染井桃子
獪、岳…?
獪岳
ハハッ、そりゃ驚くのも無理はないな
獪岳
すっかり強くなって…偉くなったもんだ
首に巻いた勾玉の飾り、 髪型も声も、
数年前に会った 兄弟子の記憶と一致する。
違うとすれば 白目は黒く変色し、
口は鋭い牙が 覗いている所だろうか。
間違いなく鬼だ。
しかしそれと同時に 間違いなく兄弟子だ。
頭が混乱する中、 攻撃が来て、反射で避ける。
獪岳
相変わらず直感だけは鋭い
獪岳
第六感ってやつか?
獪岳
そういえばあの出来損ないも聴覚が良かったっけ
染井桃子
出来損ない?…それは鬼になったアンタの方なんじゃない?
獪岳
オイオイ、いつから兄弟子にそんな口きくようになった?
染井桃子
もうアンタなんか…
私は刀を握り直して言った。
染井桃子
アンタなんか私の兄弟子じゃないわ!
獪岳
お前は俺らの中で唯一"全ての型"を扱えた
獪岳
俺は壱ノ型だけが使えなかったし、アイツは壱ノ型しか使えなかったからな
獪岳
自分より弱かったはずの兄弟子に負けた感想は?
荒れ果てた寺の中に 血の匂いが漂う。
口の中は鉄の味が広がり、 腹からは出血が止まらない。
内臓がやられてる。 呼吸もままならない。
桃色の羽織が 真っ赤に染まる。
そういえば私と善逸と 揃いのこの羽織、
獪岳が袖を通した所は 見たことがなかった。
3人の中で唯一 全ての型を使えた私を妬み、
恨んでいたなんて。
一緒にいた間ずっと そう思われていたのかな。
そう思うと素直に悲しい気持ちが 心に染み渡った。
染井桃子
っ…、くっ
獪岳
まだ立ち上がるか
染井桃子
アンタは…私が殺さなきゃいけない
染井桃子
アンタを残して…死ぬわけには…!
黒い雷鳴が轟き、 私の腕に走る。
刀を握っていた腕が 斬り落とされ、
痛みに声も出なかった。
腹や腕から肌が割れて 亀裂が入っている。
血鬼術の影響だろう。
獪岳
ずっとお前が嫌いだった
獪岳
生真面目で利他主義で、
アイツ
善逸の事を贔屓するお前とクソジジイが!
アイツ
善逸の事を贔屓するお前とクソジジイが!
染井桃子
贔屓なんてしてない!
染井桃子
私も師範もちゃんと貴方のことを…!!
染井桃子
ぐっ、かはっ…
声を荒らげると 腹の亀裂が広がり、
ドボドボと温い液体が溢れる。
私が座り込むと、 獪岳は私の額に刀を突きつけた。
獪岳
終わりだな
獪岳
お前をこの手で殺せる事が心底嬉しいぜ
突き刺すために 獪岳は刀を引いた。







