大掃除をしようか。
いらないものは、全部捨てよう。
ああ、でも、僕にまだ捨てられるもの なんてあるのかな。
僕は沢山のものを捨ててきた。
希望は捨てた。
意思は捨てた。
夢も捨てた。
あ…れ……?
僕がなりかったものって、何だっけ。
まあいいや、忘れた。
あ、そうだ。
まだ捨てられるものがある。
次は感情だ。
それさえ捨てれば
もうこんな苦しい思い、 しなくて済む。
感情はどこにしまってたっけ。
僕の心の
奥の
奥の
奥の奥。
しまいたいのに
深い深い闇の中を手探りで探しだす。
その時、足元に何かが当たった。
くしゃくしゃに丸められた紙だった。
それを、何となく拾い上げて、 紙を開く。
小さい頃に書いた、下手くそな絵と
下手くそな〝絵を描く人になりたい〟 の文字。
誰にも捨てられないように
奥にしまっておいた、大事なもの。
なりたかったんだ…
古ぼけた絵を、ぎゅっと抱きしめた。
母
とってあったの?
母
捨ててしまいなさい
僕の後ろから、お母さんの声が 聞こえた。
一瞬その声に怯んだが、
震える手を握りしめ、お母さんに 向き直った。
捨てられないんだ
思い出したよ。
僕は今日、今まで描いた絵を
夢と共に全部捨てたんだよね。
その瞬間、ハッと現実に意識が 引き戻される。
僕は家のリビングにいた。
ってもう出した?
母
持って行ったけど…
ありがとう
絵と夢を取り戻してこよう。
まだ、間に合うかな。
僕は家を飛び出し、
全速力で、ごみ捨て場へと 走っていった。