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はぁ…… 大好き♡
ヤバい!好き!!!
鼻の先が ぶつかりそうな距離で、
私の奥を 覗き込んだ彼の言葉は
私が見る世界を 180度変えてくれた。
何気ない無意識を意識している
君は知らない。
チョコレートみたいと 言ってくれた髪の毛が
カフェモカ色だと 教えてくれた瞳が
私に《すき》を 教えてくれた。
だから、今日という日に
渡せたら。
両親から貰った名前も
その由来であるコーヒーも
正直、どちらも嫌いだった。
暗い褐色の髪とは相対し
白がかかった、 主張の弱い茶色。
私にかけられる言葉は いつもそうだから
変、って
言われると思った。
彼が私に近づいた。
鼻の先がぶつかりそうな距離。
彼の瞳に私が映っていて
その近さに戸惑った。
きれい、なんてそんなこと
はじめて、言われた。
耳が、身体が、 先を知りたがる。
少しだけ、 希望を抱いてしまう。
ぱっと、 視界が晴れたようだった。
嫌いな目で見ていた世界が、
塗り替えられていく。
身体中にあたたかい幸福が 広がっていく。
笑みが、零れた。
ばちっ、と視線がぶつかった。
途端彼は勢いよく顔を背け、 口を手の甲で隠した。
首を傾けると、 彼は机の上で頭を抱えた。
私を呼ぶ声は、 絞りだされたように細かった。
耳を赤く色づけて、 彼が目線だけ私を向く。
とん、と身体のなかで
居場所のわからない心が跳ねた。
あのときから私は、
好きになった。
隣の席で伏せる彼の 落胆した声。
曖昧な相槌を返して、 本を閉じた。
鞄を探っても 見つからないので
中身をひとつひとつ 机の上に置いていく。
小さな木目の面積が あっという間に埋まった。
包みを開いて、齧(かじ)る。
ふたりしかいない 放課後の教室に
カリッ、と 小気味いい音が響いた。
口のなかに、 カカオの風味が充満する。
苦笑する彼を見て 首を傾げる。
缶コーヒーの蓋を開けた。
彼にとって無意識だったことが
私を変えてくれたこと。
それは、私だけの秘密。
まだ雨は降っている。
ひとつだけ、鞄のなかから 出さなかった紙袋。
イベントとか行事なんて、 ずっと興味なかった。
だけど、今日は特別だから。
彼に、渡せたら。
ふたりで入ると、 傘は思いのほか小さくて
気づかれないように、 紙袋を後ろ手で持つ。
心臓のリズムが、 いつもより速い。
こんな思いをするのは、
彼がいたから。
自分の名前、瞳、コーヒー
嫌いだったものを 好きになれたのも。
はじめての 気持ちをくれたのも。
全部、彼がいたから。
緊張で薄い空気を吸って、 口を開いた。
何故か震える手で、 彼に差しだした。
雨の音すら霞んで聞こえる。
いつもより掠れた声が、 鼓膜と鼓動を揺らした。
顔を上げて見ると、 彼は片手で顔を覆っていた。
需要なんてないと思っていた、 なけなしの勇気を振り絞る。
紙袋を突きつけると、 彼は慎重に受けとった。
鞄を顔の前に掲げて、 熱い顔を隠した。
明るい、と思ったら
いつの間にか、 雨はやんでいた。
潤いのある青空が眩しい。
夕陽に照らされる彼の横顔は
オレンジと赤の 2色に染まっていて
思わず、零れてしまう。
真っ赤になって、 彼が噎(む)せた。
数秒間見つめ合う。
口元を手で隠して、 急いで視線を逸らした。
肩を震わせる彼を睨む。
視界が飴色の傘に遮断される。
一瞬、何かが触れた。
痺れる唇を、指でなぞる。
身体が固まったように、 動けない。
そんな私の手をとって、 彼が言った。
唸る彼に、笑えてしまう。
それでも、 繋いだ手は離れないことが
幸せ、だと思った。
珈琲色ラバーズ