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ライブ当日。 咲は学校の制服を脱いで、私服に着替えた。
ポケットに入れたスマホが震え、 画面には「哲汰」の名前と一通のメッセージ。
咲
哲汰
哲汰
咲
その文字を見た瞬間、咲は一瞬、息をのんだ。
武道館
テレビやネットで見たことのある、あの大舞台。 何万人もの歓声が響く、夢のような場所。
咲
胸の奥がじんと熱くなった。
あの、階段の踊り場で出会った男の子が、 放課後に小さく笑って「今日も好きだよ」って 囁いてくれた彼が―― 今夜、何千もの視線の中に立つ。
それでも哲汰は、 「咲ちゃんに見てほしい」って 言ってくれた。
それが、どれだけの覚悟か。 咲には、ちゃんと伝わっていた。
会場に着くと、すでに外は熱気に包まれていた。 ペンライトを手にした女の子たちの笑顔、 グッズを大切そうに抱えるファンたち。
その中で、関係者入口に案内された咲は、 胸が高鳴るのを止められなかった。
スタッフに通された席は、 関係者席のいちばん前のセンターだった。
こんなに近い距離で、 哲汰のすべてを見られる。
ライトが暗転し、ステージにスポットが当たる。
音楽が鳴る。 歓声が上がる。 そして――彼が、そこにいた。
スポットライトの中、 真剣な眼差しと全身で魅せるダンス。 それと透き通るような歌声。
汗に光る額も、息遣いも、 咲の目にはすべてが美しくて、眩しかった。
咲
でもそれ以上に――
咲
そう胸を張って思えるくらい、 誇らしくて、愛しかった。
ステージの途中、 哲汰が一度だけ目線を送ってきた。 その視線が、咲にまっすぐ届く
小さく微笑んで、 彼は口の動きだけでつぶやいた。
哲汰
咲は胸に手を当て、しっかり頷いた。
この瞬間を、 一生忘れないと、心に誓った。