これは夢だ。
すぐ気が付いた。
真っ暗な森の中、
目の前には
怯えた表情の中年男性が
椅子に拘束されている。
何か訴えているようだけれど、
上手く聞き取れなかった。
たぶん、夢だからだろう。
ゆっくりと近づく”私”の手には、
ペンチが握られている。
何をするのか、考えたくも無かった。
ギャーギャー喚く男性の、
爪を
剥いだ。
ペンチから伝わる感触は、
何とも言えず”私”は気持ち悪いと思ったのに
別のナニカは楽しそうだった。
次いで指を折る。
男性は
”なんでこんなことをするんだ”
と叫ぶ、
それもそうだ
理由も無しにこんな
拷問じみたこと受けるなんて
納得がいくわけがない。
だが、”私”は”
”心当たりが無いんですか?”
などと悠長に言いながら指を折っている。
次いで、五寸釘を取り出し
”私”は実に楽しそうに
”足に五寸釘を刺そうか”などと言う。
男性は顔を引き攣らせ喚いたが、
”私”は一切躊躇せず
足の甲に五寸釘を打ち込み、
手にした包丁で、
耳と鼻を削ぎ落し、
そして、
目玉を……。
なんで
なんで
こんなことをするのだろう。
この人は、
こんな目に遭わないといけないようなことをしたのだろうか。
それならば、
一体どんな酷いことをしたというのか。
ただ、
”私”は言う。
男性の体に透明の液体をかけながら、
男性の娘が
父親の
殺害を
依頼した、と。
驚愕の表情を見せる男性が、
炎に包まれた。
(希余)香坂仁
現実に戻ってきた。
カーテンの向こうは
ほのかに明るくなっている。
朝日がもう昇っているのだろう。
(希余)香坂仁
最後に聞いた
男性の断末魔が
耳に残っている。
(希余)香坂仁
楽しそうに人を殺していた”私”は、
おそらく
香坂仁本人だろう。
声が彼のものだった。
彼の記憶なのか、
彼が日頃からああいう夢を見るのか、
出来れば後者でありたいと思いつつ
たぶん、
前者なのだろうな、と理解する。
あの…人の爪を剥ぐ感触は、
人の指を折る感触は、
人の目に包丁を突き立てる感触は、
あまりにも現実味を帯びていて気持ち悪かった。
まだ眠っている自分を起こさないように、
そっとトイレに行き、
胃液を吐き出した。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
手に残った、
人を切り刻む感触が
取れない。
男性の
恐怖に歪んだ顔が
脳裏から離れない。
(希余)香坂仁
トイレから出て、
洗面台で顔を洗う。
鏡にうつったのは、
目の下に隈を作った男前。
今は楽しそうな笑みを浮かべる余裕が無さそうだった。
(希余)香坂仁
(仁)瀧澤希余
背後からひょっこりと顔を覗かせる私の体。
その中身は
普通の男性ではなく
殺人鬼。
信じたくはないが……。
(希余)香坂仁
(仁)瀧澤希余
(仁)瀧澤希余
(希余)香坂仁
(仁)瀧澤希余
私は横を通り抜けて、
布団に入る。
目を閉じると
また
あの夢を見てしまいそうな気がして、
目を閉じることは出来なかった。
いつも通り仁は、
台所に立って朝食の準備をする。
(仁)瀧澤希余
その問いに
私は素っ気なく
(希余)香坂仁
と、答えることしか出来なかった。
料理が完璧に出来て、
勉強も出来て、
友人たちとの交流も上手くいっているみたい。
完全無欠のイケメンだと思っていたのに、
とんでもないサイコパス殺人鬼野郎だった。
・
・
(希余)香坂仁
朝食を食べ終え、
仁を見送り、
一人ベッドに横になる。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
仁は瀧澤希余の記憶を見ている。
ならば、
希余が仁の記憶を見ている可能性は
十分にあり得るはずだ。
昨日、その話しをしたとき
もっと問い詰めてもいいはずなのに
仁はそうしなかった。
あっさりと身を引いて
寝てしまったのだ。
(希余)香坂仁
私の様子は明らかに変だし、
そこから自分の記憶を見られてしまったことは明白だと、
だからそれ以上の追及はしなかった。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
だから、
”香坂仁は殺人鬼です!”
と言ったところで
捕まるのは私なんだ。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
本当に?
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
私は起き上がり、
パソコンの電源を入れる。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
だが、しかし、
名前はどうしても思い出せなかった。
仁本人が、
自分の記憶力はあまり良い方ではないと言っていたので
忘れてしまった可能性もある。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
そして、
ふと、
脳裏を過ったのは、
(希余)香坂仁
鉈で頭をかち割られる
タクシー運転手の姿。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
殺したタクシーの運転手をタクシーの助手席に座らせると、
ここまで引きずっていた女性の死体、
(希余)香坂仁
引きずられたせいだろうか
半分肉が無くなっていた。
背筋がゾワゾワする。
その死体をタクシーの後部座席に投げ込むと、
自ら運転し、
真っ暗な山道を下って行った。
(希余)香坂仁
口にしたが、けして知りたくない情報だった。
(希余)香坂仁
そのキーワードで調べると
一件の事件がヒットした。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
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(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
カタカタとパソコンのキーボードを叩き、
SNSやインターネット掲示板等で
続報を探す。
(希余)香坂仁
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(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
薄暗い山道で尻もちをつき
怯えた顔でこちらを見上げる長塚正志の顔を思い出す。
すでに、このとき
香坂仁は女性を殺害した後だった。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
首を傾げる私が、
否、香坂仁の記憶から出てきたのは
泣き叫ぶ女性の顔。
(希余)香坂仁
薄暗いその場所は、
どこかの廃墟だろうか。
私はキーボードを叩く。
思い出したことは書きだしていこう。
彼の記憶を文字にして
誰かに送り付けておけば
私を殺したとしても
彼の逃げ道を防ぐことは出来るはずだ。
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
(希余)香坂仁
そう言って私は、
女性を殺害し、
ロータリーに二人の死体を放置するまでの経緯を書き出すことにした。
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コメント
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とうとう、香坂さんの正体を知ってしまいましたね!! 文章化して送ると決めたけれど、元に戻る前にキヨさんが捕まったりしないかな? 続きが楽しみです!!