十三形
――どういうことだ?

十三形
なぜ、勝ち誇ったような顔をしている?

二ツ木
まだ、分からない?

二ツ木
まぁ、これまで誰ともバトルさえせず、本来なら所有者同士でしかできないはずのバトルに、親玉だって理由だけで首を突っ込んだのがまずかったね。

七星
一宮が言った通り、勝負についての知識は、ほとんどなかったみたいだな。

十三形
(なんだ?)

十三形
(こいつら、なにを言っている?)

十三形
(まさか、俺の選んだ絵本が間違っていた?)

十三形
(いやいや、そんなことはない)

十三形
俺の宣言した答えが正解なのか確かめたい。

九条
そんなことせずとも、あなたの絵本は【桃太郎】ですよ。

十一月二十九日
信用できないなら、自分で確認すればいいだろ?

十一月二十九日
もう勝負はついたわけだし。

十三形
(俺の絵本が【桃太郎】なら、それを言い当てた俺の勝ちじゃないか)

十三形
ほら、やっぱり【桃太郎】じゃないか!

十三形
自分の絵本を言い当ててるじゃないか!

九条
……でも、この世界はあなたの負けとみなしたみたいですよ。

十三形
お前達の大半は十二単の絵本が【ヘンゼルとグレーテル】だって認知していなかっただろ?

十三形
だからほら、結果的に俺の絵本は【桃太郎】だった。

十三形
それなのに、なぜ俺が負け扱いになる!

十三形
システムの抜け穴を利用した必勝法だったのに!

四ツ谷
まぁ、人はそれをイカサマ――不正って言うんだよ。

二ツ木
法律の穴を掻い潜って犯罪ギリギリのことやってる政治家と同じだね。

一宮
俺達は信じたんだよ。

一宮
あんたが勝つために手段を選ばないだろうってな――。

一宮
必ずあんたは不正を仕掛けてくるだろうって。

一宮
そして実際に不正を仕掛け、ルール通りに負けたんだよ。

一宮
【俺が仕掛けた勝負のルール】に従ってな。

十三形
…………。

人というものは、本当に驚いた時、言葉がまるで出てこなくなるものだ。
すでに死んでいるはずの十三形に、その理論が当てはまるかどうは微妙なところではあるが。
十一月二十九日
てめぇはこの世界を自分の思い通りに作り上げた、いわゆる創造者だ。

十二単
やろうと思えば、ルールを捻じ曲げることなんて簡単だ。

二ツ木
まぁ、だから不正のオンパレードになるんじゃないかと――事前に一宮は考えていたんだ。

四ツ谷
それに加えて、あんたはバトルの経験がない。

四ツ谷
本来ならば所有者同士でなければ勝負できないのに、さも当然とばかりにあんたは俺達に勝負を仕掛けてきただろ?

七星
それに、やはり所有者でないがゆえに、知らないようだな。

七星
勝負が始まった時点で、私達は勝負の場にある絵本を認知できるということを。

十日市
基本的に勝負をする時には、相手の絵本の情報が勝手に頭の中に入り込んでくるもんね。

九条
元は相手の仕掛けたストーリーを読み合うという内容ですからね。

九条
変則的なことばかりしてしまいましたが、その本質的なルールを守るためには、必ず相手の絵本の情報は必要になるんです。

一宮
でも、あんたは所有者でもなんでもないから、絵本の情報が入り込んで来なかっただろうな。

十三形
だが、それを知っていようとも、知らないとしても、結果的に【桃太郎】を言い当てたのは事実だ!

十三形
過程はどうであれ、勝利条件を満たしたのはこっちのほうだぞ!

四ツ谷
まーだ、分かってねぇのか。

十一月二十九日
てめぇが入って来たこの病室は、一宮が現実に似せて作り出した【異空間】なんだよ。

一宮
四ツ谷と打ち合わせをして、あんたが入室するタイミングに合わせて勝負を仕掛けたんだよ。

一宮
さも、七星の病室に入室したかのように、俺の作り出した【偽りの現実世界】に、お前を含んだ全員を引きずり込んだんだ。

七星
――ここまで言えばもう分かるだろ?

七星
行われていたゲームは、元より貴様の考えた【インディアン絵本当て】ではなかったんだ。

一宮
あんたのルールに合わせて、俺がこの世界のルールを構築させただけ。

一宮
その上で、俺は一言だけルールを告げた。

一宮
不正をしたら問答無用で負け――とな。

十三形
ま、まさか――。

一宮
そう、この勝負……不正したほうが負けというルールの、俺が仕掛けた勝負だったんだよ。

十三形
そんなことがあっていいわけがない!

十三形
俺はシステムの穴を突いただけだ!

四ツ谷
でも、あんたはそれを不正だと認知しつつ実行したんだよ。

七星
だからこそ、負け扱いとなった。

それが合図だったかのように、体の鎖がさらに強く締まる。
十三形の回りに、自分が精魂を込めて作り上げた絵本が近寄ってくる。
十三形
や、やめろ――。

十三形
俺はこの世界を作り上げた張本人だぞ!

十三形
俺がいなくなれば、呪いの絵本だって無事じゃ済まない。

十三形
それを理解しているのか?

十一月二十九日
なに寝ぼけたこと言ってやがる?

十二単
絵本は意思なんて持たない。

二ツ木
それは、ただの紙切れの束。

十日市
本当なら、子ども達に夢を与えるはずのもの。

四ツ谷
それを呪われたものにしようという発想自体――イカれてるね。

七星
もし、そこに意思のようなものがあるとすれば――。

一宮
それは、お前のせいで死んでしまった人間の深い怨念だ!

絵本に取り囲まれた十三形は、必死に鎖から逃れようとする。
九条
終わりにしましょう。全てを!

二ツ木
それ、一宮のセリフ。

二ツ木
雑魚は黙ってろ。

十三形
くそっ!

十三形
これで俺が終わると思うなよ!

十三形
いつか必ず、再びお前達の前に――。

十一月二十九日
断末魔がダセェんだよ!

一宮
これで終わりだ!

一宮
十三形!

一宮
あんたはもう死んでいるんだ!

十三形
くそぅ――。

十三形
くそがぁぁぁぁぁぁ!
