引越し作業の業者が、 俺たちの住んでいた家の前へと 止まった。 どんどん運ばれて行く俺らの思い出は、 小さな箱の中に仕舞われ、 少し寂しそうに見えた。
作業中、 俺も蘇枋も無言で荷物を運び出し、 必要最低限の 会話だけを交わした。 気温は夏かと思うほど 暑く、 背筋に汗がツーっと流れた。
桜
蘇枋
蘇枋
桜
唯一自分から話しかけた言葉は、 無様に叩き捨てられ、 俺は弱い返事しか返す事が 出来なかった。
2人で居た家を懐かしみながら、 広くなってしまった、 今から1人で住むであろう この部屋を ぐるりと歩き回った。
部屋を移動する度に、 思い出すのは 懐かしく、 少し素っ気ない顔をする お前ばかりで、 俺の心臓をキュウっと縛り上げた。
俺が終わらせた関係なのに。 寂しく思っているのは 俺で、 いまも一緒に居たいと 縋る思いで、 蘇枋の上着をギュッと抱きしめた。
蘇枋
蘇枋
桜
桜
蘇枋
洗いたての上着を 少し名残惜しみながらも お前の手の中へと返した。 まだ日は高く昇っている昼頃 俺達は本当にお別れした。
蘇枋
元住んでいた家を出て、 昼から会社に出社した。 会社の人達は、 陽気な方が多く 俺が来るなり話しかけてくる人 が沢山居た。
同僚
同僚
蘇枋
同僚の女性が、 申し訳なさそうに俺を呼び出した。 機械を扱うのが苦手なそうで、 今だってコピー機に紙を詰まらせてしまっている。 偶かと思うかもしれないが、 3日に一度はコピー機が 動かなくなるので、 それは無いのだ。
蘇枋
同僚
蘇枋
同僚
蘇枋
このやり取りは一体何回目 なのだろうか。 もういいからと 自分の持ち場へ戻る様促した。 すごく申し訳なさそうな 顔をするので、 反省しているのはわかるが、 何度も何度も同じことを 引き起こすので、 最早わざとかの様に思えてきた。
機械音痴な彼女は、 どこか俺の恋人を…… 元恋人を連想させた。
上着を受け取った時の彼の顔は、 すごく寂しそうに見えた。 思わず目を見開いてしまった。 その瞬間の出来事は 仕事中でも俺の脳内を チラつかせた。
同僚
蘇枋
彼女とはよく昼食を 一緒に済ます。 と言っても、 俺はペットボトルに入っている お茶1本を少し飲むくらいで、 これといった物は食べていない。
同僚
利き手であろう手に 濃いピンク色の財布を握りしめ、 奢ると言い張る彼女。 3日に一度のこの会話を 社内では日常会話の 一環として見られていた。
周りの先輩からは、 あの2人付き合ってたり? そうだとしたらお似合いすぎる〜! 等と言うありもしない 戯言が聞こえてくる。
だって俺には恋人が…… と思いかけた脳内を、 スっと落ち着けさせた。 そうだった。 今は恋人が居ないのだ。
同僚
蘇枋
同僚
蘇枋
同僚
蘇枋
かれこれ 結構な仲なので、 こうしてちょっとした冗談も 言い合えるほどだ。
同僚
こういう強引な所も、 彼に似ていて 自然と顔が綻んでいるのを感じた。 チョロくて、機会が苦手で、 強引で、笑顔が可愛くて、 彼に似る面影を感じる度、 俺の中は、 彼の事でいっぱいになってしまう。
蘇枋
自分の革カバンの中へ 手を突っ込み 1本のお茶を取りだした。 ヒラヒラと見せるペットボトルに、 彼女はまたかっ! と悔しそうな顔を見せた。
同僚
同僚
蘇枋
同僚
蘇枋
蘇枋
同僚
蘇枋
同僚
同僚
彼女は自分が買った サンドイッチを握りしめ、 トホホ、と歩いていった。 俺も自分のペットボトルを 持ち、 彼女の後ろを着いて言った。
コメント
9件
やばい、切なすぎる、こういうのほんとだいすきです。
せ、切ない過ぎる…………俺も目から汗が………蘇枋さんこのまま行くとNL路線行くのか?辞めてくれぇ!
私も目から汗が、なんでだろ、、?