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【一宮の場合】

怒涛のごとく過ぎ去った日々は過去のものとなり、これまで通りの生活が戻ってからしばらく。

いつも通りのスーツを着こなし、颯爽と通りを歩く男が1人。

一宮

(毎日、同じ時間に起きて仕事に行って、同じように仕事をこなして家に帰る)

一宮

(たまの休みは家でゴロゴロしながら、映画の1本でも観ながら過ごして、いざ休みが終わるとなると、もっと有意義に過ごせたんじゃないか――って後悔する)

一宮

(なんだかんだで、こういう平凡な毎日が、やっぱり一番だな)

十三形が敗れた直後、一宮達は十三形が構築していた世界から解放された。

実に自然に、なんの変わりもないかのごとく。

現実世界においても、七星は入院の必要がある程度の怪我はしていたし、一宮達が気づいたのも病院の中。

非現実世界でありながら、ごくごく一部は現実とリンクしていたのではないか――とは、これを受けて四ツ谷が出した推論だった。

一宮

(七星も無事に退院できたし、もう俺達の手元に絵本はない)

一宮

(ちょっと寂しいような気がするのは、多分気のせいなんだと思いたい)

十三形が企てた、悪意ある策略は、一宮達の手によって阻止された。

別に正義のヒーローを名乗るつもりはないし、誰かに知って欲しいわけでもない。

ふと、一宮は立ち止まると、晴れ渡った空を見上げる。

一宮

(これで八橋達も本当は無事だった――なんて結末だったら良かったのにな)

あの後、どれだけ七星が調べようとしても、八橋という人物は見つからなかった。

もちろん、三富や六冥もまた、この世の中に最初から存在していないかのごとく、所在がまるで掴めなかった。

深く考えると、それはそれで考え込んでしまいそうだから、一宮は小さく首を横に振って、現実へと思考を戻す。

ただ、心のどこかでずっと考えている。

もし、彼女達にも墓があるのならば、いつか花のひとつでも手向けてやろうと――。

一宮

(あ、やばい。もうこんな時間か)

一宮は小さく頷くと駆け出した。

ごくごく当たり前の平凡の中へと向かって。

【一宮の場合 ―完―】

【七星の場合】

あの後、傷も順調に癒え、病院を退位した七星。

ただ、あちらと少し異なるのは、通り魔的犯罪に巻き込まれて刺されたことになっていた――ということだ。

ただ、その通り魔も逮捕されたという話を、担当の刑事から聞いた。

犯人の名前は伍代――。

現実世界ではないからと、好き放題にしていた彼ではあるが、しっかりと罪を償うため、警察の世話になっているらしい。

つくづく、悪いことはできないものだと七星は思う。

久方ぶりに学校へと復学した七星は、ただただ言葉を失った。

七星

ひとつだけいいか?

隣の席に、さも当たり前とばかりに座っている女性に声をかける。

二ツ木

なに?

七星

いや、その――どうしてここに?

二ツ木

私、少し前まで絶賛不登校児だったんだよね。

二ツ木

でもまぁ、七星がいる高校なら復帰してもいいかなって思って。

二ツ木

どこかの誰かさんほどではないですけど、私の家もそれなりに裕福なので、金に物を言わせちゃいましたー。

七星

その低いテンションで言われてもなぁ。

七星

――というか、まさか同い年だったなんて。

七星は文字通りに頭を抱える。

二ツ木

まぁ、こういう再会も悪くはないんじゃない?

七星

悪くはないが――なぜよりによって。

二ツ木

ふふふ……。

二ツ木

これからよろしくね、生徒会長さん。

呪いの絵本の呪縛より解き放たれたはずの七星ではあるが――どうやら、まだまだ前途多難のようである。

【七星の場合 ―完―】

【四ツ谷の場合】

海沿いを延々とバイクで走り続けると、適当な埠頭にてバイクを停める。

事前にコンビニで買っておいた缶コーヒーをバックパックから取り出すと、海への落下防止の柵にもたれかかってコーヒーを一口。

四ツ谷

なんか、俺らしくなかったなぁ。

四ツ谷

なんだかんだで影で暗躍した人みたいになってしまったし。

四ツ谷

どっかの誰かが言ってたけど、俺はモブキャラでいいんだよ。

四ツ谷

そのおかげで、こうしてバイクを乗り回せるわけで。

誰に言うでもなく、独り言として漏らしてしまったのは、きっと口にすることで自分を納得させようとしたのだと思う。

自分で思っていた以上に声が大きかったことに気づいた四ツ谷は、言葉をぐっと飲み込んだ。

四ツ谷

(曲がりなりにも、遠縁の奴が引き起こしたことだ)

四ツ谷

(ケツを拭くくらいはできたんじゃねぇかな)

四ツ谷

(姐さん達を騙すような形になったのは不本意だったけど、まぁ仕方がないか)

沈む夕日を眺めつつ、コーヒーを飲み干すと、空き缶を捨ててバイクにまたがる。

四ツ谷

なんて言うか、やっぱり俺にはこう言うのが性に合ってるわ。

ぽつりと呟き落とすと、バイクのエンジンをかけ、そして沈みゆく夕日に向かってバイクを走らせたのであった。

【四ツ谷の場合 ―完―】

見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

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