天望
おい、どこに行く?

桃音
うわ⁉︎ビックリした...

桃音
もう‼︎幽霊かと思ったじゃん‼︎

桃音
...ってアレ?ここ廃校だよね...教室で何してたの?

天望
あっしのことはどうでもいいだろう

桃音
あっし⁉︎自分のことあっしって呼んでるの⁉︎激カワなんだが⁉︎

桃音
あ、ちなみに私は血洗島 桃音って言うんだ

桃音
アッシーは?

天望
その呼び方やめろ、あっしは鉄砲ヶ原 天望だ

桃音
んー、じゃあアマネンだねー

天望
お前は...これから死ぬんだろう?何でそんなに陽気なんだ?

桃音
え?何で死ぬこと知ってるの?

天望
....

桃音
まあ、ここに来る人なんて大体その目的だし分かるか〜

桃音
で、何で陽気なのかって?そりゃ簡単な話さ

桃音

桃音
そう振る舞ってないと罪悪感に押し潰されるからに決まってるでしょ

天望
罪悪感...?

桃音
初対面のアマネンに話すのも変だけど、遺書だと思って適当に聞いててよ

桃音
私は2年前、職場の元同僚をここの屋上で殺したんだ。直接手は加えてないけどね

桃音
別に恨みがあった訳...いや、ちょっとはあったか?

桃音
今となっちゃ詳しく思い出せないけど、目障りだったなーっていう理由で殺したんだ

桃音
元々、私の職場は色々な人間がよく死ぬ特殊な場所で、他人の死は慣れっこになっちゃったんだよね

桃音
でもそれは赤の他人だったから

桃音
同僚は一緒にいる期間が長くて、他人だと割り切るのには無理があったんだ

桃音
そして、殺した後から私は罪悪感に悩まされる日々が続いた

桃音
夢にまで出てきたよ、同僚パワーってヤツ?

天望
...(何だそのパワーは)

桃音
それが暫く続いたある日、その死体が見つかったというニュースを見た

桃音
ほんで、警察に追われる日々と、罪悪感に押し潰される日々のせめぎ合いに疲れちゃって休もっかなーという訳さ

天望
生きたいとは思わないのか?

桃音
思わないね、早く楽になりたい

天望
あっしは...お前に幸せになってほしいんだ

桃音
え?幸せに?

桃音
だとしたら、もう幸せだよ?

天望
は...?

桃音
だって死ぬ前にこんな私の話を聞いてくれるんだから、1人で死ぬより寂しさが紛れて幸せじゃない?

天望
いや、あっしが言っているのは“生きて”幸せになってほしいんだ

桃音
それは無理、ごめんね

天望
どうしてだ

桃音
...逆にアマネンはどうして生きてほしいの?

天望
それは...

天望
信じてもらえないが、あっしは未来から来たんだ

桃音
んー?未来人?何それSF小説?

天望
いや、本当に

桃音
へー、じゃあ未来人アマネンに問おう‼︎

桃音
未来の私は幸せに生きていたかい?

天望
...殺されたよ

桃音
ふぁー‼︎凄いじゃん、私のこと嫌いだったのかな?

天望
でも...面白そうだと思ったことには首を突っ込み、ムードメーカー的な存在だったのは確かだ

桃音
ふーん...そうなんだ...

天望
未来のお前は後悔...いや、羨望していたんだ

桃音
羨望?何に?

天望
刹那っていう妹にだ

桃音
な、何でその名前を...

天望
お前はどこで生き方を間違えたか、悲しそうに自問自答していたぞ

桃音
生き方...確かに、そうかもしれないね

桃音
人ってさ、生きる中で身近な人を参考にして生きてるよね

桃音
特に参考になる人は家族だと思うんだ

桃音
妹や弟ってさ、自分より歳が上の人を見て育つでしょ?

桃音
姉や兄ってその指標がどこにもないのよ

桃音
父や母を見て育つ人もいるけど、家庭が複雑で私には刹那しかいなかった

桃音
だから...ちゃんとしなきゃって思いが強かったんだろうね

桃音
猛勉強して大学院まで出て就職して...我武者羅にやってたんだ

桃音
だけど、そんな姉を見て...あんな風になりたくないなって刹那は思ったんだろうね

桃音
幼いのに自立を始めて気が付いたら家を出て行ってたよ

桃音
私が妹で、両親もいて、人が死なない職業で...ッ‼︎

桃音
...どうして私ばっかりなんだよ

桃音
はぁー、スッキリした‼︎

天望
ケロッとしたな

桃音
じゃ、死んでくるねー

天望
お、おい‼︎何でだ‼︎

桃音
え?何でって...前々から死ぬって言ってたじゃん

天望
妹の...刹那の気持ちを聞かなくて良いのか⁉︎

桃音
刹那の気持ち...か...

桃音
知りたいけど...良い話ならいいけど、悪い話だった時は多分、私は耐えられないと思うんだ

桃音
刹那を傷つけるかもしれない...いや、返り討ちにされると思うけども

桃音
でも妹に手をあげたという結果は覆らないし...

桃音
あとは暴れて自らの命をその場で絶つかもしれない

桃音
いや、刹那に止められると思うけども

桃音
だから、そんなことになる前に私は私を止めるんだ

天望
でもそれは...ッ⁉︎

彼女が握った拳から
血が滲んでいたのだ。
恐らく強く握った際に爪が
皮膚を食い込んだのだろう。
桃音
お願い...もう限界なんだ...

彼女の声は震えていた。
薄っすら無理に口角の上がった
口元で笑おうとする
姿を見て、あっしは何も
言えなくなってしまった。
桃音
じゃあ、バイバイ

桃音
最期に言いたいこと全部言えてスッキリした

桃音
未来人っていうの信じるよ

桃音
ちょっと幸せって思えたよ

桃音
私の生命に対する答えを見つけてくれてありがとう、アマネン

桃音
刹那に会ったらよろしく伝えといてね

そう言い残すと
静かに歩いて彼女は屋上へ
向かって行った。
それから数分後、
地面に大きな“モノ”が
叩きつけられるような
破裂音が割れた窓から
廊下へと響き渡った。
天望
....

天望
...行くか

消えないモヤモヤを
抱えたまま、
あっしは次の目的地へと
歩みを進めていった。