ハブになりたい

○○中学校、放課後

理科室にて

2ヶ月前

2年A組教室にて

それは唐突に、始まった

コトネがそう言うと

クラス中のみんなが大笑いした

もちろんヘビの方のハブじゃない

村八分……ハチブ……ハブだ

私は突き飛ばされた

床に尻もちをつき、頭が真っ白になる

なんでこんな事に……？

その日から、地獄が始まった

ハブられてから１ヶ月が経った

誰も口をきいてくれない

目が合うと薄笑いを浮かべて顔をそむけ

廊下ですれ違う時には大袈裟な仕草で身をかわされる

この人は先月来た臨時講師、都築博士

何度もテレビで見た事がある天才科学者

なんでうちの学校なんかに来たんだろう？

そういうとクラスの女子達が騒ぎ始める

博士は、頭が良くてイケメンだ

私とは対照的に、博士は人気者

『まだ死なないんですか？』

そんな紙屑が後ろの席から渡された

後ろの席のコトネが話し掛けてくる

背中が痛い

みぞおちが縮こまる

私は左胸に掌をあてた

心臓は止まる気配がない……

私の事なんてお構いなく 授業は進んでいく

……『ビタミンZ』なんて聞いた事ない

この天才科学者が作った……？

天才ってなんでもありなんだなぁ……

私は音もなく首をつねられた

更に１ヶ月が経った

皆の行動はエスカレートしていた

授業で配られるプリントを私を抜かして 後ろに回されたり

椅子に画鋲が置いてあったり

自宅のポストに『御霊前』と書かれた封筒を届けられたり……

今だってほら、放課後になると……

私を取り囲み、死ね死ねコールが始まる

『御霊前』のポスト投函で家族にもバレた

家にも学校にも、居場所はない

本当に、死んじゃおっかな……

……しぬ？なんで？

何も悪い事をしてないのに……？

なんでハブられた私が死ななきゃいけないの……？

そんなに私の事をハブハブ言うなら

本物のハブになって殺してやろうか……？

そう思うと何故か都築博士の事を思い出した

なんでも作り出す凄い天才なら

人を本物のハブにする事も出来るのではないか

私は気付けば駆け出していた

都築博士のいる、理科室に