柳瀬と大森のチャット
柳瀬
久しぶり
大森
おお、柳瀬
大森
珍しいじゃないか、お前から連絡するなんて
柳瀬
ああ
柳瀬
ちょっと相談したいことがあって
大森
相談?
柳瀬
こんなこと相談できるのは、お前だけなんだ
大森
何でも言えよ、親友だろ?
大森
どうした?
柳瀬
実は、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてる
大森
トラブル?
柳瀬
……言うのも恥ずかしいことなんだけど
大森
ためらってもしょうがないだろ
大森
話してみろよ
柳瀬
俺が小説をネットに投稿してるのは、知ってるよな?
大森
ああ
柳瀬
実はその読者の女と、個人的にチャットを始めたんだ
大森
……女関係か
大森
お前、美里ちゃんがいるのに何やってるんだよ
柳瀬
浮気とか、そういうんじゃないんだ
大森
じゃあ何だよ
柳瀬
ちょっとファンと話してみたいっていう、軽い気持ちで始めたんだけど
柳瀬
その女が変なんだよ
大森
変って?
柳瀬
俺に物凄い好意を寄せているみたいなんだ
大森
良かったじゃないか(笑)
柳瀬
良くないよ
柳瀬
突然、会ってもいないのに「会った」とか
柳瀬
抱いてもいないのに「抱かれた」とか言ってきて
大森
どういうことだ……?
柳瀬
その女の中で妄想が膨らんでるんだ
柳瀬
俺と交際していると思い込んでいる
大森
お前、本当に手を出していないのか?
柳瀬
手なんか出してない!
柳瀬
それどころか、会ってもいない
柳瀬
信じてくれよ!
大森
ああ、信じるよ
柳瀬
毎日大量のメッセージを送りつけてきて
柳瀬
どこでケータイ番号を知ったのか、無言電話も続いてるんだ
柳瀬
……もうノイローゼになりそうなんだよ
柳瀬
どうにかしてくれ!
大森
分かったよ
大森
落ち着け
柳瀬
……悪い
柳瀬
お前に怒ってもしょうがないことだった
大森
たぶんそのファンは、ストーカー気質の女だな
柳瀬
……そうだな
大森
そういう女には、きっぱりと言うべきことは言った方が良い
柳瀬
どうすればいい?
大森
きっぱり、迷惑だと伝えるんだ
柳瀬
そんなことはすでに何度も言ってるよ
大森
まだ足りないんだ
大森
相手にちゃんと伝わってない
柳瀬
……そうかなぁ
大森
もっと強い態度で拒絶するんだ
大森
女の素性は分かってるのか?
柳瀬
……いや
柳瀬
アヤと名乗ってるけど、本名かどうかは分からない
大森
それじゃあ、今の段階では警察に行ってもどうしようもない
柳瀬
……そうだな
大森
とにかく好意がないことを伝えるんだ
大森
何を言われても突き放せ
大森
それで相手も諦めるだろう
柳瀬
ああ、やってみる
大森
それより、最近どうだ?
柳瀬
どうって?
大森
美里ちゃんとは、上手くいっているのか?
柳瀬
……美里のことか
大森
あんなことになっても、付き合い続けているなんて、よっぽどお前のことが好きなんだ
柳瀬
……そうなのかな
大森
大事にしてやれよ
柳瀬
悪いな
柳瀬
そんなことまで心配させて
大森
大学からの仲だろ
大森
美里ちゃんだって、俺にとっては同級生なんだから
柳瀬
そうだな
柳瀬
学生の頃は楽しかったな
大森
ああ
大森
同じゼミでお前と美里ちゃんに初めて会った時は、正直こんなに仲良くなれるなんて思ってなかった
柳瀬
俺もだよ
柳瀬
お前はいかにも体育会系のスポーツマンで
柳瀬
格闘技をやっているせいか、体も大きかった
柳瀬
それに比べて、本ばっかり読んでいる俺は、細くて軟弱だった
大森
そうだったな
柳瀬
その時趣味で書いていた小説を、お前が読んだんだ
柳瀬
お前は、俺の小説を面白いと絶賛してくれた
柳瀬
自分の小説をあんなに褒められたのは初めてだった
柳瀬
それがきっかけで、俺は小説家になろうと決めたんだ
大森
そうだったのか
柳瀬
俺はお前のことを一番信頼しているんだ
柳瀬
だから、今までだって、良いことも悪いこともお前にだけは全て話してきた
柳瀬
俺と美里の、あの件を知っているのも、お前だけだ
柳瀬
これからも、俺の唯一の理解者でいてくれよ
大森
ああ、こっちだってそのつもりだよ
大森
また何かあったら相談してくれ
柳瀬
ありがとう
柳瀬とアヤのチャット
アヤ
……寂しい
アヤ
寂しい寂しい寂しい
アヤ
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい
アヤ
どうしてよ!
アヤ
どうしてチャットに来てくれないの!?
アヤ
恋人のことをこんなに放っておくなんて、ほんと悪い男
アヤ
ねぇ、お願いだから無視しないで
アヤ
私、無視されるのだけは絶対に嫌なの
アヤ
これ以上無視されたら、どうにかなっちゃうよ
柳瀬
おい!
アヤ
あ! やっと来てくれた!
柳瀬
もうやめろ!
アヤ
もう、何怒ってるの?
柳瀬
怒るに決まってるだろ!
柳瀬
どういうつもりなんだ!
柳瀬
毎日大量にメッセージ送ってきて!
アヤ
だって送りたいんだもん
柳瀬
それだけじゃない!
柳瀬
無言電話までしやがって
アヤ
電話してあげたら、喜ぶかなと思って
柳瀬
喜ぶわけないだろう!
アヤ
恋人なんだから、連絡するのは当たり前でしょ?
柳瀬
俺とお前がいつ恋人になったんだ!
アヤ
あーわかった
アヤ
照れてるんだ
柳瀬
ふざけるな!
アヤ
……私のこと、嫌いになったの?
柳瀬
お前のことなんか、そもそも好きじゃない
アヤ
そんなの絶対に嘘
アヤ
あんなに好きって言ってたくせに
柳瀬
言うはずない
柳瀬
お前のことなんか、嫌いだ
アヤ
……嫌い?
柳瀬
何度だって言ってやる
柳瀬
お前のことなんか、大嫌いなんだよ
アヤ
……ひどい
柳瀬
アヤ
……どうして?
アヤ
ねぇ、どうして?
アヤ
……あんなに愛してくれたのに
アヤ
どうしてそんなひどいこと言うの?
アヤ
何で黙ってるの?
アヤ
答えてよ!
アヤ
……わかった
アヤ
他の女がいるんでしょ?
アヤ
そうなのね?
アヤ
浮気したのね?
アヤ
ひどい
アヤ
私のことを散々弄んでおいて
アヤ
騙してたのね?
アヤ
初めから、体目当てだったんでしょ!
柳瀬
勝手にほざいてろ!
アヤ
……そんなひどいこと言うなんて
アヤ
……許さない
アヤ
私、遊ばれるような軽い女じゃないんだから
柳瀬
どっか行け!
柳瀬
このストーカー女!
アヤ
……もう怒ったわ!
柳瀬
怒ったって無駄だよ
アヤ
私を怒らせたらどうなるか、絶対に思い知らせてやる!
柳瀬
もうチャットしてくるんじゃないぞ!
アヤはルームを退出しました。






