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黙々と新聞のアーカイブを見返す作業を始めて数時間。

腕時計に視線を落とすと、もう少しで閉館時間になるところだった。

渡辺

進藤……どうだ?

周囲の迷惑にならぬように小声で問うが、もう時間も時間だからなのか、周囲に人はいない。

進藤

……お腹空きましたぁ。

回らない寿司だか、少しだけ回る寿司なのかは定かではないが、まるで報酬に見合わぬ返事だ。

基本的に新聞のアーカイブは、専用のPCで閲覧するのであるが、必要であればプリントアウトすることも可能。収穫があれば持ち帰ることもできるのだが。

渡辺

……そうですか。
目ぼしい記事があったら言ってくれ。

渡辺

それをプリントアウトして持って帰るから。

かく言う渡辺自身も、実はそれらしい記事は見つけられずにいた。

調べねばならない時期は明確ではあるが、なんせ記事の数が多い。

もう少し絞り込みをしてからのほうが良かったんじゃないのか――そんな考えが、何度も頭をよぎった。

進藤

えーっと、これとかそれっぽくないですかぁ?

渡辺は進藤のPC画面を覗き込む。

【母親を殺害か。長男を殺害の疑いで書類送検】

渡辺

おぉ、なんかそれっぽいな。

進藤からマウスを奪い取ると、その記事をスクロールさせて確認する。

渡辺

……それっぽくはあるが、これは却下だな。

進藤

えー、なんでですかぁ?

渡辺

記事を読んで行くと分かるけど、この書類送検された長男っての――自殺してるじゃないか。
いや、自殺したから被疑者死亡で書類送検になってるのか。

渡辺

しかも、母親を殺害したのが発覚したのも、自殺した長男の遺書がきっかけだ。

進藤

えー、私的にはあり寄りのありなんですけど。

渡辺

だったら、俺がやり取りしている日比野響はなんなんだ?

渡辺

死んだ殺人鬼と俺はやり取りしていると思うか?

渡辺

彼は自ら人を殺したと告白している。

渡辺

だとしたら、俺がやり取りしているのは、すでに死んでいるはずの長男ってことにならないか?

進藤

うーん、そう考えると違う気がしますぅ。

進藤

そう言う先輩はぁ、それらしい事件を見つけることができたんですかぁ?

渡辺

いや、時期を絞れば明らかなんだけど、そんなに殺人事件なんて頻繁に起きるもんじゃない。

渡辺

何件か殺人事件は確認できたけれど、どれも例の話と結びつくものじゃなかった。

進藤

じゃあ、やっぱり私が見つけた記事の事件が――。

渡辺

もしくは、いまだに世に出ていない可能性もある。実のところ、俺はこの線が強いんじゃないかと疑ってるんだ。

進藤

はぁ?
だったら私はなんのためにお手伝いを。

渡辺

回る寿司のためだろ?

進藤

回らないやつです。

渡辺

いいじゃないか、回ろうが回るまいが、寿司は寿司だ。

周りに人がいなかったからか、それとも閉館の案内が流れ始めたからなのか。

いつのまにか普通のボリュームで進藤とやりとりをしていた渡辺。

とりあえず進藤のPCを操作して、念のために記事をプリントアウトする。

渡辺

わざわざここまで調べたんだからな。なにか収穫があったと思いたい。

プリントアウトされた記事を折りたたむと、スーツの内ポケットの中に入れる。

いつも、内ポケットになにか入っているのに、クリーニングに出してしまうから、気をつけないと。

渡辺

それじゃ、そろそろ出るか。

進藤

……お寿司は回れば回るほど、その鮮度が落ちるんです。

進藤

死んだおばあちゃんが言ってましたぁ。

えらく落胆した様子の進藤に、渡辺は小さくため息をつく。

渡辺

分かった。
分かったから、そう落ち込むな。

渡辺

回らない寿司を馳走してやろう。

渡辺

無理を言って来てもらったわけだし。

進藤

本当ですかぁ?
私行きたいお店があるんですぅ!

こうして、渡辺達は図書館を後にする。

この後、スーパーで購入した寿司は回っていない理論で進藤を言いくるめようとした渡辺だったが、見事に失敗。

――寿司は回らなかった。

私は人を殺したことがあります(仮題)

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