2029年8月15日
――聞こえますか
中央放送のラジオ回線を お借りして
ひっそりと放送しようと 思っています
日本は まもなく消えようとしていますが
すでに日本は 壊れました
それは決して 暴力に走った国民たちだけの
せいではありません
この国の歪んだ体制が
自らを破壊したのです
わたしが声を大にしてさけんでも
政府の方針が変わることは ないでしょう
国民が言葉を持つことができない 日本はそういう国になりました
政府と戦い 亡くなられた方々の
ご冥福をお祈りします
わたしたちは もう間もなく
なすすべも無く死にゆく 運命にあります
どうか その先にあるものが
安らかな地でありますように
そんな思いを込めて
音楽を流そうと思います
これを聴いている方の 心に届きますように
――グスタフ・マーラー作曲
交響曲第2番「復活」
父
父
真奈
母
母
父
父
母
母
母
母
父
父
父
母
真奈
母
母
父
父
真奈
父
父
父
父
父
母
母
母
父
父
真奈
真奈
母
母
母
母
父
真奈
真奈
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
課長
老父
老母
老父
老父
老母
老父
老父
老父
老母
老母
老母
老父
老父
老父
老父
老父
老母
老母
老母
老母
老父
老父
老父
老父
老母
老母
老母
老父
老父
老母
横浜経済特区B港には
すでに警察と自衛隊を乗せる
巨大なタンカーが到着していた
鍵のかかった 鉄柵のバリケードを
民衆はガンガン叩いていた
警備隊
警備隊
警備隊
民衆はみな すでに力尽きていたが
叫ぶのをやめようとはしなかった
うめくような声で 罵声を絞り出し続けていた
その民衆をかき分けるようにして
立たちはバリケードに 近づいていった
それが警官の目に入り
彼はライフルを 先頭を歩くサワタリに向けた
警備隊
サワタリ
警備隊
サワタリ
サワタリ
警備隊
警備隊
サワタリ
サワタリはつづいて 絵美衣を指さした
サワタリ
サワタリ
サワタリ
警備隊
警備隊
サワタリ
サワタリ
サワタリ
警備隊
警備隊
警備隊
絵美衣はポケットから 階級カードを素早く取り出し
警備隊長に見せた
警備隊
警備隊
警備隊
警備隊
警備隊長は自衛官に ハンドサインを送る
するとすぐに迷彩柄のヘリが
民衆の上空に現れた
警備隊
警備隊
警備隊
ヘリから縄ばしごが 地上に垂れ落ちる
疲れ果てて 助けが来たのかと思った民衆たちは
雄たけびを上げながら はしごにつかまる
バリケードの向こうから 発砲音が聞こえる
銃弾は容赦なく はしごに群がる民衆に打ち込まれていく
警備隊
絵美衣
立は絵美衣の肩を ぽんと叩いた
立
立
絵美衣
立
立
絵美衣ははしごに近づいて行った
サワタリと立は それに続くかたちで
ヘリへ近づいていく
絵美衣ははしごの足掛けをつかみ なれない所作で少しずつ上がっていく
やがて絵美衣は はしごを登り詰め
ヘリのなかに入った
警備隊
サワタリ
ヘリのウインチが作動し 縄ばしごが引き上げられていく
サワタリ
サワタリは逃がすものかと 言わんばかりに
はしごに飛びついた
立
立
立は警備隊長の方をむく
ライフルの銃口は まっすぐサワタリに向いていた
立
立
そして
無情にも 発砲音が鳴った
サワタリははしごから 捥げるように地上に落ちた
警備隊
警備隊
警備隊
警備隊
ヘリはタンカーの裏側へ 飛んでいき
やがて見えなくなった
立はバリケードにしがみつく
立
立
警備隊
警備隊
立
警備隊
警備隊
警備隊
警備隊
立は歯噛みをすることしか出来なかった
それから群衆をかきわけ バリケードから遠ざかった
サワタリは大腿の付け根を負傷して
身体も傷だらけで 仰向けになっていた
立はくちもとに 手をかざした
立
立
サワタリ
サワタリ
サワタリ
しかしその口調は 風前の灯のように
弱々しかった
立
立
立
立
サワタリ
立
サワタリ
サワタリ
立
立
サワタリ
サワタリ
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