TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

(希余)香坂仁

(これは…)

(希余)香坂仁

(思った以上に酷い…)

自分で書いた文章なのに、

希余は見返すことすらためらわれた。

(希余)香坂仁

(芋づる式に思い出したけど)

(希余)香坂仁

(薄暗い廃墟で男性を燃やし)

(希余)香坂仁

(殺した女性の目玉を抉り出して)

(希余)香坂仁

(飴の包み紙で包んで)

(希余)香坂仁

(子供に渡したり)

(希余)香坂仁

(医者の恰好をして)

(希余)香坂仁

(やってきた患者を殺したり)

(希余)香坂仁

(ざっと書き出しただけでも)

(希余)香坂仁

(5人以上殺してる…)

(希余)香坂仁

普通じゃない…

(希余)香坂仁

こいつは、普通じゃない

震えた声で言い、

頬を撫でる。

人畜無害そうな

人の良さそうな笑みを浮かべているけれど、

同じ笑みを浮かべて

人を切り刻み、

内臓を引きずり出し、

あっさりと燃やす。

(希余)香坂仁

でも、困った…

重いため息を一つ。

(希余)香坂仁

殺害前後の記憶が無い

廃墟に向かうのは徒歩が多いように思えたが、

その記憶も途中から始まるので

それ以前に何を使って来たのか、ということがわからない。

また、殺したあと現場を綺麗に片付けたその後の記憶もはっきりとしない。

(希余)香坂仁

……

(希余)香坂仁

凶器は殺人現場にある物を使っているし

(希余)香坂仁

その凶器もほとんど現場に残してる

(希余)香坂仁

死体も廃墟に放置

(希余)香坂仁

こいつが唯一被害者から取っている物があるとすれば

(希余)香坂仁

お財布に入った現金

(希余)香坂仁

抜き取った財布はその辺に捨ててる

(希余)香坂仁

そして、被害者のスマホは

(希余)香坂仁

破壊してから川に捨ててる

(希余)香坂仁

土地勘が無いからどこに捨てたのか

(希余)香坂仁

そこまではさすがにわかんないか

パソコンの画面に表示させた地図。

ほとんどの殺人現場が

人里離れた廃墟で行われ、

そこまでの道中で

現場が何県何市なのかを示す標識を見ていない。

いや、見えないと言った方が正しいかもしれない。

現場に向かう時間帯のほとんどが夜で、

辺りは真っ暗。

(希余)香坂仁

それでも、迷うことなく

(希余)香坂仁

こいつが廃墟に辿り着けているということは

(希余)香坂仁

下見をしている可能性が高い

そして、廃墟に凶器となる物があるということも

予め知っておいての犯行だった。

(希余)香坂仁

つまり、計画的犯行

(希余)香坂仁

それなのに、どの殺人にも

(希余)香坂仁

犯行動機が明白じゃない

(希余)香坂仁

まるで

(希余)香坂仁

ただ、そこで人を殺すためだけに

(希余)香坂仁

適当に人を選んで殺している

(希余)香坂仁

そんな感じがしてならない

実に楽しそうに笑いながら

目的も無く

人をバラバラにするその姿は

異常

の一言だろう。

恐ろしい、

恐ろしいと思うのに、

心惹かれるのは

何故だろう。

何故、こんなにも

このサイコパス殺人鬼のことが

気になって仕方ないのだろう。

他に誰を殺しているのだろう。

どうしてこんなことをしているのだろう。

わからないからこそ。

明確になっていないからこそ。

人は知りたいと思うのだろうか。

いつも通りの時間に帰ってきて、

いつも通り夕飯の準備をするその姿は、

まるで主婦のようだと思った。

話す言葉も立ち居振る舞いも丁寧で、

まともな人間にしか見えないが、

この丁寧は振る舞いで、

こいつは人を殺すのだ。

(仁)瀧澤希余

今日の晩御飯は具沢山のミネストローネにしてみました

そう言って微笑む。

(希余)香坂仁

(ああ、そうか……)

(希余)香坂仁

(私が必ず朝食にパンを食べることも)

(希余)香坂仁

(好物がグラタンや豚の生姜焼き、ミネストローネだと言うことも)

(希余)香坂仁

(こいつは)

(希余)香坂仁

(私の記憶を見ているから知っているんだ)

(仁)瀧澤希余

えーっと、なにか問題でも?

ミネストローネをじっと見つめたまま

一切動かない私を不審に思って

おずおずと尋ねてくる。

(希余)香坂仁

……ねぇ

(希余)香坂仁

一つ、聞いて良い?

(仁)瀧澤希余

なんでしょう

(希余)香坂仁

あんた

(希余)香坂仁

人殺しなの?

(仁)瀧澤希余

はい

(希余)香坂仁

……

顔を上げると、

そこにはいつも通り

笑みを浮かべる

私の姿が。

(希余)香坂仁

認める?普通

(仁)瀧澤希余

記憶を見ているはずですので

(仁)瀧澤希余

誤魔化しても意味は無いかと

(希余)香坂仁

ああ、なるほど

(希余)香坂仁

……

ミネストローネを一口運ぶ。

野菜の旨味がたっぷり出たスープは、

荒んだ心と体に温かく沁み渡った。

(希余)香坂仁

はぁ……

(仁)瀧澤希余

おや?いまいちでした?

”そこそこ自信はあったのですが”と付け加え

仁もスープを口に運ぶ。

(希余)香坂仁

こんだけ美味しい料理も作れる

(希余)香坂仁

気配りも出来る

(希余)香坂仁

話し方も丁寧だし

(希余)香坂仁

人に与える印象も悪くない

(仁)瀧澤希余

???

(希余)香坂仁

人に物を説明するのも上手いし

(希余)香坂仁

顔も良い

(希余)香坂仁

正直

(希余)香坂仁

……欠点が見当たらない

(仁)瀧澤希余

……

(希余)香坂仁

それなのに

(希余)香坂仁

どうして

(希余)香坂仁

人殺しなんか…

(仁)瀧澤希余

……

じっと私を見つめる目は、

いつになく真剣で、

自分の目は

あんなにも黒かったのかと思うほど

深い闇を湛えていた。

(仁)瀧澤希余

さぁ…どうしてでしょうね

(希余)香坂仁

あんたは普通に生きていけるだけの技量があるのに

(希余)香坂仁

どうして、普通に生きようとしないの

サイコパス殺人鬼なんかでなければ。

きっと、

私は

漫画や小説の中で語られるような

心ときめく恋愛が出来たんじゃないか。

そんな

馬鹿なことを

考えてしまう。

(仁)瀧澤希余

別に、変わったことをしているつもりはないんですけどね

(希余)香坂仁

え?

(仁)瀧澤希余

人は生きるために多くのモノを犠牲にしています

(仁)瀧澤希余

牛や豚といった家畜を殺し、食べていますし

(仁)瀧澤希余

環境を破壊して食物を作り、食べています

(仁)瀧澤希余

動物の皮を剥いで、靴や鞄を作り

(仁)瀧澤希余

それで着飾って嬉しそうに写真を撮ってSNSに上げていますよね

(仁)瀧澤希余

それなのに、どうして人を殺すことだけ

(仁)瀧澤希余

悪とみなされてしまうのでしょう

仁は首を傾げる。

(希余)香坂仁

そ、それは…

(仁)瀧澤希余

まぁ、哲学的な問題ですし

(仁)瀧澤希余

正解を示すことが出来る人なんていないので

(仁)瀧澤希余

考えるだけ無駄なことなんですけど

そう言って笑う。

(仁)瀧澤希余

私にしてみれば

(仁)瀧澤希余

人を殺すことは

(仁)瀧澤希余

人が生きるために出している

(仁)瀧澤希余

多くの犠牲の一つでしかありません

(希余)香坂仁

人の命も牛や豚と同じだと?

(仁)瀧澤希余

もちろんです

(仁)瀧澤希余

命は平等だと言うじゃないですか

(希余)香坂仁

それ、あんたが言う?

(仁)瀧澤希余

あははっ

(仁)瀧澤希余

よく言われます

(仁)瀧澤希余

まぁ良いように語っていますが

(仁)瀧澤希余

結局のところ

(仁)瀧澤希余

好きなんですよ

(仁)瀧澤希余

人を殺すのが

(希余)香坂仁

……

どうしてそんなことを

満面の笑みを浮かべて言えるのだろう。

不思議でならなかった。

(希余)香坂仁

初めて見たよ

(仁)瀧澤希余

??

(希余)香坂仁

正真正銘のサイコパス

(仁)瀧澤希余

え?私がですか?

(希余)香坂仁

なんでそんな信じられないみたいな顔するの

(仁)瀧澤希余

え、信じられないからですけど

(希余)香坂仁

いやいや

(希余)香坂仁

あんたのそれ

(希余)香坂仁

マジでサイコパスだから

(仁)瀧澤希余

ほぉ…サイコパスですか

(希余)香坂仁

感心しないでよ

(希余)香坂仁

ああ、もう、調子狂うなぁ

(仁)瀧澤希余

まぁまぁ

(仁)瀧澤希余

ご飯をしっかり食べれば調子も戻りますよ

(希余)香坂仁

戻るわけないでしょっ

(仁)瀧澤希余

ほら、冷めてしまっては勿体無いので

(仁)瀧澤希余

食べてしまいましょう

(希余)香坂仁

……

調子が狂う。

もっと、

どうしようも無いほどダメ人間なら

すぐにでも警察に突き出してやるのに。

……

あ、そうか入れ替わってるんだった。

いや、間違いなく狂ってはいるんだろうけど、

どうにも私の中で

殺人鬼=香坂仁になりきれていないのかもしれない。

まだ、

心のどこかで

それを否定している自分がいるんだ。

あれだけ凄惨な記憶を垣間見たというのに。

(希余)香坂仁

ねぇ

(仁)瀧澤希余

はい、なんでしょう

明かりを消した部屋。

仁は床に敷いた布団に横になっている。

(希余)香坂仁

今まで何人殺したの?

(仁)瀧澤希余

……

(仁)瀧澤希余

……3人?

(希余)香坂仁

絶対嘘!

すかさずつっこむと楽しそうな笑い声が聞こえた。

(希余)香坂仁

最低でも5人は殺してるはずだけど

(希余)香坂仁

覚えてないってこと?

(仁)瀧澤希余

…いえ

(仁)瀧澤希余

えーっと、たぶん

(仁)瀧澤希余

29人、ですね

(希余)香坂仁

えっ!

(仁)瀧澤希余

あははっ、冗談ですよ

(希余)香坂仁

なっ!?

(仁)瀧澤希余

そんないちいち覚えているわけないじゃないですか

(仁)瀧澤希余

殺した人数なんて

仁は欠伸を噛み殺しながら言う。

(仁)瀧澤希余

では、おやすみなさい

(希余)香坂仁

…もぉ

ほんと、

調子狂う。

【完結】入れ替わり

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

250

コメント

5

ユーザー

キヨは、かなり影響を受けていますね……。続きが気になります!!

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚