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渡辺

芒尾様。
お世話になっております。

渡辺

ようやく、自分なりに答えを出すことができましたので、ご連絡をさせていただきました。

芒尾

左様ですか。
それで、あなたの見解は?

渡辺

まず、その前に、あなたが何者なのかを明らかにしておきたい。

渡辺

あなたは、芒尾アキノリさんで間違いありませんね?

芒尾

……そうです。
私は物語の中では弟となるアキノリです。

芒尾

もちろん、ところどころ創作も入っています。

芒尾

兄がコンビニ弁当を買って来たのは事実ですが、その道中でどんなことが起きたのかは、私は知りませんから。

芒尾

ですが、物語の根幹部分は実際に起きたことを元に書いています。

渡辺

そうですか。
それを踏まえて考えさせてもらったのですが、ひとつ疑問が生じます。

渡辺

つまり、あなたは誰を殺したのか……。

渡辺

それを念頭に物語を読み直してみると、ある重要な事柄が描かれていないことに気づきました。

渡辺

それは、殺人の描写です。

渡辺

物語が始まった時点で、すでに母親は殺害されていた。

渡辺

この母親……誰が殺害したのでしょう?

芒尾

さぁ、誰なんでしょうね。

渡辺

作中において、兄のシンジは翌日学校に行っています。一方、弟のあなたは学校を休んだ。

渡辺

その理由はいたってシンプル。

渡辺

血にまみれた制服が綺麗にならなかったからです。

渡辺

ここで疑問に思ったんですよ。

渡辺

なぜ、兄のシンジに比べて、弟のアキノリの制服のほうが汚れていたのか。

渡辺

物語を読み進めていくと、凶器が包丁だったことが明らかになります。

渡辺

……ここまで言えば分かりますよね?

渡辺

母親を殺害したのは、兄のシンジではなく弟のアキノリだったんです。

芒尾

……そうですね。
私は最初から言っています。
人を殺したと。

渡辺

ここからは推測になりますが、もしかしてあなたは、それ以外にも……。

芒尾

もう作品は最後まで書き上がっています。

芒尾

そちらをお渡しすることで、私の答えとさせてください。

それから数分後、渡辺のメールに最後の数話が届いた。

シンジ

よし、今下に降りたぞ!
アキノリも準備をしておいてくれ!

アキノリ

う、うん、分かった!

段取りは簡単だ。

シンジの合図に合わせて、木の上から体重をかけ飛び降りるだけ。

アキノリ

兄ちゃん!
それじゃ、合図してよ!

井戸の中に向かって声をかけると、アキノリは大木のほうへと向かう。

シンジ

よし!
アキノリ、いいぞ!

どれくらい、そのままの体制で待っただろうか。

井戸の奥底から、シンジの声が飛んできた。

アキノリ

ここから飛び降りればいいだけ……。

いざ、飛び降りようとするが、なぜか足がすくむ。

下から見た時は大した高さじゃなかったのに、上から見ると思っていた以上に高い。

シンジ

アキノリ!
いいぞ!

合図が聞こえないと思ったのか、もう一度井戸の底から声が飛んでくる。

アキノリ

う、うん!
分かってるよ!

なんとでもなれ、そんな思いで飛び降りようとしたアキノリであったが、やはりためらいがあったのだろう。

勢いが全く足りず、ただロープにぶら下がるような形になってしまった。

シンジ

アキノリ、どうした?
早くしてくれ!

アキノリ

兄ちゃん!
だめだ!
俺の体重が足りないみたい。

まさか、恐ろしくて飛び降りる時に加減してしまう――なんてことは言えない。

シンジ

……そうか、分かった。
兄ちゃん、一度そっちに戻るぞ!

シンジ

死体を下ろすから、そこまで重くもないはず。
また合図と一緒に飛び降りてみてくれ!

アキノリ

う、うん!

シンジ1人くらいなら、なんとかなるかもしれない。

そう考えたアキノリは、改めて脚立にのぼるが……やっぱり怖い。

シンジ

アキノリ、いいぞ!

勇気を出さねばならない。

このままだと、なにもできないままタイムリミットを迎えてしまう。

やり方を変えるにしても、シンジがいなければなにもできない。

アキノリだけでは、この事態を切り抜けることもできない。

アキノリ

せ、せーの!

自分に言い聞かせるように掛け声を出すと、アキノリは勢い良く飛び降りた。

思った以上に勢いがついたせいか、アキノリは地面に向かって落下。

さっき、この動きができていれば、全てがうまくいったかもしれない。

シンジ

アキノリ!
まだだ!
ロープを引っ張ってくれ!

アキノリ渾身の飛び降りだったが、しかしシンジを完全に引っ張り上げることはできなかったようだ。

自由落下ではないが、地面へと落ちてしまったアキノリは、痛む体に鞭を打って立ち上がると、ロープを思い切り引っ張った。

運動会の時、一番最後尾の人が体にロープを巻き付けるけど、その時はきっとこんな感じなのだろうと思った。

アキノリが渾身の力でロープを引っ張ることしばらく。

井戸のふちにシンジのものと思われる手がかけられた。

シンジ

ふー、生きた心地がしなかった。

井戸から上がると、自分に巻きつけたロープをほどくシンジ。

シンジ

アキノリ、俺のほうが体重も重いし、ちょっと怖いけど、もう少し高いところから飛び降りてみる。

シンジ

だから、お前が井戸の中に降りてくれ。

アキノリ

え、お、俺が?

シンジ

あぁ、そうするより他に方法がないだろ?

井戸に降りて、すでに死後数日経った母親の死体を背負い、井戸から地上へと戻る。

それを想像しただけでゾッとした。

アキノリ

兄ちゃん、俺にはできないよ。

シンジ

できるできないじゃない。
やらなきゃいけないんだよ!

シンジはやや苛立ったかのように、アキノリに向かってロープを手渡してくる。

シンジ

さぁ、アキノリ、こいつを体に巻きつけるんだ!

シンジ

もう時間がないんだ!
頼む!

いつまでも戸惑っているアキノリを見かねたのか、無理矢理にロープを巻きつけてくるシンジ。

アキノリ

い、嫌だ!
俺にはできないよ!
やめてよ、兄ちゃん!

力づくでアキノリにロープを巻き付けようとするシンジ、そして抵抗するアキノリ。

その抵抗は、アキノリの中では軽くシンジを振り解く程度のものだった。

ほんの少しだけ、シンジを押し退けただけのつもりだった。

シンジ

……あっ!

よろめいたシンジは、数歩だけ後退りをすると、そのまま井戸のふちに足を引っ掛け……アキノリの目の前から姿を消した。

アキノリ

…………。

ゆっくりと井戸に歩み寄り、恐る恐ると井戸の中を覗き込む。

アキノリ

兄ちゃん。
兄ちゃん!

そこには、虚空を見つめる眼球が、2つから4つに増えていたのだった。

私は人を殺したことがあります(仮題)

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