テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
703
女子
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
大学のキャンパス、昼休みのメインストリート。
そこを歩けば、瀬戸ハル(せと はる)は嫌でも目立つ。
地毛に近い、けれど丁寧に手入れされたハイトーンの金髪。
少し緩めに着崩したシャツに、シルバーのチェーン。
そして何より、すれ違う誰もが振り返る整った顔立ちと、誰に対しても分け隔てなく振りまかれる愛想の良さ。
彼は、この大学でも指折りの「モテ男」だった。
友人
友人
瀬戸 ハル
適当な嘘で友人の誘いをかわし、ハルは華やかな大通りから一歩外れた。
向かうのは、キャンパスの端にある旧校舎。
今はほとんど使われていない、湿気と埃の匂いがする建物だ。
なぜそんな場所に行くのか。
理由は単純、ハルにとってそこが唯一「モテ男」という役を降りられる場所だから……というわけでもない。
数日前、忘れ物を取りにこの旧校舎へ立ち寄った際、彼は見てしまったのだ。
誰もいないはずの空き教室で、一人静かに文庫本を読んでいる、一人の男を。
瀬戸 ハル
階段を上り、三階の一番奥。
建付けの悪い引き戸を、音を立てないように慎重に開ける。
そこには、窓際から差し込む午後の光を浴びて、やはり彼が座っていた。
市川 奏
顔を上げたのは、市川奏(いちかわ かなで)。
茶髪でもなく、金髪でもない。
眼鏡をかけているわけでも、コンタクトで着飾っているわけでもない。
陽キャの群れに混ざるでもなく、かといって陰キャのように隅っこで震えているわけでもない。
一言で言えば、「間(あいだ)」の子。
ハルが普段関わる世界には、絶対に存在しないタイプの人種だった。
瀬戸 ハル
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルは奏の前の席に、勝手に椅子を引いて座った。
奏は嫌そうな顔一つせず、ただ栞を挟んで本を閉じる。
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
ハルの言葉に、奏は少しだけ首を傾げた。
その仕草は、驚いているわけでも、喜んでいるわけでもない。
ただ「不思議だな」と分析しているような、フラットな反応だった。
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルは机に肘をつき、奏の顔をじっと見つめた。
奏の肌は白く、瞳は少し薄い茶色をしている。
派手さはないが、見ていて飽きない不思議な造形だ。
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルは声を上げて笑った。
普段、ハルが笑えば女の子たちは顔を赤らめるし、男友達は「イケメンは得だな」と茶化してくる。
けれど、奏はただ呆れたようにハルを見ているだけだ。
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
ピタリ、と。
ハルの動きが止まった。
奏は淡々とした口調で続ける。
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルは苦笑いしながら、前髪をくしゃりとかき上げた。
見透かされた。
金髪で、チャラくて、ノリが良くて、誰にでも優しい「ハルくん」。
その仮面の下を覗こうとする奴なんて、今まで一人もいなかったのに。
瀬戸 ハル
市川 奏
奏は再び本を開こうとしたが、ふと思いついたようにハルを見た。
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
奏は満足げに小さく頷き、本の海へと戻っていった。
ハルはそれ以上話しかけず、ただ窓から入る風と、ページを捲る音だけを聞いていた。
胸の奥が、少しだけ熱い。
これが恋なのか、それともただの興味なのか、今のハルにはまだ分からない。
ただ、この「普通」で特別な時間を、もう少しだけ引き延ばしたいと思った。
瀬戸 ハル
そんな些細な悩みが、今のハルには、どんなパーティの誘いよりも重要だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!