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8話スタート

しにがみ

ほら、飲んでください

公園のベンチで座ってた 俺の顔の横に、にょきっと 缶ジュースが伸びてきた

慌てて受け取ると しにがみくんは俺の隣に 腰掛けてきた その手には俺にくれた ものと同じジュース

ぺいんと

…しにがみくん、お金…

しにがみ

いいですよ
そんなの

ぺいんと

……ごめんね

遠慮がちに、できるだけ 音を鳴らさないように 缶を開ける

夏の日は長いと言うが もうどっぷりと暮れていた それでも7月の風は生温く 喉を通るジュースの冷たさは 心地よい

らっだぁの行きそうな場所を 探したものの、結局 らっだぁは見つからなかった

スマホを見ると、もう夜の 8時を回りそうであった こんな時間までしにがみくんに ついてきてもらって…… 連れ回して、 そう思うと申し訳なさで苦しく なって、もう一度

ぺいんと

……ごめん

と声を漏らした しにがみくんはそれを ジュースに対することだと 捉えたのか

しにがみ

なんですか…
そんなに僕の財布が
淋しいもんだと
思ってるんですか…

と、俺の頭を小突いた

ぺいんと

だって、しにがみくん
万年金欠でしょ

しにがみ

そんなことないですよ

ぺいんと

残金250円のくせに

しにがみ

……なんで
知ってんですか

手で顔を覆った しにがみくんを見て笑う 笑ってる俺を、しにがみくんは じっと見つめている

しにがみ

多分さ

ぺいんと

うん

しにがみ

大丈夫ですよ

しにがみくんが言う 不器用なこの友人は 不器用にも俺を励まそうと してることがわかった

ぺいんと

……うん

俺はなんとか返事だけすると 一気に、ジュースを飲み干した できる限り、上を向く 夏の星空はゆらゆらと ぼやけた

さてと、と言いながら 立ち上がると、しにがみくんは 離れたゴミ箱に狙いを 定めた

”あきかん”という文字の 下に穴がふたつ 無謀にも、あの穴に空き缶を 通そうとしているらしい

勢い良く投げる

がんっ、からから……

……当たり前だ 入るわけないのに

しにがみ

くっそ〜

ぺいんと

入るわけないでしょ

しにがみ

うるさいですね〜

ぺいんと

美術部なんだし

しにがみ

ぺいんとさんもでしょ!

外に転がっていた 空き缶を拾い、ゴミ箱に 入れるしにがみくん 彼はそのまま、ゴミ箱を 叩きながらこっちを向いた

しにがみ

ほら、
ぺいんとさんも

ぺいんと

えっ、投げろって?

しにがみ

はい

しにがみくんは ニヤニヤとした 渋々空き缶を投げる 入るわけないのに

どうやらこの同級生は 友達に、自分と同じ失敗を してもらいたいらしい

俺の投げた空き缶は 放物線を描きながら ゴミ箱の前に落ち…る と思われたが

何かに弾かれたように 浮き上がり、そのまま 吸い込まれるように穴の 中に入っていった

しにがみ

えっ!?!?

その空き缶の動きに しにがみくんは目玉が 飛び出んばからりに驚く

ぺいんと

やったー!

ぺいんと

帰ろ、しにがみくん!

喜ぶ俺に

しにがみ

くっそー!
今度は入れて
みせますからね!

としにがみくんは 俺に挑戦を申し込んだ

ぺいんと

…らっだぁが来るまで

しにがみ

…はい

ぺいんと

コンクールの作品でも
描いて待つことにするよ

しにがみ

…そうですか

ぺいんと

ありがとう
しにがみくん

そう言った瞬間 生ぬるい風が2人の間を 通った、振り返ったが 何も無い

2人は、いつものように 帰路についた

らっだぁ目線

しにがみ

ほら、
ぺいんとさんも

しにがみくんに干された ぺいんとがいやいや 空き缶を投げる

俺が落ちそうになった 空き缶を捕まえ、勢い良く 穴に入れてやると 2人は驚いた

何やってんだ俺 ただの怪奇現象だろ、これ

自分でやっておいて 余計に虚しくなる

『俺は、この力を 持ったのには、ナンカ意味が あるって思っテル』

『例えば…… らっだぁさんみたいな 奴の助けになる、トカ』

みどりの言葉を思い出す 今俺の姿を見れるのは みどりだけ

助けを求めるなら あいつに頼るしかない

…助けってなんだ? 役目を終えた俺が何を するんだ? そもそもなんで俺は こんな所にいるんだ? みどりに成仏を 手伝ってもらうとか?

いざとなったらそれも いいかもな、と1人自潮の 笑みを浮かべる はは、と出した声は届かない どこにも、誰にも

ぺいんと

…らっだぁが来るまで

しにがみ

…はい

ぺいんと

コンクールの作品でも
描いて待つことにするよ

しにがみ

…そうですか

そう言ったぺいんとの 言葉に息が止まりそうに なった

あのお人好しは 消えた自分のことを まだ考えてくれているのだ

…わかってた、わかってたよ 俺、ぺいんとにまだなんも 言い残せてないよ 消えれないんだよ

俺は歩き出す2人の前に 先回りして立ちはだかる 2人を抱き締めれるように 両手を広げ 2人に向かっていった

俺の両手は、2人を すり抜けて虚空を抱いた

あぁ、やばいな、コレ

上を向いて息を整えると 俺は帰る、2人とは反対の 方向に走った

いっそ、このまま、夏の夜に 溶けてしまいたかった

クロノア視点

クロノア

こんなとこにいたの?
ぺいんと

俺が声をかけるとぺいんとは ぴんっ、と背筋を伸ばした

ぺいんと

ごめんなさい
クロノアさん…

クロノア

いやいや、描きたいものを描きたい場所で描いてくれていいんだけどさ

ぺいんとはちゃんと あと片付けやるしね

ぺいんとが居たのは 3階の空き教室だった 普段は吹奏楽部に占領される 校舎だが、最近の吹奏楽部は 外部の練習が多いらしく 他の文化部が悠々と使っていた

勿論、美術部も例外ではない

ぺいんとはう〜んと 唸りながら鉛筆の線を 消し始めた

夏も本番 他の部員が順調に制作を 進める中、彼はなにやら 行き詰まっているようだ

ぺいんと

クロノアさん、
どうかしたんですか?

ぺいんとは消しゴムを置き 水筒に手を伸ばした

クロノア

あー、しにがみくんが
元気なくてさ〜

俺の言葉の意味が わからないらしく ぺいんとは、こてん、と 首を傾げた

ぺいんと

…しにがみくんが
ですよね?

クロノア

うん

ぺいんと

なんで俺のとこに?

まぁ、当たり前の質問だ

クロノア

俺の中には

クロノア

『しにがみくんが
元気ない時の原因は
ぺいんとだ』って

クロノア

ことわざが
あるんだよね〜

何ですかそれ、と 笑うぺいんと しかし直ぐに困った顔に なるあたり、どうやら そのことわざもあながち 間違えではないようだった

クロノア

…大丈夫?

ぺいんと

…はい

弱々しく笑う ぺいんと

ぺいんと

…でもちょっと

ぺいんとは少し考え込む 微笑みをそのままに

ぺいんと

作品が、
行き詰まっちゃって

嘘をついてるのでは なさそうだった 彼は実際に制作に 行き詰まってる

しかし、ぺいんとを悩ます 何かがあること、 そうやって悩むぺいんとを 気にかけてしにがみくんが 元気をなくしていることは 容易に推測されることだった

部長はなんでも お見通しなんだよ

そうは言わずに、俺は 違う言葉をぺいんとに かけた

クロノア

じゃあ、
美術部部長からの
アドバイス

俺は授業をするように 教卓の前に躍り出る 肘を置くと教卓は ぎしっと音を立てた

クロノア

取り敢えずさ、
自分が大切だと
思うものを
描いてみなよ

ぺいんと

大切なもの?

クロノア

そう

ぺいんとは俺のアドバイスを 受けて更に考え込んだ

クロノア

だから俺は、人を描く

その言葉にぺいんとは ぱっと顔をあげた

クロノア

トラゾーとか
コンタミさん

クロノア

部員は勿論、大衆を
描いたこともあるかな

クロノア

とにかく人は、俺にとって
大切なものなんだよね〜

ぺいんとの肩に力が 入らないよう、 真面目な話も出来るだけ おちゃらけた風に 喋る

ぺいんと

どうして、人を?

クロノア

俺の自論だけど
人は幸せだからだよ

ひとはしあわせ…と ぺいんとは俺の言葉を 呟いた

クロノア

だってしあわせは
1人じゃ感じないでしょ?

クロノア

しあわせを感じるには
人の関わりが必要不可欠だ

ね?と、ぺいんとに 問いかける

はは、と微笑んだ彼の笑みは 少しだけ明るくなった気がした

ぺいんと

クロノアさんも
真面目なこととか
考えるんですね

クロノア

あ〜!
馬鹿にしたな〜?

ぺいんと

いや、してませんけど

クロノア

最近言うように
なっちゃって〜

ぺいんと

はははっ

教室を後にしようとして ぺいんとに呼び止められる

ぺいんと

クロノアさん

クロノア

ん?

ぺいんと

ありがとうごさいます

笑った彼の顔は また弱々しいものに 戻っていた

きっと俺には触れられない 何かがあって、わからない 何かがあって、どうしてあげる ことも出来ない何かがある

きっと救い出してあげれるのは 俺ではないことも多いし 今回もそうだろう

だけど、感じるのだ 自分でもわからない 不思議な感覚 血が騒ぐように、 身体全体が自分に 訴えるのだ

彼らを守れと 美術部皆の幸せが 俺の幸せでもあると

部長が去っていった 教室に1人残った彼は 何かを思いついたように 絵の具を並び始めた

ここまで見てくれて
ありがとうごさいます

…タップ数多くて
すゐません…

(合計191)

…気を取り直して(?)

次回も呼んでくれると
嬉しいです

それではまた
お会いしましょう!

君と俺と皆の幸せ

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