渡辺
お世話になっております。
渡辺
芒尾
それで、あなたの見解は?
渡辺
渡辺
芒尾
私は物語の中では弟となるアキノリです。
芒尾
芒尾
芒尾
渡辺
それを踏まえて考えさせてもらったのですが、ひとつ疑問が生じます。
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
芒尾
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
渡辺
芒尾
私は最初から言っています。
人を殺したと。
渡辺
芒尾
芒尾
それから数分後、渡辺のメールに最後の数話が届いた。
シンジ
アキノリも準備をしておいてくれ!
アキノリ
段取りは簡単だ。
シンジの合図に合わせて、木の上から体重をかけ飛び降りるだけ。
アキノリ
それじゃ、合図してよ!
井戸の中に向かって声をかけると、アキノリは大木のほうへと向かう。
シンジ
アキノリ、いいぞ!
どれくらい、そのままの体制で待っただろうか。
井戸の奥底から、シンジの声が飛んできた。
アキノリ
いざ、飛び降りようとするが、なぜか足がすくむ。
下から見た時は大した高さじゃなかったのに、上から見ると思っていた以上に高い。
シンジ
いいぞ!
合図が聞こえないと思ったのか、もう一度井戸の底から声が飛んでくる。
アキノリ
分かってるよ!
なんとでもなれ、そんな思いで飛び降りようとしたアキノリであったが、やはりためらいがあったのだろう。
勢いが全く足りず、ただロープにぶら下がるような形になってしまった。
シンジ
早くしてくれ!
アキノリ
だめだ!
俺の体重が足りないみたい。
まさか、恐ろしくて飛び降りる時に加減してしまう――なんてことは言えない。
シンジ
兄ちゃん、一度そっちに戻るぞ!
シンジ
また合図と一緒に飛び降りてみてくれ!
アキノリ
シンジ1人くらいなら、なんとかなるかもしれない。
そう考えたアキノリは、改めて脚立にのぼるが……やっぱり怖い。
シンジ
勇気を出さねばならない。
このままだと、なにもできないままタイムリミットを迎えてしまう。
やり方を変えるにしても、シンジがいなければなにもできない。
アキノリだけでは、この事態を切り抜けることもできない。
アキノリ
自分に言い聞かせるように掛け声を出すと、アキノリは勢い良く飛び降りた。
思った以上に勢いがついたせいか、アキノリは地面に向かって落下。
さっき、この動きができていれば、全てがうまくいったかもしれない。
シンジ
まだだ!
ロープを引っ張ってくれ!
アキノリ渾身の飛び降りだったが、しかしシンジを完全に引っ張り上げることはできなかったようだ。
自由落下ではないが、地面へと落ちてしまったアキノリは、痛む体に鞭を打って立ち上がると、ロープを思い切り引っ張った。
運動会の時、一番最後尾の人が体にロープを巻き付けるけど、その時はきっとこんな感じなのだろうと思った。
アキノリが渾身の力でロープを引っ張ることしばらく。
井戸のふちにシンジのものと思われる手がかけられた。
シンジ
井戸から上がると、自分に巻きつけたロープをほどくシンジ。
シンジ
シンジ
アキノリ
シンジ
井戸に降りて、すでに死後数日経った母親の死体を背負い、井戸から地上へと戻る。
それを想像しただけでゾッとした。
アキノリ
シンジ
やらなきゃいけないんだよ!
シンジはやや苛立ったかのように、アキノリに向かってロープを手渡してくる。
シンジ
シンジ
頼む!
いつまでも戸惑っているアキノリを見かねたのか、無理矢理にロープを巻きつけてくるシンジ。
アキノリ
俺にはできないよ!
やめてよ、兄ちゃん!
力づくでアキノリにロープを巻き付けようとするシンジ、そして抵抗するアキノリ。
その抵抗は、アキノリの中では軽くシンジを振り解く程度のものだった。
ほんの少しだけ、シンジを押し退けただけのつもりだった。
シンジ
よろめいたシンジは、数歩だけ後退りをすると、そのまま井戸のふちに足を引っ掛け……アキノリの目の前から姿を消した。
アキノリ
ゆっくりと井戸に歩み寄り、恐る恐ると井戸の中を覗き込む。
アキノリ
兄ちゃん!
そこには、虚空を見つめる眼球が、2つから4つに増えていたのだった。