俺の家の近くには稲荷がある。 といっても、別にそこで霊現象が起こるわけでもない何てことのない稲荷だ
その日俺は高校から友達と帰宅していた。
俺
何でいつも高校から帰る時あの稲荷を避けて帰ろうとするんだよ?
つっちゃん
お前知らねーのかよ
まぁ、俺も信じてはいねーけど
あの稲荷普段はどーってことのない稲荷だけど、夜間とその中でもある時間帯は通っちゃいけないらしいぜ
俺
どういうことだよ?
つっちゃん
もし行ってしまうと、異次元に行ってしまうらしい
俺
バカバカしい
お前オカルト好きだからって読みすぎだよ
俺
つっちゃん
でも話してる時のおばちゃんの顔が怖かったんだよ
だからこんな俺でもこの話は信じてる
俺
まぁオカルト話の読みすぎはダメだぞ笑笑
と、俺は全く信じてなかった。 そりゃそうでしょ、体験した人もいなければ、おばちゃんしかそんなこと言ってないのだから
翌日
俺らはその日文化祭の練習で忙しく、 最後まで残り、気づけば10時を回っていた
俺
つっちゃん
帰るか
あ、そうだ!
飯食って帰らね?
俺
そうするか
そして 俺らは高校近くのラーメン店に飯を食いに行った。 あーだこーだ話してるうちに気づくと11時前
俺
つっちゃんそろそろ帰るぞ!
母ちゃんに怒られる
つっちゃん
俺とつっちゃんの家は隣同士で 高校から電車で30分最寄りから自宅までは徒歩10分という距離だ。 そのため、別にそこまで遠くもない
最寄りに着くと、こんな時間帯なのか 人通りはほとんどなかった。 携帯を見ると、時刻は11時27分
俺
そういえばさ、この前〇〇のライブチケット当てたんだよな〜
っておい!
聞いてるか?
つっちゃん
俺
無視すんなよな!
ひどいぞ!
つっちゃん
つっちゃんの様子がおかしかったのだ 電車の中では普通に話していたはずなのに、
俺
そこで俺はつっちゃんに話しかけるのをやめて、ただひたすら二人で無言で歩いていた
すると、いつもの帰り道から逸れて 稲荷に向かう道に入った
俺
つっちゃん
俺は違和感を覚えた。 普段明るい時間帯でも稲荷に入ることを嫌がるつっちゃんがなぜこんな時間帯になのか? とは思ったが、正直稲荷から抜ければ自宅までは目と鼻の距離だ この時俺はそう自分で自分を納得させた。
と、鳥居をくぐった途端だった
おじさん
野太い男の叫び声が聞こえた 見ると、軍服やもんぺを着た男女が 流れ込んできたのだ 彼らに呆気を取られていると いつのまにかつっちゃんの姿を見失ってしまった
おじさん
こんなところで何をしているんだ!
俺
おじさん
貴様何を言っている!
こんな非常事態に!
高校だとか何か分からぬが早く逃げろ!焼かれてしまうぞ!
俺
おじさん
見ると、空は赤かった 夕方なのか?と思ったがそれは違った 飛行機のようなものが飛びながら 何かをばらまいている
おじさん
それも今夜は量が多い
子ども
B29がこっちに近づいてきてる!
おじさん
ここもやられる!
皆さん!疎開道路からもっと奥へ逃げましょう!
私についてきてください!
俺はここでようやく分かった 鳥居をくぐった時点で戦時中に入ってしまい、もう2度と元に戻ることは出来ないと、 そう感じた時、恐怖と不安で動かなかった。 すると、
子ども
何してるの!
早く逃げないと!
死んじゃうよ!
その子は俺の手を引っ張り、疎開道路まで走ってくれた
その時だった
つっちゃん
何してんだよ!!
つっちゃんの声が聞こえた 我にかえってみると 俺は車が行き交う交差点を赤信号で渡ろうとしていた そこをつっちゃんにおさえられていたわけだ
つっちゃん
俺
わ、わるい
いや、てかお前どこにいたんだよ
つっちゃん
俺ら二人でいたじゃねーか
俺
稲荷に入ってお前いなくなったじゃねーか!
つっちゃん
お前何言ってんだ?
俺はことの経緯をつっちゃんに話した すると
つっちゃん
俺ら何か矛盾してるぞ
俺
つっちゃん
最寄駅の人通りだけど今日はあんな時間にもかかわらず、多かったぞ
二つ目
黙って歩いて行ったのはお前のほうだ!電車の中ではあれだけ話してたのに、駅から出たら急に黙りだして、挙げ句の果てには何かぶつぶつ言い始めたんだぞ!
それから三つ目
俺らは稲荷になんか行ってない!
そもそも俺があれだけ避けてるっていうのに、こんな時間に行くわけないだろ笑
つっちゃん
お前駅でてからおかしいぞ?
俺
稲荷入ったら軍服着た人とかもんぺ着た人とか、、、
つっちゃん
ちょっと待て!
落ち着け!
俺のおじいちゃんに聞いてもらおう
つっちゃん
俺にはよく分からないんだよ
俺
つっちゃん家
つっちゃん
俊哉(俺の名前)が話したいことがあるらしいよ
爺ちゃん
その顔はもしかして何かあったんじゃな?
俺はつっちゃんのおじいちゃんに 経緯を話した 自分が体験し、見たもの全てを
爺ちゃん
それでもお前はよく無事に帰ってこれたのぉ
爺ちゃん
これは内外にはバラしてはいけん
分かったな
俺
つっちゃん
爺ちゃん
日本がアメリカと戦争していた時のことじゃ
爺ちゃん
日本の主要都市では空襲が絶えなかったんじゃよ
爺ちゃんは当時15歳だったんじゃが
ちょうど70年前の今日、B29が何十機と飛び回り何千もの焼夷弾の雨を爺ちゃんが住んでいたこの街に降らせた
爺ちゃん
爺ちゃんたちは火のないところを求めて逃げていた
すると、多くの人が鳥居をくぐっていくのが見えたんじゃ
それがあの稲荷じゃ
爺ちゃん
爺ちゃん
俺
爺ちゃん
あの当時、空襲でもやたらめったら攻撃していいものではなかったんじゃ
病院などはそれに値していた
しかし、馬鹿なことに当時この街には病院がなかった
爺ちゃん
建立されてから200年が経つあの稲荷は存在していた
軍人たちは、あんな立派な稲荷ならアメリカも攻撃してはきまい
と、街の人々にそう促したんじゃよ
実際、爺ちゃんも母親から言われたんじゃ
爺ちゃん
アメリカはその稲荷も標的としたんじゃ
お前たちも知ってるように
あの稲荷には入口、出口が一つずつあるじゃろ
俺
爺ちゃん
疎開道路につながっていたんじゃ
爺ちゃん
あの時、稲荷から出ようとしていた人々と出口から稲荷に避難してきた人々とで出口付近はごった返したんじゃ
爺ちゃん
アメリカは焼夷弾を投下した
爺ちゃん
ともきもあの稲荷で亡くなった
俺
つっちゃん
爺ちゃん
あの空襲について調べてみたんじゃが、この街の死亡者数のおよそ4分の1があの稲荷で亡くなったらしいんじゃ
爺ちゃん
俺
爺ちゃん
俊哉がそれを体験したということは
もしかすると、ともきがお前に何かを伝えたかったのかもしれんのう
つっちゃん
明日俺らが高校から帰ったら
お参りに行こう!
爺ちゃん
そうするか!
俺
俺たちは翌日稲荷に花をたむけ、 手を合わせた
たしかに、悲しい話ではあるのだが 体験的には非常に怖かった 俺はこの日から2度とあの稲荷には近づいていない