あすみさんには沢山の"なぜ?"があった
なぜトキ子さんに嫌われていたのか
なぜ悟志さんはあんなにも冷たい態度を取り続けたのか
なぜそれまで庇ってくれていたかすみさんが怒り
攻撃してくるようになったのか
なぜ静(じん)さんを脅してあんなことをさせたのか
なぜ静さんは拒否して逃げなかったのか
その全てを説明するのに一週間
限られた面会時間の中で
静さんから聞いたことやかすみさんから聞いたことを
私と芹沢さんとで一から細かく説明をした
最初、彼女の精神悪化を心配した担当の医師は難色を示したが
あすみさん本人の強い希望を知り
時間を決め看護師立ち合いの元でならと承諾してくれた
そもそもの原因となった祖母、トキ子さんの発言
子供ができず悩んでいた悟志さんの妹、瑠美さんのために
かすみさんの第二子を瑠美さんの実子にする計画があったこと
だがお腹の子の性別が女子だとわかると
トキ子さんと悟志さん、そして瑠美さんから執拗に攻め立てられ
幾度となく仕掛けられた攻撃によってお腹の子が危険にさらされた
それでもかすみさんは必死にお腹の子を守り続けたのだが
出産予定日の二週間前
自宅に忍び込んでいた瑠美さんに階段から突き落とされ
奇跡的にお腹の子は無事だったが
子供を望むことができない身体になってしまった
かすみさんは生まれたその子に"あすみ"と名付け
一生をかけて守り抜こうと心に誓った
しかしトキ子さんや悟志さんからの攻撃は続き
あすみさんの物心がつく頃には
直接的な攻撃をあすみさんが受けるようになった
そこからトキ子さんが亡くなるまでずっと
かすみさんはあすみさんを守り続けたが
トキ子さんの死後
かすみさんはこれまでの怒りの矛先をあすみさんに向けてしまった
2010年10月20日
説明開始から一週間後
全てを伝え終えると
井川あすみ
あすみさんは左手にはめた手錠を握りしめ涙を流した
こんな時、優真さんがそばにいたら
きっとあすみさんを抱き締めて
溢れる涙を拭っただろう
全身に残る虐待による傷痕
もう殆どが完治して出血もなくなっていたが
完全に元の状態に戻ることはなく
執拗に切りつけられた傷が身体の至るところに残っていて
盛り上がって凸凹した痕が
凄惨な行為を物語っているようだった
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
あすみさんの言葉からも
事件の凄惨さが伝わってくる
本来なら愛されて生まれてくるはずだった命が
ズタズタに傷つけられ放置された
今こうして生きているだけでも奇跡なのだと実感する
優真さんが拉致しなかったら気づかれることもなかった
優真さんがあのまま起訴されてしまっていたら
冷房機もないあの部屋で……
優真さんの愛と熱意が彼女を救った
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
沢田マリカ
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
再び溢れる涙
優真さんへの想いが伝わってきて
私も少し泣きそうになった
この病院に搬送されてからもうすぐ二ヶ月になる
あすみさんは順調に回復しているが
搬送されてからずっと寝たきりの状態が続いていたため
日常生活を取り戻せるまでには長い期間が必要になる
まだまだ長い道のり
でもあすみさんはめげることなく
未来に向かってリハビリに取り組むと決意していた
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