炎は燃え盛り、舞い上がるススが空を汚していた。
兵たちが縦横無尽に走り回り、追い立てられた村人は
慌てふためいて逃げている。
実ったばかりの種が音を立てて弾けていくのを
周囲の人間たちは涙目になって見守っていた。
その一つがひときわ大きく弾け飛び
オレの頬を掠め、傷つける。
キョウ
アンセルム
血相を変えたのはアンセルムだ。
側近だけあって、少しでもオレが傷つくと敏感に反応するけど
右手を上げる仕草だけで、傷は問題ないことを知らせる。
ただ少しひりつく痛みに舌打ちし
軽い火傷を親指でこすって鼻で笑い飛ばした。
炎が視界を埋め尽くす。
肌を熱される高揚感が胸を満たし
オレは消し炭とともに両腕を高く掲げた。
キョウ
キョウ
業火の音に負けず、高々と笑う。
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
大きく腕を振り上げ、空に魔方陣を描く。
キョウ
張り上げた声が響き渡り、魔法陣から巨大な炎を落とす。
巻き起こる爆風を受け、民衆は慌てて体を庇った。
恐れを抱いた視線が、オレに集まるのを感じる。
それは知らず、恍惚の笑みを浮かばせた。
キョウ
キョウ
キョウ
唇が吊り上り、犬歯が覗くほど笑みが深くなる。
キョウ
音楽を指揮するように指を振ると、大地が隆起する。
掘り起こされた根すら炸裂させていくと、
爆風がマントをひるがえした。
魔王城、城内
キョウ
アンセルム
キョウ
キョウ
キョウ
アンセルム
アンセルム
アンセルム
キョウ
キョウ
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
アンセルム
アンセルム
アンセルム
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
キョウ
アンセルム
アンセルム
アンセルム
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
燃え盛る土地
涙目の民衆
畏怖で言葉を失くした兵列
テンションが上がらなかったと言えばウソだ。
というか、めっちゃ上がったのは事実だった。
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
アンセルム
アンセルム
キョウ
第一、最初は城の内装の話だった!
キョウ
ふて腐れて玉座に身を投げ出す。
するとアンセルムは、以前オレが渡した腕時計を見た。
アンセルム
アンセルム
キョウ
キョウ
キョウ
アンセルム
玉座の後ろに立つと、カーテンが音を立てて開く。
そこには、果てのない闇が広がっていた。
キョウ
キョウ
目と口を手で覆い、礼をするアンセルムに背を向けて踏み出す。
足元はまるでスライムだ。
ぐにゃぐにゃして、一歩進むごとに沈んでいく。
5歩目でストンと急落下する感覚には慣れないまま、
オレは普段の生活に戻るべく顔をしかめた。
キョウ
オレが転がり出たのは、父さんの書斎にあるクローゼットだった。
毎回のことだけど、うまく着地できないのがムカつく。
オレのことや、こうなっているきっかけを話そう。
うちは4人家族だ。
少女小説家の父さん
カードゲームデザイナーの母さん
正義の味方かぶれの双子のアニキ
それにオレ。
本当は父さんの書斎に入るのは禁止されてるんだけど
父さんが締切前で喫茶店に籠もりに行ったのを知って
書斎に忍び込んでいた。
人生の目標に世界征服を掲げるオレは
いつも父さんが座ってるでっかい椅子にこっそり座り
支配者になりきるのがヒミツの楽しみだった。
まぁ、幼稚な遊びであることは分かってる。
だから誰にも秘密だったんだけど――
……ただ、その日は運がなかった。
父さんが途中で帰ってきたんだ。
父さんのゲンコツは、めちゃくちゃ痛い。
バレたらそれを食らうと分かってたオレは、
慌ててクローゼットの中に隠れた。
というよりも、隠れようとした。
クローゼットの段差に足をかけたとたん
体がどこかに吸い出されるような感じを受けた。
パニックになる暇もなく、スポンッと引っ張られたオレは
気がつくと、あっち
亡郷『オルシャック』にいた。
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
キョウ
二つ並んだ机を挟むように置かれたベッド
その片方で大口を開けて寝ているのは
オレのアニキ、マサルだった。
キョウ
キョウ
マサル
キョウ
キョウ
マサル
キョウ
マサル
マサル
マサル
マサル
キョウ
キョウ
そう、あっちに行ったのはオレだけじゃない。
しかもコイツは、オレとまったく逆の立場になっていた。
オレが魔王で、アニキが勇者
これはそれなりに面倒そうだけどメリットもある――
オレたちの二重生活のお話だ。
コメント
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ヤバい𡔉また雑草がァァ笑ww
最初の格好いい情景描写にドキドキさせられたのですが、その後空気が一転してゆるーい感じになって面白かったです😂 兄が勇者で自分が魔王だなんて設定、どうすれば思いつくのでしょうか…!井之上さんのコメディはやっぱり本当に面白いです✨
おもろ