無惨はるなが体調を崩してからというもの毎晩遊郭へ来ていた。
人目につかない時間。誰にも見られない場所。
無惨
今日の具合はどうだ
月
お陰様で元気です!
差し出された血を受け取ると無惨様は静かにるなを見た。
花魁になってから話すことは自然と増えた。
月
今日も花魁道中があったんです
月
もう随分と慣れたんですよ!
無惨
そうか
月
堕姫ちゃんから貰った簪も
褒められちゃいました!
褒められちゃいました!
無惨様はほんのわずかに表情を緩めた。
無惨
…可愛がられているようだな
月
はい!
月
ちょっぴり厳しいけど…
月
大好きなんです!堕姫ちゃんの
こと!
こと!
無惨
そうか
今日は――空気がどこか重かった。
無惨
るな
月
ん?
無惨
お前をほかの鬼の所へ預ける
ことにした
ことにした
月
…え
胸が締め付けられる。
無惨
人に紛れる術はもう十分に身についただろう
月
…
無惨
ここに留まる必要はもうない
月
で、でも…!
わかっている。頭では。
ここでるなは人間として振る舞うことを覚えた。
もう失敗しない。それでも。
月
やめたく…ないです、
無惨様は少しだけ目をほそめた。
月
ここまで頑張ったのに、
無惨
…
月
そんなの…やだもん、
るなは涙が込み上げてきた。
しばらくの沈黙。
無惨
感情が育ったな
責めるでも突き放すでもない声。
月
…じゃあ!
無惨
だが別れも必要だ
その夜るなは堕姫の部屋に行った。
堕姫
行くんだってね、
月
うん…
堕姫
明後日?
月
うん…
堕姫はいつもの強気な顔を崩さなかった。
でも扇子を持つ手に力が入っている。
堕姫
身請けってことにしときな
月
…うん
女将さんには身請け先が決まったと伝えた。
女将
まあ、それはめでたいね
そう言いながら女将さんは少しだけ目を伏せる。
月
明後日には…
月
出なきゃなんです
女将
そう…
喜んでくれている。でもその笑顔は少し寂しそうだった。
女将
じゃあ明日はお祝いしないと
だね
だね
部屋に戻り布団に座る。
月
明日で終わりか…
そう思うと涙が込み上げてきて止まらなかった。
明日はお祝いの日。ちゃんと笑えるだろうか。
でも今夜だけはこの気持ちを静かに抱えていた。






