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瀬崎徹
喉の奥から乾いた音が漏れた。
トイレのドアを開けた先に広がっていたのは、紛れもない「死」だった。
江藤雄介が、汚れたタイルの上で仰向けに倒れている。頭部はひどく陥没し、そこから溢れ出した赤黒い液体が、床の目地を伝って広がっていた。
その傍らには、兇器と思しき錆びついた鉄パイプが転がっている。
浅木豊
浅木が呻くように言った。その顔からは、いつもの傲慢さが消え失せている。
新堂章吾
浅木豊
新堂章吾
浅木豊
浅木が怒鳴りつけるが、新堂の動揺は収まらない。
無理もない。さっきまで憎まれ口を叩いていた仲間が、今は肉の塊になって転がっているのだ。
瀬崎徹
俺が割って入ると、浅木は忌々しげに舌打ちをした。
浅木豊
俺たちが青ざめた顔で部屋に戻ると、異変を察知した女子たちが集まってきた。
廊下には悲鳴とざわめきが満ち、パニックは伝染していく。
香川麻由美
香川が信じられないといった表情で呟く。
浅木豊
浅木がそう吐き捨てる。
女子の何人かは遠巻きにトイレの中を覗き見てしまったらしく、顔面蒼白で震えていた。
女子生徒
瀬崎徹
俺の答えに、香川の顔が強張った。
香川麻由美
瀬崎徹
重い沈黙が落ちる。外は土砂降り、大人は不在。この閉鎖空間には俺たち生徒しかいない。
女子生徒
一人の女子が震える声で核心を突いた。
香川麻由美
香川の言葉が、全員の胸中にあった最悪の可能性を具現化させた。疑いの視線が交錯する。
新堂章吾
新堂がここぞとばかりに細波を指差す。俺には恐怖を転嫁する対象を見つけて、安心したいだけに見えた。
細波将太
新堂章吾
細波将太
瀬崎徹
俺が割って入るが、新堂の興奮は収まらない。
新堂章吾
細波将太
新堂章吾
瀬崎徹
俺は話題を変えるために声を張り上げた。
香川麻由美
高島隼人
その時、廊下の奥から足音が近づいてきた。
遠藤
村人の遠藤だった。さっきと変わらない、人好きのする笑顔を浮かべている。
遠藤
遠藤はきょとんとして俺たちを見回した。
遠藤
香川麻由美
香川がすがるように叫んだ。
遠藤
香川麻由美
遠藤
遠藤の力強い言葉に、香川の表情がぱっと明るくなる。
香川麻由美
遠藤
遠藤が手招きし、生徒たちが動き出そうとした瞬間だった。
浅木豊
浅木が鋭い声で制止した。
遠藤
浅木豊
その場の空気が凍りついた。
香川麻由美
浅木豊
浅木は鋭い視線で遠藤を射抜く。不良特有の危険に対する嗅覚が働いているようだった。
浅木豊
香川麻由美
浅木豊
瀬崎徹
ハッとした。浅木の言う通りだ。
生徒を迎えに来るなら、普通は担任の吉原が来るはずだ。あるいは、せめて運転手が。
なぜ、村人の遠藤が一人で来た? 吉原はどうした? 運転手たちは?
浅木豊
浅木の指摘は的確だった。
確かに、普通なら「どこだ?」「その場所に案内してくれ」となるはずだ。
それを「村まで来い」と即座に切り替えるのは不自然すぎる。
新堂章吾
香川麻由美
香川が信じられないと言わんばかりに困惑した表情で、遠藤を見る。
遠藤
遠藤は無言だった。 さっきまでの親切な笑みは消え失せ、能面のような無表情で俺たちを見下ろしている。
背筋が凍るような威圧感。
浅木豊
浅木の指摘で、全員の視線が遠藤の腰元に集まる。彼のズボンのポケットが、何かの形で膨らんでいたのだ。
遠藤
浅木豊
遠藤
遠藤はゆっくりと、ポケットに手を伸ばした。
遠藤
遠藤
瀬崎徹
取り出されたのは、刃渡りの長い出刃包丁だった。
香川麻由美
香川が後ずさる。
遠藤
遠藤は包丁の切っ先を、弄ぶようにこちらに向けた。その目は、獲物を見る捕食者のそれだった。
瀬崎徹
俺は唇を噛んだ。浅木の勘は正しかった。だが、それは同時に最悪の事態を意味していた。
高島隼人
高島が大げさに悲鳴をあげる。
遠藤
浅木豊
遠藤
遠藤は冷たく言い放つと、包丁を構えたまま品定めをするように俺たちを見回した。
その時、遠藤は包丁を構えたまま、反対の手でポケットから黒い無線機を取り出した。
遠藤
ザザッ、というノイズ混じりの音が廊下に響く。
瀬崎徹
遠藤
遠藤が頷く。その口調は完全に業務連絡を行う人間のそれだった。
つまり、こいつには「仲間」がいる。それも、組織だって動いている何者かが。
遠藤
遠藤が忌々しげに無線機を振った、その一瞬の隙だった。
浅木豊
俺の視界の端で、赤髪が動いた。
浅木だ。彼は背後手にズボンの後ろポケットを探り、何かを取り出そうとしていた。
黒く、重厚な輝きを放つ棒状の物体。そうだ。確かあいつ、喧嘩用に特殊警棒を常備していたはずだ。
浅木のヤツ……あれで何を!?
遠藤
遠藤が無線機に気を取られ、ふと視線を落とした瞬間ーー。
遠藤
ドゴォッ!!
遠藤
鈍い音が響き、遠藤がよろめく。浅木は躊躇なく踏み込み、手にした警棒を振り下ろした。
浅木豊
遠藤
容赦のない追撃。二発、三発と殴打されると、遠藤は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
奴の手から離れた包丁が、カランと乾いた音を立てて床を滑る。
遠藤
新堂章吾
新堂が引きつった顔で呟く。
高島隼人
高島が震える声で問うと、浅木は荒い息を吐きながら睨みつけた。
浅木豊
香川麻由美
香川が口元を押さえる。
浅木豊
瀬崎徹
浅木は倒れた遠藤を乱暴に蹴り飛ばした。
浅木豊
彼の肩は激しく上下しており、いつもの余裕は消え失せている。さすがの浅木も、咄嗟の行動でアドレナリンが出ているようだ。
浅木豊
細波将太
香川麻由美
香川が叫ぶと、パニックが伝染したように他の女子も騒ぎ出した。
女子生徒
新堂章吾
新堂が喚く。確かに、運転手がいないバスなどただの鉄の箱だ。
香川麻由美
八方塞がりの状況に、全員が押し黙る。
俺は思考を巡らせた。遠藤には仲間がいる。ここに留まるのは危険だ。だが、闇雲に逃げ回ってもジリ貧になるだけだ。
瀬崎徹
俺の提案に、香川がハッとして頷いた。
香川麻由美
瀬崎徹
集団行動は目立つ上に足が遅い。
瀬崎徹
俺がそう言いかけた時、嫌な予感がした。
案の定、浅木の視線が俺を射抜いた。
浅木豊
……そうなると思った。
瀬崎徹
浅木豊
高島隼人
名指しされた高島が素っ頓狂な声を上げる。
浅木豊
高島隼人
高島は心底嫌そうな顔をしたが、浅木に逆らえるはずもない。
香川麻由美
香川がパンと手を叩き、場を仕切り始めた。
香川麻由美
浅木豊
香川麻由美
香川は上目遣いで浅木に頼み込む。やはり委員長、こういう時の機転は流石だ。
浅木豊
浅木は満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
香川麻由美
浅木豊
香川麻由美
瀬崎徹
役割は決まった。 俺は覚悟を決めて、高島に向き直った。
瀬崎徹
高島隼人
瀬崎徹
高島隼人
こいつは本当に、事なかれ主義の塊だ。だが、今はその軽さが少しだけ救いでもある。
高島隼人
瀬崎徹
俺たちが歩き出そうとした時、浅木が声をかけてきた。
浅木豊
瀬崎徹
浅木豊
浅木が放り投げてきたのは、気絶した遠藤から奪い取ったであろうトランシーバーだった。
瀬崎徹
敵の通信が聞けるかもしれない。これは貴重な情報源だ。俺はそれをしっかりとポケットにねじ込んだ。
浅木豊
俺は小さく頷き、高島と共に暗い廊下へと足を踏み出した。