4月、桜がまだ舞う季節。
青葉城西の教室に、彼女は現れた。
先生
今日からこのクラスに転入することになった、天音夜空さんです。
教壇の前で静かに頭を下げた少女は
まるでガラス細工のように繊細だった。
柔らかな黒髪、真っ直ぐな姿勢。
そして_
どこか作り物のような笑顔。
天音 夜空
よろしくお願いします。
その笑顔にクラスの誰もが、
『いい子そう』
と感じた。
だが、及川徹だけは違和感を覚えていた。
岩泉 一
なんか、無理して笑ってるぽくない?
隣で聞こえたのは岩ちゃんのぼそっとした声。
及川 徹
んー、そう見える?
及川 徹
可愛い子じゃん、俺は全然ありだけどね〜
冗談めかして返す及川だったが
その瞳には彼女の
"仮面"
が確かに映っていた。
自分と同じ匂いがする。
昼休み
私は誰かと打ち解けるでもなく、
屋上へと続く階段に腰を下ろしていた。
及川 徹
ここ、よく見つけたね〜。
及川 徹
俺のお気に入りなんだけど?
気配もなく現れたのは、
クラスで1番目立つ男子
"及川徹"
天音 夜空
あ、ごめんなさい。
天音 夜空
場所、邪魔だったかな…?
及川 徹
んー、別に。
及川 徹
むしろ歓迎かも。
及川 徹
天音ちゃんってさ、なんでそんなに
"いい子"
及川 徹
やってるの?
突き刺すようなその問いに
表情が一瞬だけ止まる。
天音 夜空
…そうゆう風に見える?
及川 徹
見えるよ。俺、そうゆうの、ちょっと詳しくてさ
ニヤリと笑う及川の瞳は冗談めいていたが、
その奥には確かに"同じ"ものを抱えていた。
だから、私は、初めて
仮面の奥で
ほんの少しだけ微笑んだ。