キミの歌

不気味な雰囲気の石像を横切り

近道して帰ろうとすると…

真っ黒の美しい女性が現れた

美しいがどこか恐ろしい風貌で

嫌な、予感がした

舌なめずりをし

手を彼にかざした

身体がどんどん軽くなっていく

腰の曲がった老婆が女に向かって水をかけると

そういってどこかへ消えた

やり残した事が沢山ある

死にたくなんかない

ここからだと3日はかかる

今すぐにでも会いに行かなきゃ

歩き続け、やっとアリア高原についた

その瞬間、彼がピリつくのが分かった

彼女は俯き、辛そうに唇を噛んでいる

画面に映し出されたのは今より少し若いソーニャの姿だった

画面の中からメロディーが流れ出す

甘く切ないメロディー

張り裂けそうに痛い胸

だけど負けたくなんかない

この身朽ち果てようとも

私は歌い続けるわ

空に届くまで

いつか貴方に届くまで

画面越しでも身震いをした

貴女の歌が僕を救うんです！

歌いたい…

そんなの一番に私が願っていることだわ

でも無理なの

歌い始めた瞬間

スポットライトが、落ちた

突き飛ばされた背中に痛みを感じない

それよりも

スポットライトの下敷きになった母のことしか考えられなかった

辺りはすっかり夜になっていた

不思議ね

今まで歌えそうになかったのに

彼が居てくれたら歌える気がするの

またあの石像の前に立った時だった

どんどん身体が軽くなっていく

僕は最後の力を振り絞り口を開いた

もう、駄目だ

その時

魔女は消え、僕の元通りになった

僕は彼女を抱きしめた

暖かい暖炉の前に

揺り椅子が2つ

数年後

暖炉の前に揺り椅子が一つ

今、動きが止まった