沢田マリカ
沢田マリカ
私の問いに
井川静(じん)
静(じん)さんは俯き加減で答える
井川静(じん)
井川静(じん)
井川静(じん)
静さんの中ではもう
あすみさんは妹ではなく一人の女性だった
たった一人の愛しき女性
しかしそんなあすみさんから感じてしまった
それまでの彼女からは想像もできないような艶かしさ
それは紛れもなく
一人の女性として異性の愛を受け止めた証しでもあった
既に失声状態を脱していたあすみさんは
はっきりとした言葉で静さんを拒絶するようになり
井川あすみ
井川あすみ
その言葉は余計に静さんの心に突き刺さった
彼女を守りたかっただけだった
それだけなのに
その気持ちは届くこともなく完全に拒絶され
優真さんへの怒りも相まって
静さんはその手を止めることができなくなっていった
井川静(じん)
井川静(じん)
本当は傷つけたくなんかなかった
でも
自分の腕の中で苦痛の表情を浮かべ
涙を流す彼女の姿に
静さんの身体は反応し
再び顕になった自身の巨体を
静さんは容赦なく突き立てた
次の日も
また次の日も
静さんは自らの意思であの部屋へ向かった
井川あすみ
井川あすみ
井川静(じん)
井川あすみ
一時間後
兄の猛攻に力なく横たわったまま
あすみさんがそっと呟く
井川あすみ
家に戻ってからわずか数日
あすみさんの身体はいなくなる前よりも酷くなっていた
全身の至るところに殴打された痕があり
その上から容赦なく切りつけられた傷が無数に混在する
かすみさんは以前のように治療をしなくなってしまい
剥き出しになった傷からの出血と
更に行われた性的虐待による出血
八月の蒸し暑い気候も相まって
彼女の部屋は独特な臭いを放つようになった
静さんが部屋の扉を開けると
階段を上る音が貸すかに聞こえ
悟志さんと目が合った
井川悟志
井川悟志
井川静(じん)
井川静(じん)
静さんは悟志さんに助けを求めようと思った
狂ってしまった母とは違い
この人はまだ正常だと思っていた
けれど悟志さんは
目を背け冷たく言い放つ
井川悟志
もう言葉が出てこなかった
何を言っても聞いてもらえない
どんなに訴えても何もしてはもらえない
静さんは黙って扉を閉めると
施錠して鍵をポケットに入れた
無言のまま自分の寝室に戻り扉を閉める
途端にがっくりと膝をつき
魂が抜けたように座り込んで動けなくなった
自らの意思であの部屋へ行き自らの意思で事に及んだ
だが彼女の苦痛の表情を思い出すと
言いようのない後悔の念が押し寄せ
静さんの瞳からはまた
大粒の涙が溢れ出ていた
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