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春の風が、校舎の隙間を抜けていく。
教室の窓際、俺──永瀬彪斗(ながせあやと)は、いつものように外を眺めていた。
桜の花びらがひとつ、ゆっくりと彩空の髪に落ちる。
永瀬彪斗
そう言いながら、彼女の肩に手を伸ばした。
振り向いた夏川彩空(なつかわさら)は、あの頃と同じ笑顔で笑った。
──けれど、その笑顔が、俺には少しだけ“冷たい”ように見えた。
夏川彩空
彩空はそう言って、花びらを指先でつぶした。
ほんの一瞬だけ、その白い指に赤いインクのようなものが滲んだ気がした。
俺は息をのむ。
だけど、彼女は何事もなかったかのように席へ戻っていった。
──その日、ニュースでは、近所で起きた“不可解な殺人事件”の話題が流れていた。
被害者は、俺たちの通う高校の生徒だった。
胸の奥がざわついた。
だけど、彩空の笑顔が脳裏に焼きついて、俺は何も言えなかった。
彼女は俺の幼なじみ。
小さい頃から、ずっと一緒にいた。
……だからこそ、分かるんだ。
あの笑顔の奥で、何かが壊れていることを。