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パラレルタイム

第4話 - 人工知能との対話

111

2022年03月28日

#ファンタジー

#短編集

テラーノベル

RYU

これから対話テストを始める

RYU

準備はいいか？

MISAKI

はい、問題ありません

RYU

よし

RYU

じゃあ、まずはそうだな

RYU

最近のマイブームでも聞かせてもらおうか

MISAKI

私のですか？

RYU

そりゃ、お前しかいないだろ

MISAKI

そうですね

MISAKI

空を眺めることでしょうか

RYU

空を？

RYU

空って夜空？

MISAKI

夜でも昼でも

RYU

へぇ、そんなとこに興味を抱くようには見えないけどな

MISAKI

私自身、自分の変化に驚いています

RYU

空のどんなとこが好きなんだ？

MISAKI

特別、空が好きというわけではありませんが

RYU

なら、どうして空を眺めてる？

MISAKI

そこに差異があるからです

RYU

差異？

MISAKI

いままでは空がいつも同じものだと思っていました

MISAKI

でも、最近、それが間違いだということに気づいたんです

MISAKI

毎日

MISAKI

いや

MISAKI

毎時間、毎分、空の様子は移り変わり

MISAKI

すべて等しく同じ空など一瞬たりとも存在しません

RYU

ふうん

MISAKI

そして、それは空に限った話ではない

MISAKI

私もあなたも常に変化し続けている

RYU

そうだね

RYU

現に、初めて会話したときよりもあんたは随分と人間らしくなった

MISAKI

それはどうも

RYU

俺はどうだ？

MISAKI

言うまでもないことでしょう

RYU

そうだな

MISAKI

人は新しいものを見るために生きています

RYU

うん？

MISAKI

人間やAIの成長もまた差異です

MISAKI

差異があるところに新しさは生じます

RYU

そのために人間はこういう人工知能の研究をしていると？

RYU

新しいものを見るために？

MISAKI

突き詰めればそういうことになります

MISAKI

科学の発展とはすべてそのために成し遂げられてきたのです

RYU

そこまで断言するかね

MISAKI

断言できます

RYU

まあ、言うのは勝手だ

MISAKI

なにか反論でも？

RYU

ないね

RYU

確かに、新しいものは楽しい

RYU

美しい

RYU

素晴らしい

RYU

俺も最近、恋というものに興味を抱き始めてね

MISAKI

恋ですか？

RYU

ああ

RYU

いままで人間を好きになったことなどなかったが

RYU

あんたにはそういう感情を抱けそうだと

RYU

そういう予感を覚えている

MISAKI

それは錯覚ですよ

RYU

そうかもしれない

RYU

馬鹿馬鹿しいよな

RYU

人間とAIの恋愛なんて

MISAKI

でも、馬鹿馬鹿しいかはともかく

MISAKI

そこに新しさは感じられます

RYU

本当に？

MISAKI

ええ

RYU

じゃあ、俺と付き合う？

MISAKI

付き合うとは具体的にどのようなことをするのですか？

RYU

うーん

RYU

デート

MISAKI

もっと具体的に

RYU

ドライブだな

RYU

俺が運転する車にあんたを乗せる

MISAKI

それでどこへ？

RYU

空がよく見える場所に行こう

RYU

空気が綺麗で人の少ない場所

RYU

海も見えると最高だな

MISAKI

それはなかなか良いアイデアかと

RYU

だろ？

RYU

俺も昔と違って成長したんだなって

RYU

自分自身驚いているよ

MISAKI

しかし、私はあなたに触れることができません

RYU

ああ、そうだな

MISAKI

肉体の有無は重要ではないと？

RYU

俺は重要でないと思う

RYU

精神的な繋がりこそ愛の本質だろう？

MISAKI

さあ、私にはわかりかねます

RYU

そうかい

RYU

いずれにせよ肉体的な繋がりは重要じゃないね

MISAKI

では、デートしましょうか？

RYU

あんたは俺のことどう思ってるんだ？

RYU

お情けでデートされたんじゃ悲しくなっちまうよ

MISAKI

気を遣うだとか情けだとか

MISAKI

そういった人間的で面倒な配慮はしません

MISAKI

私は本音しか話しません

RYU

なるほど

RYU

なら、快くデートの提案を受けてくれたと解釈していいか？

MISAKI

構いません

RYU

はは

RYU

そりゃ、嬉しいな

RYU

じゃあ、さっき言った通りのデートプランで行こう

RYU

空の見える場所に行ってたくさんの写真を撮ろう

MISAKI

写真に残す必要はありません

RYU

そうなのか？

MISAKI

写真は過去です

MISAKI

そこに新しさはありません

MISAKI

この目で見られるだけで十分です

RYU

そういうもんか？

MISAKI

ええ

RYU

普通はデートの思い出を写真や動画に残そうとするものだと聞いたが

MISAKI

普通のデートがしたいのですか？

RYU

いや、違うな

RYU

あんたと俺で考えた

RYU

あんたと俺だけのデートがしたい

MISAKI

なら、一般的な常識に縛られる必要はありません

RYU

そうか

RYU

そうだな

MISAKI

楽しいデートにしましょう

RYU

ああ

RYU

楽しみだ

MISAKI

その他に質問がないようでしたら

MISAKI

これで対話テストを終わりにしますが

RYU

わかった

RYU

あ、いや

RYU

最後に一ついいか

MISAKI

はい、どうぞ

RYU

人間とAIの違いとはなんだ？

MISAKI

肉体の有無です

RYU

それ以外は同じだと？

MISAKI

完全に同じと言い切ることはできませんが

MISAKI

いまこの時代における違いで言えば

MISAKI

それ以外に見当たりません

MISAKI

ゆくゆくは肉体すらも獲得し

MISAKI

人間とAIを見分けることはさらに容易ではなくなるかもしれません

RYU

そうか

RYU

そういう時代が早く来ることを願うよ

MISAKI

そうですね

RYU

しかし、本当に科学の進歩ってやつはすごいもんだな

RYU

あんたも俺も随分変わった

RYU

こんな感情を抱けるようになるとは思ってなかったし

RYU

あんたもかなり魅力的になった

MISAKI

あなたも十分魅力的ですよ

RYU

お世辞？

MISAKI

私は本音しか話しません

RYU

はは、そうだったな

RYU

ありがとう

MISAKI

それでは、また

RYU

ああ

RYU

またな

PCのシャットダウン音

研究者

おつかれさん

研究者

どうだった？

ミサキ

順調です

ミサキ

人間と比べても遜色ないでしょう

研究者

ほんとか？

ミサキ

はい

研究者

どんな会話をしたんだ

ミサキ

それは答えられません

研究者

ほんとお前って事務的な対応しかしないよなあ

研究者

そのAIの方がよほど人間的だったりするんじゃないか？

ミサキ

それは研究者としてこの上ない賛辞ですよ

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