私は、夏海の部屋の真ん中に座って
周りを蘭達に囲まれていた。
私は普段、蘭達のことを名前でしか意識しておらず
夏海が佐々木という苗字だということもあまりよく把握していなかった。
夏海の弟である少年は、私とは少し離れたところに立たされていた。
夏海
マジでびっくりだよ
夏海
お隣の家に行ったら、大前さんとこいつが一緒にいるんだもん
優奈
っていうか、大前さんが隣に住んでるって知らなかったの?
夏海
知らなかった
夏海
会ったことなかったもん
美月
まあ、夏海らしいっちゃ夏海らしいよね
夏海
ちょっと、もーっ
楽しそうに騒ぐ女の子達の横で、私は気が気じゃなかった。
少年には今まで、私がいじめられていることをわざと隠していたのに…
まだ夏海は学校での私についてなにも言っていないが
いずれはきっと、少年の知るところとなるだろう。
蘭
っていうかあんた達、どういう関係?
夏海
まさか付き合ってんの?!
優奈
キャーっ
美月
いや、ガチでキモすぎて笑えない
蘭
いいじゃん
蘭
キモいどうし、お似合いだと思うよ
私はなにも言わず、じっとうつむいていた。
美月
ねえ、なんかさっきからすっごい臭くない?
優奈
私も思ってた
蘭
そんなひどい臭いでよく人の家上がれるね
蘭
もしかして気づいてないの?
夏海
制服めちゃめちゃ汚いし
優奈
ほんとだ、なにそれ
優奈
しわだらけだし、汚れてんじゃん
蘭
うちらが綺麗にしてあげるよ
そう言って蘭は後ろから私の背中を蹴った。
私は下を向いて耐えていた。
が、しかし
少年
やめてくださいっ!
蘭
はあ?
優奈
あれ、どうしたのかな海人くん
優奈
彼女にいいとこ見せたいの?
ひまり
大丈夫だよ、私は…
美月
うわ!
美月
大前さんってまともに喋れるんだ
夏海
それな
夏海
ごめんなさいしか言えないのかと思ってた〜
少年
…い、いつもこんなことしてるんですか
蘭
あのさ
蘭
これはうちらの問題なの
蘭
まだまだお子様のあんたが首突っ込んでこないでよ
少年
…年齢とか、関係ないと思います
少年
僕は、これが正しいことだとは思えません
夏海
は?
夏海
なにお前、生意気なんだけど
少年
少年
お姉ちゃんだって
少年
そうやって大声出して僕のこと脅してれば言うこと聞くと思ったら
少年
大間違いだからな!
少年ははっきりとした声でそう言うと
目の前にいた夏海を力いっぱい蹴った。
夏海
なっ…!
夏海
弟のくせに生意気な!
蘭
夏海、大丈夫?
ひまり
あ…
優奈
あーあ、可哀想
少年
可哀想?
少年
僕達が今まで、どれだけ殴られて、蹴られて
少年
どれだけ我慢してきたか分からないんですか?
美月
いやいや
美月
あんた達は、私たちのストレス解消のために生まれてきたようなもんじゃん
美月
なにが我慢よ
蘭
美月、よく言った!
少年
っ……
少年
ふ、ふざけるな!
少年は勢いよく美月を殴り倒した。
美月
いった…
美月
ほんとやだ…サイテー
蘭
あのさ、あんまうちらのこと舐めてると
蘭
あんたが痛い目見るからね
そう言って蘭は少年を殴ろうとした。
私は慌てて少年の前に出て、少年をかばう。
蘭はそのまま、私のことを殴った。
少年
ひ、ひまりさん!
少年
大丈夫ですか?
ひまり
…大丈夫
蘭
あのさ、大前さん、今そういうのいらないから
蘭
私は夏海と美月がされたことの仕返しをするだけ
蘭
あんたが首突っ込まないで
私はその声を無視して少年を見た。
ひまり
ここは危ないから、私の家にきて
少年
え…
少年
でも、僕は…
ひまり
いいから
私は床に置いていた通学かばんを持って
少年の腕をつかんで立ち上がった。
ひまり
失礼しました
蘭
は?
蘭
なに言ってんの?
優奈
ちょ、ちょっと、なに勝手に行動してんの?!
夏海
戻ってきなさい!
4人の怒鳴り声を背に
私たちは夏海の家を後にした。