれて、 優しい言葉で包んでくれて。
ああ、幸せやな、って思えた。
その誰よりもかっこよかった行動を、 今勝手に称えます。
なんてね。
本当はあの時、 仕事終わりに死のうかなって思ってた。
でも二人が助けてくれて、 この子たちに助けてもらったんならあと少しだけ… って思えたんよ。
それが今となっては、 俺を不安から救ってくれるなんて…
今も、夢みたいやなって思ってます。
…あともう少し続く。 ごめん、耐えてな!
…俺がこんなこと言うのもおかしいけど。
幸せってなんなんやろ。
おいしいもの食べられること? たくさん笑って生きられること? 大切な人といられること?
考えれば、いくらでも思いつく気がする。
でも、君たちが幸せに生きられるのは、 あと何年なんやろうね。
70年くらい? …平均寿命までは生きてほしいなあ。
人生って、あっという間やと思うんよね。
勉強に追われとる間に大学生になって、 何となく楽しんでたらいつの間にか20歳、とか。
お互いたくさん喧嘩もして、 色んなこと経験しとるうちに25…とか普通にあると思う。
俺みたいに独りじゃなくて、 愛してくれる人がいるなら、尚更。
そんな君たちに、 1個だけ、お願いしたいことがある。
…俺の分まで、幸せになって。
これを果たすには、 俺の身体は傷つきすぎた。
どうしても、昔のことが頭から離れてくれない。
がんばった跡って思うだけじゃ、 救いきれなかった。
ごめん。 必死になって助けようとしてくれたの、わかってるのに。
……だから。 俺の"幸せになる義務"を、 君たちに託します。
俺の分まで幸せになる。 君たちなら、絶対できるはず!
頑張ってね。 目指せ、結婚式場!
ああ、こんなんじゃ書ききれないなあ。 もっと、もっと話したかった。
でももう決めたことやから。 自分の判断には責任持ちます。
…最後になりました。 終わるのが、名残惜しいです。
数週間やったけど、本当に楽しかった。
悪い思い出しかなかった梅雨も、 好きになれた。気がします。
…次どっかで会うのは、 君たちが標的にされたとき…なんて。
そんなの嫌なので、きっぱり別れよか。
─さようなら。 ばいばい。
─最後の一文に涙が落ち、文字が滲む。
慌てて涙を拭くと、心配そうに覗くクロが見えた。
…彼も、かなりやばそうだ。
メイ
メイ
メイ
メイ
クロ
メイ
メイ
メイ
クロ
クロ
メイ
─窓から見える、真っ青な空。 入道雲がもくもくと浮いて、夏を感じさせる。
あの雨の日々。 先輩と、少し切なくて幸せな日常を過ごしたこと。
僕…いや、僕らは、絶対に忘れない。
【あめあめふれふれ、追憶とともに】
終
閲覧感謝
コメント
2件
常連…( ;∀;) これはハッピーエンドなのか…それとも違うのか…気になる