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バタッ!

……ギギッ、

夜桜

……。

夜桜はハエトリソウの 口に対し垂直で鞘を固定し、 閉じないようにしていた。

ググッ!

ハエトリソウは 無理やり口を 閉じようと力をかける。

夜桜

(…長くは持ちそうにないな。)

夜桜

(…朝花の方は
大丈夫だろうか?)

夜桜

(すでに溶けてたなら…)

夜桜

…失敗したな。

夜桜

(…死んだ事にして
離れば良かった。)

夜桜

(朝花の様子など
気にかけずに
関係を切ってれば…)

…あんたのせいよ。

あんたさえ、いなければ…

夜桜

(…あぁ、そうだな。)

夜桜

(また、俺のせいだな。)

第67話

『覚悟』

…おかあさん、あの…

あのね、わたし…

……。

バシッ!

ドンッ

うるさい、
話しかけないで!!

ご、ごめんなさいっ…

何よその顔…

泣きたいのはこっちよ!

バシッ!

母親の顔は …思い出せない。

でも、いつも 俺の事を嫌っていた。 話しかけるとすぐに 平手で殴ってくる。

…全部、
あんたのせいよっ、

あんたさえ、
生まれなければっ、
生活は楽なのに…

…なんで
生まれてきたの?

私が望んだのは
女の子1人だったのにっ!!

バシッ

姉は俺が母親に殴られそうに なると毎回、 俺の前に出て庇う。

姉が俺を庇うと、 次は姉が殴られてた。

なんでよ!

どうして…いつもいつもっ!

おかあさんっ、
やめてっ…

…あんたのせいじゃない。

…あんたがいるから、
お姉ちゃんは
痛い目にあってるのよ!

お姉ちゃんが庇うから…

(わたしのせい…)

…殴られたくないなら
静かにしてて。

…これ以上、
私の邪魔しないで…

バタンッ!

……。

…だいじょうぶ?

…ごめん…なさい…

ごめんなさいっ、
わたしの…せいで…

…ぐずっ…うぅ…。

……。

おかあさんっ!

ある日、俺と姉は 母親によって知らない人に 引き渡たされた。 俺らの意思関係なく…

母親の手には 大金があったから 売ったんだろうな。

やだっ、はなして!!

おかあさん、おかあさんっ!!

何度も呼んだが 母親は俺らに背を向けると もう振り返らなかった。

その上、あの時…

なにこれ?

おかあさん、それ…

…ゴミばっかり広げて…

ッ!!

…あれはほんと、 ショックだったな。 今でも忘れられない。

頑張って書いて 母親に渡そうとしてたものが ゴミ箱に捨てられる瞬間、 今でも忘れられない。

俺らが連れてこられた 場所は最悪だった。

鉄格子の汚い部屋で 施設というより 監獄だった。

カビかけのパン、 味の薄い変な味のスープ、 まともな食事はもらえない。

きゃああぁぁぁっ!!

うるせぇなっ!

ドンッ!

周りから子どもの叫び声、 泣き声がずっと響いてくる。 怖くて耳を塞いでも 聞きたくないのに…

目の前の部屋の子どもは 理不尽な理由で殴られて…、 死んだ後もそのまま 放置されていた。

母親に本当に必要と されてなかった事も 悲しかったが、

それよりも一番、 辛かったのは 自分の代わりに 姉が傷つく事。

毎度、施設の人間に 殴られそうになったら 姉は前に出て庇ってた。 母親の時と同じく…

身体がボロボロになっても 俺の前ではずっと笑顔を 見せていた。

母親の言う通り… 俺がいるから姉が 酷い目になるのだろう。

俺が泣くから、 余計な事を言うから、 行動するから、要求するから…

…なら、全部 しなければいい。

喋る事、動く事、 感情を現す事 全て我慢すればいい。 人形みたいに…

…いっそ、このまま 餓死すればこれ以上 姉を苦しめない…

俺なんて死んでしまえば…

…でも、結局死ねなかった。 施設に問題が見つかり、 餓死する前に姉と一緒に 別の施設に保護された。

そこでは 食べなくても腕から薬を 投与されて生きてた。

何度も外そうとしたけれど、 毎回注射器で薬を打たれて 抵抗出来ない。

自分から自害する事も 考えたが、刃物は痛みで 躊躇してしまう。

きょうはいいてんきだよ!

おそとにでない?

朝花は相変わらず 毎日のように 部屋に来ていた。

家にいた時、 あの地獄にいた時の ずっと変わらない元気な様子で…

…きょうもたべてないの?

ここのごはん、
すごくおいしいんだよ。

あのね、
その…たべないと
しんじゃうよ?

だから、ねぇ…

…心配しなくていいはずだ。

俺と一緒にいると どうなるか十分、 分かってるだろう。

そのせいで お前は酷い目にあったんだ。

分かってる上で 俺を相手してるのか?

それならば、俺から 朝花との関係を 離さなければならない。

これ以上は朝花を 不幸に巻き込みたくない。 いや、不幸を肩代わりして ほしくないから…

夜桜

(でも、何をしても
意味がなかったな。)

夜桜

(朝花は全然、
俺を嫌わない。)

夜桜

(無視しても、
冷たくあしらっても、
結局近づいてくる。)

夜桜

(いつも人の事を
心配してばかりで…
うるさいほど
元気な姉だったな。)

…ピシッ

刀の鞘にヒビが入り始める。

夜桜

(…過去を振り返ってる
場合ではないな。)

夜桜

(今はここで死ぬ訳には
いかない。)

ポワッ

バサッ!

バキッ!

バタンッ!

直後、鞘にヒビがはいり 壊れて口が閉じる。

だが、夜桜は姿を小鳥に変え、 食虫植物の口から脱出していた。

姿を戻した夜桜は 地面に降り立ち、 刀を拾う。

シャアァッ!!

夜桜

…ふぅ…。

ダッ!

シュルルルッ!!

夜桜は 向かってきた複数の 蔦を刀で斬り落としていく。

夜桜

(…これだけじゃ
追いつかない。)

夜桜

(もっと速く
斬らなければ…)

夜桜

(いつも以上に
見極め、速く…)

夜桜

(…魔力ももっと
出して確実に切断。)

夜桜

(そして、
徐々にあれに近づく。)

夜桜は視覚、 身体の動きを意識する。

意識する程、 彼女の眼はゆっくりと見え、 身体の動きが眼では 追いつかないほど早くなっていく。

夜桜

(…身体が異常な程、
熱くなってきたな。)

夜桜

(魔力もいつも以上に
使っている。)

夜桜

(このままでは
後に身体に影響するだろう。)

夜桜

(だが、覚悟の上だ。)

夜桜

(身体に悪影響が
起きても、今
やめるわけにいかない。)

夜桜

(絶対に朝花を助ける。)

ブンッ!!

夜桜

ギンッ!!

地面からの根が飛び出し、 夜桜は刀で受ける。

そして、 夜桜は宙へ飛ばされる。

シュッ!!

再び根が夜桜の方へと 勢いよく飛び出る!

夜桜

(…これでも
斬れないか。)

夜桜

(なら、もっとだ。)

夜桜

(魔力をもっと強く…。)

ピカッ

ズバッ!

夜桜

ッ!

振られた刀から 紫色の光が飛び出し、 向かってきた根と 周りの樹々を斬り落とした。

数秒後、

ボオッ!!

斬られた樹々の 切れ目から紫色の炎が 激しい燃え上がった。

夜桜

(…これは一体…)

ギシャァァァァァッ!!

シュルルッ!!

ズバッ!

ズバズバッ!!

ボゥッ!!

夜桜に向かって複数の蔦が 勢いよく伸びる。

だが、向かってきた蔦は 次々に斬られ紫色の炎に 焼かれ地に落ちる。

夜桜

(…この魔法は見たことない。)

夜桜

(それに、
姿を変えずに
使えるのは変だ。)

夜桜

(…よく分からないが、
これは使えるな。)

夜桜

(この炎のせいか
先程斬った蔦は
再生していない。)

夜桜

(上手く使えば
あれの所まで行ける…)

夜桜

(いや、あいつも倒せるな。)

キィシャァァァァッ!!

夜桜

(…先に倒す。)

ダッ!!

シュルルッ!

ズバッ!

ズバズバッ!

夜桜は高速で走りながら 刀で蔦を斬り落としていく。

全てを落ち着いて観察し 足は一切止めず、 刀で流れるように

夜桜

(…蔦は全て消えたな。)

夜桜

(残るは…)

シュッ!!

再び地面から複数の根 が現れ、夜桜に襲いかかる。

夜桜

(避ける必要はないか。)

夜桜

(まとめて全部…)

ピカッ!

ズバズバッ!!

夜桜は根が来る タイミングで一回転し、 複数の根を斬った。

キィシャアァァァァッ!!

ピカッ

ズバッ!!

……。

ハエトリソウの頭の下の茎に 紫色の光が貫通し、 頭が地面に落ちる。

さらに斬られた部分から 炎が燃え広がり ハエトリソウの頭を包む。

夜桜

(これで邪魔されない。)

夜桜はそのまま、 消えかけのハエトリソウの 横を走り抜ける。

そして、夜桜は 魔法陣の展開された 白い板に辿り着いた。

夜桜

(…魔力を込めれば
破壊出来るだろう。)

夜桜

(…これで、やっと…)

ブンッ!!

夜桜は白い板に狙って 垂直に刀を振り上げる。

シュッ!

夜桜

ッ!!

その瞬間だった。

白い板から新たに ハエトリソウが 出現する。

キィシャッ!

バタンッ!!

夜桜

今日、何が起きるか
分からない。

夜桜

最悪、仲間を
失うかもしれん。

夜桜

もしくは俺自身か…。

夜桜

その、言いたいのは…

夜桜

そうなったとしても
あの時の真似事はするな。

夜桜

分かったか?

…うん。

夜桜

じゃあ、行くぞ。

……。

グッ

夜桜は猫船に手を握られ、 足が止まる。

夜桜

どうした?

…無理しないでね。

私も頑張るから…
死んじゃ駄目だよ。

夜桜

(…嫌な顔だ。)

夜桜

(この顔を見ると、
胸に圧がかかる。)

夜桜

…俺が死ぬと思うか?

……。

夜桜

…安心しろ、
お前より先には
死ぬ気はない。

夜桜

死ぬならば
見届けてからだ。

夜桜

人の事よりも
自分の心配をしろ。

夜桜

自分の魔法で転ろんだり、
絡まって動けなくなる事
とかな。

夜桜

後は勝手に
どっかに行って
迷子になるとか…

きょ、今日は
しないよ!
多分…

夜桜

(…自信ないのか。)

夜桜

(まったく…
こいつから
目が離せんな。)

桜に会わなければ、 とっくに死んでただろうにな。

…本当に邪魔 されてばかりだ。

…ドロッ

夜桜が挟まれた ハエトリソウの口から 赤色の液が溢れ地面に滴る。

……。

少女はそれを確認すると、 ウツボカズラの方へ 歩き始める。

スパスパッ!

…?

ボヮッ!!

突然、ハエトリソウが 紫色の炎に包まれる。

ハエトリソウが 紫色の炎によって黒い屑 となり、夜桜が現れる。

ッ!

夜桜

はぁ…はぁ…

ブンッ!!

ガギッ!!

夜桜の握った刀で 勢いよく 白い板に突き刺さす!

夜桜

これで …終わりだ。

ピカッ!

ボオオォォッ!!

紫の炎は 刀を中心に激しく 燃え上がる。

…バキッ

ヤ…ロッ!!

シュルッ!!

白い板から 複数の蔦が現れる。

だが、刀の炎に よって夜桜に近づく前に 燃えてしまう。

…バキッ

アァッ、
ヤメ…ヤ…ロッ!!

バキバキッ!

アアアアァァァァァァァァァッ!!

バキンッ!!

夜猫依頼事務所~厄災の魔女~

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