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─その1件から、数週間経った。 梅雨は明け、日差しが肌を焼く夏になる。

あれきり、先輩とは会っていない。

連絡を取ろうと思っても、 ブロックされていてできなかった。

部屋に行ってノックをしても、最近は返事を返してくれない。 鍵も、毎日施錠されていた。

メイ

…どこ行っちゃったんだろう

クロ

本当に猫みたいだな

メイ

……ああ、前そんな話してたね

メイ

でもあの時の寝転び方は猫というか…

クロ

……職業病だろ

クロが苦笑いした。

あの人が居なくなってから、 僕らは普通の日常を送っている。

聖葉先輩

…伊織クンの話?

メイ

…あっ、はい

クロ

見てませんか?

……あー

伊織先輩退学したんじゃなかった?

メイ

…え!?

聖葉先輩

うん、そうなの

大丈夫、自主退学だったって

大丈夫の意味がわからないけど…?

アヲ

…何があったんだろうな

ヰロハ

…ふらっとどっか行くようなやつだったけど

ヰロハ

まさか自主退学するとはね

聖葉先輩

……あ、そうだ!

聖葉先輩が、鞄から何かを取り出す。

─桃色の小さな紙袋だった。

聖葉先輩

これ、二人にって

聖葉先輩

伊織クンからの、プレゼント

メイ

メイ

ありがとうございます

何が入ってんだろ

クロ

…あ、手紙……と

メイ

猫のぬいぐるみ!

メイ

かわいい…!編みぐるみかな?

アヲ

いいな

聖葉先輩

手紙も、読んでみたら?

クロ

あ…はい

微かにあの甘い香りがする白色の封筒に、 綺麗な字で「伊織より」の文字。

中には、一枚の便箋が入っていた。

メイ

(…クロと、メイへ─)

─急に自主退学なんかして、ごめん。

心配かけたかもしれんけど、別に精神的な問題やないの。 俺は人殺し(物騒やね…)に専念します。

…急なお別れになったけど、 やっぱりまだ言い足りないことがあったので。

ここにひたすら、綴ります。

まず、メイ。

どんなときでも俺に世話焼いてくれたね。

リストカットにだって、一番最初に気づいとった。

きっと今まで、色んな人を笑顔にしてきたんやなって思う。

そうやなって確信できるくらい、 君は優しかった。

短い間だったけれど、 俺の道を照らしてくれてありがとうね。

んで、クロ。

君は…なんだかいつもガチガチでさ。 最初はちょっと頼りなかった。

でも、君は誰よりも勇気がある人やった。 まるで、王子様。

真っ先に抱き締めてくれて、 優しい言葉で包んでくれて。

ああ、幸せやな、って思えた。

その誰よりもかっこよかった行動を、 今勝手に称えます。

なんてね。

本当はあの時、 仕事終わりに死のうかなって思ってた。

でも二人が助けてくれて、 この子たちに助けてもらったんならあと少しだけ… って思えたんよ。

それが今となっては、 俺を不安から救ってくれるなんて…

今も、夢みたいやなって思ってます。

…あともう少し続く。 ごめん、耐えてな!

…俺がこんなこと言うのもおかしいけど。

幸せってなんなんやろ。

おいしいもの食べられること? たくさん笑って生きられること? 大切な人といられること?

考えれば、いくらでも思いつく気がする。

でも、君たちが幸せに生きられるのは、 あと何年なんやろうね。

70年くらい? …平均寿命までは生きてほしいなあ。

人生って、あっという間やと思うんよね。

勉強に追われとる間に大学生になって、 何となく楽しんでたらいつの間にか20歳、とか。

お互いたくさん喧嘩もして、 色んなこと経験しとるうちに25…とか普通にあると思う。

俺みたいに独りじゃなくて、 愛してくれる人がいるなら、尚更。

そんな君たちに、 1個だけ、お願いしたいことがある。

…俺の分まで、幸せになって。

これを果たすには、 俺の身体は傷つきすぎた。

どうしても、昔のことが頭から離れてくれない。

がんばった跡って思うだけじゃ、 救いきれなかった。

ごめん。 必死になって助けようとしてくれたの、わかってるのに。

……だから。 俺の"幸せになる義務"を、 君たちに託します。

俺の分まで幸せになる。 君たちなら、絶対できるはず!

頑張ってね。 目指せ、結婚式場!

ああ、こんなんじゃ書ききれないなあ。 もっと、もっと話したかった。

でももう決めたことやから。 自分の判断には責任持ちます。

…最後になりました。 終わるのが、名残惜しいです。

数週間やったけど、本当に楽しかった。

悪い思い出しかなかった梅雨も、 好きになれた。気がします。

…次どっかで会うのは、 君たちが標的にされたとき…なんて。

そんなの嫌なので、きっぱり別れよか。

─さようなら。 ばいばい。

─最後の一文に涙が落ち、文字が滲む。

慌てて涙を拭くと、心配そうに覗くクロが見えた。

…彼も、かなりやばそうだ。

メイ

…うれしいなあ……

メイ

こんなに大事に思ってくれる人が

メイ

周りにたくさんいるなんて

メイ

僕は、幸せ者だ

クロ

…うん

メイ

…"俺の分まで幸せに"…

メイ

幸せにしてあげたくせに何言ってんの…

メイ

もう…っ

クロ

…きっと、先輩も

クロ

些細な幸せを感じてくれたんだろうな

メイ

…そう信じたいね

─窓から見える、真っ青な空。 入道雲がもくもくと浮いて、夏を感じさせる。

あの雨の日々。 先輩と、少し切なくて幸せな日常を過ごしたこと。

僕…いや、僕らは、絶対に忘れない。

【あめあめふれふれ、追憶とともに】

閲覧感謝

あめあめふれふれ、追憶とともに【創作if】

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コメント

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常連…(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠) これはハッピーエンドなのか…それとも違うのか…気になる

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