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紫雲の病室に入って来た少年は、

少し緊張した面持ちだった。

紫雲 かぎり

そんなに緊張することもないだろ?

ナーガ

んなこと言われても……

紫雲 かぎり

……

ナーガ

……

紫雲 かぎり

ナーガも

紫雲 かぎり

色々とありがとう

ナーガ

へ?

紫雲 かぎり

本当はこんな危険なことに

紫雲 かぎり

巻き込みたくなかったんだけど

紫雲 かぎり

……

紫雲 かぎり

ナーガがいなかったら

紫雲 かぎり

こんなに上手くいかなかったと思う

紫雲 かぎり

だから

紫雲 かぎり

ありがとう

ナーガ

そん…

そう言いかけて、

緩む顔を叩いた。

紫雲 かぎり

ナーガ?

ナーガ

オレは師匠の役に立ちたかっただけ!

ナーガ

それだけだから

紫雲 かぎり

ああ、本当助かったよ

褒められて嬉しいのだろう、

一旦引き締めた顔が

また少し緩んだ。

紫雲 かぎり

でも、師匠って呼ばれるのは

紫雲 かぎり

やっぱり恥ずかしいな

ナーガ

じゃあ、なんて呼べばいいんだよ

ナーガ

だって、ENさんって

ナーガ

呼ぶわけにもいかないだろ?

紫雲 かぎり

そこはやっぱり

紫雲 かぎり

紫雲かぎりで頼むよ

ナーガ

了解、紫雲さん

ナーガ

あ、でも

ナーガ

本名は違うんだろ?

紫雲 かぎり

日内から聞いたのか?

ナーガ

あいつなんでも喋るから

紫雲 かぎり

確かに

ナーガ

オレには本名教えてくれねぇの?

”日内は知ってんのに”

とどこか拗ねたような顔をして

言われると

紫雲は微かに笑みをこぼした。

紫雲 かぎり

もちろん、教えるよ

紫雲 かぎり

だから

紫雲 かぎり

ナーガの本名も教えてくれ

ナーガ

え?

紫雲 かぎり

等価交換ってことで

ナーガ

……わ、わかったよ

紫雲 かぎり

俺の本名は鳴谷蓮(なるたに れん)だ

ナーガ

…オレは、玉理永慈(たまり ながよし)

ナーガ

漢字はこれ

そう言ってナーガは

スマホの画面を見せた。

紫雲 かぎり

それで”ながよし”なのか

ナーガ

今は面倒くさいから

ナーガ

エージって言ってる

紫雲 かぎり

良い名前だな

ナーガ

べ、別に…

紫雲 かぎり

でも、変わらず俺はナーガって呼ぶから

ナーガ

うん、そっちがいい

紫雲 かぎり

神社の子っぽい名前だな

ナーガ

正真正銘神社の次男坊だけどな

紫雲 かぎり

どこにある神社なんだ?

ナーガ

山ん中だよ

それから二人は

他愛もない話しをする。

紫雲 かぎり

”千里眼システム”は上手く使えてるのか?

ナーガ

まだアクセスするのに時間がかかるんだよ

ナーガ

紫雲さんみたいに簡単にはいかないな

紫雲 かぎり

まぁこればっかりは回数重ねないと

そうして時間は

あっという間に流れていく。

ナーガ

うわっもうこんな時間じゃん

ナーガ

もっと紫雲さんと話したかったのに…

紫雲 かぎり

また来ればいい

紫雲 かぎり

しばらくは便利屋の仕事も休んで

紫雲 かぎり

のんびりしてるから

紫雲 かぎり

それに退院したら

紫雲 かぎり

日内がご馳走してくれるらしい

ナーガ

マジか!やった!!

紫雲 かぎり

できれば七星の薬を調べてくれた人にも

紫雲 かぎり

声をかけてみてくれないか

ナーガ

引きこもりだから出てくるかわかんねぇけど

ナーガ

とりあえず、声はかけてみる

紫雲 かぎり

ああ、頼むよ

紫雲 かぎり

彼にも直接お礼が言いたいし

ナーガ

わかった

最初に会ったときとは

打って変わって

明るい表情を浮かべ

ナーガは病室を後にした。

一息吐くと、

入れ替わるように

滝津が病室に入って来た。

紫雲 かぎり

七星、どうした?

滝津 七星

あ、いえ…

滝津 七星

さっきまで病室にいた人は?

紫雲 かぎり

ああ

紫雲 かぎり

彼がナーガだ

滝津 七星

あの子が……

ナーガについては

滝津も紫雲から聞いていた。

滝津 七星

高校生、ぐらいですか?

紫雲 かぎり

高校三年生だそうだ

滝津 七星

……

滝津 七星

あれ?もしかして

滝津 七星

昔、先輩のこと師匠って呼んでた…?

紫雲 かぎり

覚えてたのか

滝津 七星

覚えてますよ

滝津 七星

私のライバルですから

紫雲 かぎり

ライバルって…

その言葉を聞いて、

紫雲は笑みをこぼす。

滝津 七星

でも、不思議な縁ですね

紫雲 かぎり

そうだな

紫雲 かぎり

長い間音信不通だったのに…

滝津 七星

不思議な縁と言えば

紫雲 かぎり

滝津 七星

あの、先輩……

滝津がおずおずと尋ねてきた。

紫雲 かぎり

なんだ?

滝津 七星

どなたからか

滝津 七星

”かぎりん”って呼ばれてませんか?

紫雲 かぎり

…え?

紫雲 かぎり

どうして…それを?

滝津 七星

え、あ、その…

紫雲が驚きの表情を浮かべたので、

滝津もまた驚きを隠せなかった。

滝津 七星

ゆ、夢の中で…

紫雲 かぎり

夢の中で?

滝津 七星

忘れていた記憶を

滝津 七星

思い出す手伝いをしてくれた子がいたんです

滝津 七星

名前は教えてくれませんでしたけど

滝津 七星

彼女、言ってたんです

滝津 七星

「あなたはまだ生きてるんだから」

滝津 七星

「”かぎりん”のために頑張れ」って

滝津 七星

「”かぎりん”はずっとあなたの側にいて」

滝津 七星

「ずっと支えてきてくれたんたぞ」って

滝津 七星

その言葉があったから

滝津 七星

私、記憶と向き合えたんです

紫雲 かぎり

……

紫雲の脳裏を過ったのは

篠崎美兎花(しのざき みとか)の姿だった。

パパ活をする子に私的な制裁を下す、

クズ野郎に殺された

罪の無い子。

紫雲 かぎり

(美兎花が……)

紫雲 かぎり

(でも、なんで美兎花が?)

滝津 七星

先輩、大丈夫ですか?

滝津は紫雲の顔を覗き込む。

紫雲 かぎり

あ、ああ…

滝津 七星

もしかして

滝津 七星

知り合い、ですか?

紫雲 かぎり

俺をそう呼ぶのは

紫雲 かぎり

篠崎美兎花しかいない

滝津 七星

シノザキ、ミトカさん…

紫雲 かぎり

彼女は便利屋の仕事を

紫雲 かぎり

何度か手伝ってくれたんだ

滝津 七星

そうだったんですか

滝津 七星

私、てっきり

滝津 七星

先輩の恋人かと

紫雲 かぎり

そ、そんなんじゃない

紫雲は慌てて否定し、

紫雲 かぎり

恋人なんかじゃ…ない

そう言った声が

震えた。

滝津 七星

蓮先輩?

紫雲 かぎり

俺は…

紫雲 かぎり

彼女を…

紫雲 かぎり

救えなかった…

紫雲は

手を強く握りしめる。

滝津 七星

……

滝津 七星

私、ミトカさんから

滝津 七星

「”かぎりん”に伝えて」って

滝津 七星

頼まれたことがあるんです

紫雲 かぎり

……

滝津 七星

「私は”かぎりん”を恨んでなんかいない」

滝津 七星

「こんな私を最期まで気にかけてくれて」

滝津 七星

「すごく嬉しかった」

滝津 七星

「だから」

滝津 七星

「私のことは気にせず」

滝津 七星

「幸せになってね!」って…

その言葉を聞いて、

紫雲は大きく目を見開き、

紫雲 かぎり

ああ……

紫雲 かぎり

ちくしょう……

と呟いて、

俯いた。

紫雲 かぎり

美兎花のくせに……

滝津は黙って

紫雲の頭を抱き寄せると、

彼の目から

大粒の涙がこぼれ落ちた。

紫雲 かぎり

(俺が、救われてどうする…)

自分は救われなくていい、

ずっと暗闇の中でいい、

そう思っていたのに。

美兎花の言葉で、

暗闇に光が射したような

そんな気がした。

紫雲 かぎり

(美兎花……)

紫雲 かぎり

(ありがとう…)

脳裏を過ったのは、

どこか自慢げに笑う

彼女の顔だった───。

『呼び名』 END

便利屋・紫雲かぎり

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読んでいて泣きそうになりました…

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