また今日も
俺の部屋に そいつ は居る
学校終わり 世界がオレンジに染まる時間。
中学生の俺は、宿題したり漫画を読んで 高校生の そいつ は、甘ったるい恋愛小説を読む。
オレンジに染まる俺の部屋を、そいつ と共有することは
青春の無駄遣いだろうか
運動場を汗を流して駆け回ったり、 異性にドキドキするのが 青春?
少し首を右に動かすと、そいつ が視界に入る。
そのたびに、世間一般が抱いている「青春像」に、 「異性だけとは限らないだろ」とか思うのは
俺だけ?
また今日も
君の部屋に 俺は訪れる。
理由を君は聞かない。
聞かれても困るんだけど。
「好きな人はいないのか」 修学旅行の消灯時間、親と囲む食卓 これまで何回かされた質問に
どうして「異性」と答えたら満点で、 「それ以外」と答えたら減点されるんだろう
少し顔を上げたら、君の後ろ姿が視界に入る。
そのたびに 満点とか減点とか考えてしまうのは
俺だけ?
その人を前にしたら どうしようもなくドキドキしてしまう気持ちってな~んだ?
答えは……… ああどうして
胸が痛くなるんだろう
足の怪我が原因で、運動場に俺の居場所はなくなった。
途中棄権した俺に、優しく手をさしのべるお人好しなんて そうそう居ない。
皆 やんわりと、しかし確実に 壁を作った。
「もう来るな」を意訳したら 「お前の分も頑張るから」。
練習中の皆のかけ声を背中で聞きながら、1人帰路につくのは 涙が出るほど辛かった。
まだ日が昇っているうちに、鼻をすすりながら宿題をしていると そいつ が来た。
そいつは近所に住む2つ年上の高校生。
本も漫画も、俺が知ってる人の中で一番持ってる。
昔から そいつと居ると沈黙の方が長いけど、俺はそれが嫌いじゃない
むしろ 気を遣うのも遣われるのにも疲れた俺には心地いい。
静かだと感覚が研ぎ澄まされる。
だから
だから よく分かる。
声変わりを終えた低い声。 息づかい。
俺の 心臓の 音
優しい沈黙は、「心地いい」の次の段階に俺を拐(さら)ってしまった。
これがそうなんだ、と実感すると胸が高鳴って痛くなる。
きっとこれは身勝手なモノだから。 口にしたら、今の時間が無くなってしまいそうだから。
「好きな人いる?」
そいつの低い声が、オレンジの部屋に染みた。
お前だよ
この時間を無くしたくないから、 その言葉を
寸前で止める。
その人を前にしたら、どうしようもなくドキドキしてしまう気持ちってな~んだ?
答えは……… ああどうして
胸が痛くなるんだろう
昔から、俺に日なたは眩しすぎた。
日が当たる運動場で走る君も。
俺が昔、夢中になって読んだ本の主人公が君にそっくりだった。
君を見てると、物語の延長線を見ているようで ずっと目で追っていた。
もう少し大きくなってから、その想いの正体を知った。
胸が高鳴って痛くなった。
無口でつまらない俺と、学校終わりの時間を共有するのは きっと束の間。
高校生になれば、君はまた日なたに戻る。
この想いを吐き出せば、君は俺から離れてしまうかもしれない。
「異性」と答えたら満点で 「それ以外」と答えたら減点される。
だから胸が痛いけど、諦めよう。
「好きな人いる?」と聞いて、満点の答えを頂戴したら吹っ切れるはず。
「好きな人いる?」
「いるよ」
「どんな人?」
「言わなきゃいけない?」
俺だって 出来れば聞きたくねえよ
我が儘すぎるその言葉は
寸前で止める。
また今日も
明日も明後日も
胸が高鳴って
決定的な一言を避けて
オレンジの沈黙を共有する。
恋情だとわかっていながら
進まない。 ハグもキスもない。
もしかしたらそれ以上は求めていないのかもしれない。
ただ 学校終わり二人でいることが何よりの幸せで
それが1秒でも長く続いて欲しいから
これは
これは
コメント
16件
2人とも自分が普通じゃないと思ってしまい、手が届きそうで届かない、すごくもどかしかったです。あとから気づいたのですが初コメです〜。 フォロー、失礼します!
表現出来ないけどなんかとても、とても好きです...!
何コレすごく好きなんだけど……