冬真
お祖父様の部屋の襖前で正座をして、 中にいるであろう人に話しかける
相川祖父
答えが返ってきて、失礼します、 と言ってから襖を開けて中に入った
冬真
お祖父様は、数年前から 病床に伏せている
病状は重いものではなくて、普通に 起き上がれたり、ご飯も食べられる くらいには元気だ
うちの家系は、みんな白髪に赤眼
そして父さんみたいに、 みんなあまり長生きではない
だから、お祖父様がこの歳でも ここまで元気なのは、実はすごいこと
相川祖父
廊下の方に目を向けながら、 お祖父様がそう言う
冬真
そういえば、すっかり報告するのを 忘れていた
冬真
相川祖父
少し驚いた素振りを見せつつも、 ふわりと笑って、頭を撫でてくれた
冬真
相川祖父
冬真
そうして、さっき考えていたことを お祖父様に話した
冬真
口にすると、より一層 不安が押し寄せてくる
お祖父様は、なんて言うだろう
相川祖父
冬真
好きなこと……?
突拍子もない話に、つい驚いてしまう
相川祖父
相川祖父
たしかに、お祖父様は よく本を読んでいる
部屋の本棚にも沢山本があるし、 こうやって話している時に、 本の話をすることもあった
相川祖父
冬真
お祖父様から父さんへ、 父さんからボクへ受け継がれてきた、 相川の教えだ
相川祖父
相川祖父
冬真
相川祖父
諦めている……?
相川祖父
相川祖父
冬真
お祖父様の言葉を、心の中で復唱する
相川祖父
相川祖父
冬真
相川祖父
相川祖父
冬真
相川祖父
相川祖父
それは……そうだ
『空の隱れ雲』であるカナタ先輩が いなくなれば、相川が使える人は いなくなる
もしも将来、ボクに子供ができたと して、血を繋いでいく理由がないんだ
それが未来のボクである可能性もある
相川祖父
相川祖父
冬真
自ら、生きる意味を作る……
相川祖父
相川祖父
そう言って、手近にあった本を 見せてきた
そういえばお祖父様は、よく同じ 著者の作品を読んでいることが多い
その人の作品が好きで、心を惹かれる から、もっと読みたいと思うのだろう
相川祖父
相川祖父
それから、またボクの頭を 撫でながら、こう言った
相川祖父
冬真
今となっては、お互いが お互いにとっての唯一の家族だ
ボクだって、お祖父様には 長生きしてほしい
きっとそれは、お祖父様も 同じなんだろう
冬真
せめて、お祖父様がいなくなるまで は、何があっても頑張ろうと思った
相川祖父
冬真
冬真
カナタ先輩も、それを思ってここに いたいと言ってくれたんだと思う
相川祖父
相川祖父
冬真
そろそろ、みんなのところに 戻った方がいいかも
冬真
相川祖父
冬真
それから、来た時と同じ様に 挨拶をして、部屋を出た
ボクがこれからやるべきこと
カナタ先輩の意思を聞く
もしそこで拒まれれば、 ボクはお祖父様の言う通り、 好きに生きようと思う
ボクが必要だと言われれば、 教えの通りカナタ先輩に仕えよう
どちらにしろ、 優先すべきはカナタ先輩だ
冬真
みんなのいる客間まで戻ってきた
冬真
カナタ
冬真
先輩の前に座って、そう聞く
今のボクのやるべきことは、 カナタ先輩の意思を聞くこと
これからどうするかを考えるのは、 それを聞いてからだ
カナタ