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宝石店「ジュエリーアイ」のオーナー、石橋達彦は誰かを探すように、
午後十時過ぎのS公園を注意深く見回した。
やがて、焚火の音が聞こえそこへ行くと、
火の光に照らされた見覚えのある顔が視野に入った。
薄汚れた服装にボロボロの帽子を被った冴えないホームレスだが、
石橋はそばへ行くとその男の横にゆっくりとしゃがんだ。
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上というホームレスは煤で汚れて手をポケットに突っ込んだ。
周囲を気にしてから中の物をゆっくり取り出した。
それは、深紅のダイヤモンドだった。
想像もしなかった代物の登場に石橋は思わず目を見張った。
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
池上敏男
池上敏男
池上敏男
池上は鑑定してくれと言わんばかりに、宝石を石橋に押し付けた。
石橋は持ち前の好奇心を発揮し、宝石を仔細にチェックした。
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
池上敏男
と、池上は自嘲的な笑いを浮かべてから、
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋は呆然とする池上に宝石を返し、立ち上がるとその場を後にした。
石橋が自宅に帰ると、妻の聡子がリビングでテレビを観ていた。
石橋達彦
聡子
石橋達彦
聡子
時刻は既に午後十一時を過ぎていた。
池上と公園で話してから家路に着くまでの間に思ったより時間が経過していた。
まさかホームレスと話していたとは言えず、
石橋達彦
聡子
聡子
石橋達彦
聡子
石橋達彦
石橋が問うと、聡子は彼を無視し、再びテレビに視線を向けた。
二人の夫婦関係はお世辞にも良好とは言えなかった。
そもそも、二人は見合いが切っ掛けで一緒になったのだが、
孤独を好む石橋と性格のきつい聡子とは当時から相性が悪かった。
見合いを薦めた恩師の手前、石橋は断り切れず関係を持ったのだが、
今では仕事から帰宅するたびに後悔する毎日だった。
常々、石橋は離婚するのが最善だと言い聞かせていた。
石橋達彦
だが、聡子は離婚する意思は毛頭無いと主張した。
聡子という女は扱いにくい性格に反し、妙に律儀なところがあった。
石橋と同じく、聡子も恩師により見合いを薦められたのだが、
彼女はその恩師を未だに慕い、尊敬していた。
聡子は今の結婚生活がどれだけ満足しないものであっても、
恩師の厚意を裏切る行い、つまり離婚は死ぬまでするつもりはないと、
ハッキリと面と向かって石橋に主張したのだ。
自室に戻って石橋は腰を下ろすと、頭を抱えて唸った。
石橋達彦
どうにか離婚に持ち出す方法はないかと石橋は考えた。
石橋達彦
ふと、石橋の脳裏にある考えが浮かんだ。
じっくりと考えを巡らし、到達した結末を予測した石橋は、
ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
翌日、店を出た石橋は再びS公園へ向かった。
昨晩と同じ場所へ行くと、案の定、池上が焚火に当たっていた。
おもむろに横にしゃがむと池上がギョッとした。
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
「えっ」という顔で、池上が石橋を見詰めた。
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋は頭の中で文句を言いつつ、池上に愛想笑いを向けた。
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上は即座に答えた。
恐らく、事前に決めていたと思われる。
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋は小さく首を振り、指を五本立てて見せた。
石橋達彦
池上敏男
当然、池上は眉を寄せたが、やがて険しい顔付きで石橋を見、
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
石橋が耳を貸せとジェスチュアした。
話を聞いた池上の顔色がどんどん青ざめていく。
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
池上敏男
池上敏男
池上が背を向けると、石橋が聞こえよがしにため息を吐いた。
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
キッと睨む池上に石橋はまた五本の指を立てて見せた。
石橋達彦
石橋達彦
心の中を見透かされたのか、池上が無言で焚火に視線を戻す。
数秒の沈黙が流れた後、石橋が腰を上げた。
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋がこれ見よがしに体を震わせその場を離れようとした。
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
池上敏男
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
池上敏男
池上敏男
石橋は不気味な笑みを浮かべ頷いた。
主任
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋が涙ぐみながら途切れ途切れに言った。
この日のために練習した演技が遺憾なく発揮されていた。
主任
主任
石橋達彦
主任
主任
主任が質問し、石橋はゆっくり頷いた。
主任
主任
主任
予想通りの質問だ、と石橋は頭の中で苦笑した。
石橋達彦
主任
主任
主任
石橋達彦
石橋達彦
主任
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋達彦
石橋は親族を失った遺族よろしく、再び涙ぐむ演技をした。
そんな石橋を気の毒に思ったのか、主任はそれ以上なにも言わなかった。
そのとき、刑事が一人来て、主任に耳打ちした。
主任が険しい表情を浮かべ、唸りながら腕を組んだ。
石橋達彦
主任
石橋達彦
主任
主任
石橋達彦
演技ではなく、石橋は本当に驚いた。
主任によると、池上はS公園付近の交差点で信号待ちをしている際、
突然飛び出し、走行してきた自動車に跳ね飛ばされたらしいのだ。
しかも、目撃者によると奇妙なことに、まるで背後から突かれたような感じで、
池上は車道に飛び込んだように見えたというのだ。
石橋達彦
予想だにしない展開に石橋は一瞬に呆然としたが、
少しして、彼は小さくほくそ笑んだ。
石橋達彦
聡子が池上によって殺害されて一ヶ月が過ぎたときだった。
石橋が遺品の整理も兼ねて身の回りの不要品を掃除している際、
池上が持っていた例の深紅のダイヤが靴箱から発見された。
最初、石橋は何故こんな所に、と疑問を抱いたが、少ししてフッと笑った。
石橋達彦
恐らく、しっかり仕事を果たしたという意味を含めて、
石橋がやがて見るであろう靴箱に宝石を残していったのだろう。
石橋はそう思いながら、宝石を手にリビングへ引き上げた。
ソファで寛ぎながら、ゆっくりと深紅に輝く宝石を見詰める。
やがて、スマホを取り出すと何処かへ電話を掛け始めた。
石橋達彦
石橋達彦
掛けた先は、池谷という宝石商で、いわば同業者に近い立場の友人だった。
石橋達彦
池谷岩男
と、池谷が電話の奥で苦笑するのが分かった。
石橋達彦
石橋は一度、スマホをカメラモードに切り換え、宝石の写真を撮った。
その写真を池谷宛てに送ってから、
石橋達彦
石橋達彦
池谷岩男
池谷岩男
石橋達彦
池谷岩男
受話器越しに、池谷がなにかを探しに立ち上がるのが分かった。
数分が経過して、スマホから池谷の弾むような声が聞こえた。
池谷岩男
石橋達彦
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
石橋達彦
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
石橋達彦
石橋は内心で笑いたい気持ちを抑えながら宝石を弄り回した。
池谷岩男
石橋達彦
石橋は礼を言い電話を切ると、今度は別の番号をプッシュした。
彼が二回目に掛けたのは聡子殺しの事件を捜査したあの主任警部だった。
石橋は、靴箱から深紅のダイヤが見付かったこと、
それが以前、池上がこっそり私に自慢して見せた宝石に似ていると伝えた。
主任は大急ぎで石橋の自宅に来ると、証拠品となり得るダイヤを受け取って帰った。
石橋達彦
「死人に口なし」と、石橋は愉快気に独り言を呟きドッとソファに身を委ねた。
そのとき、スマホの着信音が部屋に響いた。
石橋が出ると、相手はさっきやり取りしたばかりの池谷だった。
石橋達彦
と、石橋がいうと、池谷は何故か落胆するように深く息を吐いた。
池谷岩男
池谷岩男
石橋達彦
池谷岩男
池谷岩男
石橋達彦
石橋達彦
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
池谷岩男
そう聞いて、石橋はハッとした。
石橋達彦
しかも、確かあれは目撃者によると池上は足を踏み外したというより、
なにかに背後から突かれたような様子だったと言われている。
石橋達彦
石橋は慌てて電話を切ると、すぐに主任の番号をプッシュした。
が、突然聞こえたドアホンの音で石橋の手が止まった。
石橋達彦
とにかく、石橋は玄関へ急いで駆けた。
どうにか言い訳を考えて宝石を手元に取り戻す必要があった。
石橋達彦
ドアを開けた石橋は凍り付いてしまった。
彼の目の前に立っていたのは主任警部ではなかった。
たった今、墓場から甦ったかのような生気のない顔色を浮かべた、
妻の聡子とホームレスの池上敏男の二人が人形のように立っていた。
2021.02.28 作