香月紫苑
本日、5度目になる嘆息(たんそく)をついた。
香月紫苑
先程の小峠との、やり取りを思い出す。
女装ヒットマンの俺は、大手をふって歩く訳にいかねぇから、組内の仕事はかなり限定されている。
粛清もするが、主な仕事はハニートラップ要因と、キャバ嬢に扮し、キモい奴らからの情報収集だ。
得た情報は共有する為、資料に書き起こす場合もある。
そうなると段々、資料が溜まっていく。
香月紫苑
溜まった資料を一時保管の為、段ボールに詰め、書斎を目指して歩き出す。
資料といえど、段ボール二つ分となれば、それなりの重量がある。
女装ヒットマンをしてるとはいえど、性別は男。段ボール二つ運ぶ位は、造作もないが、重い事には変わらない。
書斎へと向かう廊下の途中で、小峠と合った。
小峠華太
香月紫苑
急に荷物の段ボールが、俺の手から消える。
小峠華太
俺の荷物を代わりに、小峠が抱えている。
香月紫苑
荷物を持ってくれるのは 有難いが、二つとも持たすのも悪いと思い、一つ位は自分で持つと伝える。
香月紫苑
小峠華太
と、重さを理由に断られてしまった。
小峠らしい、気遣いなのだが、引っ掛かりを覚える。
確かに、気遣ってくれてはいるが、それは、兄貴としてというよりは、女性に対する気遣いに近いような気がしてならない。
そして、その俺の読みは的中する事になる。
青山琉己
突然、背後から、青山に抱きつかれる。
香月紫苑
青山琉己
香月紫苑
小峠華太
青山琉己
香月紫苑
小峠華太
青山琉己
青山琉己
ひょいと青山は小峠の手から段ボールを一つ奪う。
青山琉己
小峠華太
ついでとはいっても、自分の荷物、まぁ、正しくは俺の荷物だが、兄貴である青山に持たす事になったというのに、小峠は俺の時とは違い、お礼を述べるだけで、断らなかった。
青山と俺への気遣いの差によって、俺は確信する。
小峠は無意識で、俺を女扱いしていると。
小峠華太
香月紫苑
青山琉己
小峠華太
青山琉己
小峠華太
二人は談笑しながら、廊下の角へと消えていった。
香月紫苑
さっきよりも、大きな溜め息が、また漏れた。
一人の男として意識して欲しい相手から、女として意識されてるのだ。
溜め息の一つくらい、つきたくもなるというものだ。
香月紫苑
自惚れてる訳ではないが、俺は顔がいい。老若男女問わず、モテる。
告白されたことはあれど、告白はしたことない。それに、告白しなくても、向こうから勝手に寄ってくるからな。
でも、肝心な小峠には、振り向いて貰えないのだから、世の中不公平だ。
どうせモテるのなら、興味のねぇ、他の奴らからモテるよりも、小峠からモテたい。
香月紫苑
とりとめない事を考えながら、池の鯉を眺めてると
野田一
香月紫苑
野田一
野田の兄貴の話によると、最近、新設されたグランピング施設に、不穏な噂が流れていると。
しかし、不穏なとはいえど、まだ噂の域をでないので、天羽組としても動くに動けない状態にあること。
だから、俺と小峠で恋人を装って、潜入するように命じられた。
野田一
またとない、星の巡り合わせに、俺の心が滾(だぎ)る。
香月紫苑
これはチャンスだ。
キャンプを通じて、小峠に俺を男として、認識させてやる!
そう俺は決意を固めた。
グランピング潜入当日の朝。
待ち合わせ時点から、俺達は恋人を装う。
小峠華太
呼び慣れない俺の下の名前を、恥ずかしそう呼ぶ、小峠。
ぐぅ可愛かよ。
香月紫苑
小峠の名前呼びに萌えて、流されるところだった。あぶねぇ。
小峠華太
有名なフレッシュジュース店のロゴがプリントされた、ジュースを渡される。
香月紫苑
こういう気遣いは嬉しいんだけど、これ女への気遣いの仕方なんだよな。これさえなければな。
小峠華太
香月紫苑
距離を取って歩こうとする小峠の腕に、腕を絡める。
小峠華太
香月紫苑
流石の小峠も、これなら意識するだろ。
自信満々に顔を見上げる。
小峠は何時もの仏頂面(ぶっちょうっら)に、戻っていた。
何でだよ!ここは照れるとこだろ!
照れろよな!俺が馬鹿みたいじゃねぇか!
小峠華太
香月紫苑
何でそれには気づくんだよ!
気づいて欲しいんのは、そっちじゃねぇんだよ!そっちじゃ!
香月紫苑
小峠華太
ぜってぇー意識させてやるんだからな!
グランピング施設は、最近出来たばっかりとあって、人で賑わっていた。
小峠華太
香月紫苑
小峠華太
小峠華太
香月紫苑
俺は宿泊するテントを閉めた。
小峠華太
香月紫苑
テント内は、モロッカンテイストで、ムード満点な、お洒落な作りになっていた。
小峠華太
そう、ムード満点な。 テントの真ん中に置かれた、キングベッド。その横にはもう一つテントが設置されており、中には、グランピングには珍しいジャグジー付き風呂。風呂は虹色のライトで照らされて、思わず、ラ○ホかよ!っとツッコミそうになった。
一先ず、テントの中は見なかった事にしょう。
香月紫苑
小峠華太
効率よく、情報収集するにあたって、俺と小峠は二手に別れた。
グランピングの敷地内は、色々な年代層の人が歩いている。その中で、ばか騒ぎしながら歩く、二人組の大学生に目が止まる。
その大学生達は異質だった。そこら辺にいる大学生とは、何か違ってみえる。
香月紫苑
俺は大学生の集団の横を通り過ぎる際に、わざと財布を落とす。
モブ1
香月紫苑
男は拾った財布を、渡してくる。
モブ2
香月紫苑
モブ1
モブ2
香月紫苑
モブ2
モブ1
香月紫苑
モブ2
香月紫苑
モブ1
香月紫苑
モブ2
香月紫苑
不穏な噂が流れているという、たれ込みはあったが、その内容の全貌は知らされていない。そして、情報屋を使っても、尻尾すら掴めなかった。
モブ1
香月紫苑
情報屋ですら、掴めなかった噂の内容を大学生達は、何か知っているかのような口ぶりで話す。
モブ1
モブ2
男達は途端に、下卑(げび)た笑みを浮かべる。
香月紫苑
モブ1
モブ2
モブ1
モブ2
モブ1
モブ1
香月紫苑
モブ2
ゲラゲラと腹をかかえて笑っている様から、こいつらは、心底(しんそこ)、楽しんでいる事が伝わってくる。
モブ1
モブ1
こいつら、人間じゃねぇ!
後ろの方から悲鳴が上がる。
モブ2
モブ1
男は俺の手を掴んだ。
香月紫苑
ショートパンツのベルトに差し込んでいたデザートイーグルのセーフティロックを外し、引き抜くと同時に、男共の額を撃ち抜く。
モブ1
香月紫苑
モブ2
香月紫苑
さっきよりも大きな悲鳴が上がる。
香月紫苑
俺はBBQコーナーへと急ぐ。
羆(ひぐま)の出現により、客達は集団パニックを起こしており、我先に出口に向かって、押し合いながら、逃げ惑っている。
しかし、その行動が羆の狩猟本能に火をつける。
ひぐま
俺は人の波をかき分けながら、華太を探す。
人が多すぎて、小柄な俺は反対に後ろへと押し戻される。
そんな時だ、俺の肩を誰かが掴む。
小峠華太
小峠華太
そこには、小峠の姿があった。
香月紫苑
香月紫苑
男達から話を聞いていたが、一応、確認をとる。
小峠華太
小峠華太
モブ子
母親
子供の泣き声があがる。
逃げている途中で、石に躓き、子供は転倒したようだ。
それだけなら良かったが、状況は最悪だった。
小峠華太
羆が次の獲物に、転んだ子供を選んだようだ。どんどんと子供へと距離を詰めていく。
子供の母親は我が子を助けようと、人垣を抜けようとするが、周囲の人間が必死に止める。
母親
モブ
男は、娘のもとに行こうとする、母親を羽交い締めし、踏みとどまるように説得する。
母親
男女には性差による力の差が存在するが、我が子を助けたい一心で、母親は、火事場の馬鹿力を発揮し、男の拘束を解き、形振り構わず、我が子の元へ駆けよった。
モブ子
母親
幸いにも、羆よりも先に、母親は子供もとへたどり着いた。母親は、子供を自分の胸に抱き込む。
羆の爪を振り下ろされた時に、盾になる為に。
母親
羆は親子を仕留める為、間合いをジリジリと詰めていく。
羆の筋肉はぶ厚い。ライフルでもあれば仕留められただろうが、弾薬は50AE(自動拳銃では最高の威力をほこる)を使用しているとはいえ、デザートイーグルだ。心許無(こころもとな)い。
香月紫苑
デザートイーグルのセーフティロックを外し、劇鉄を起こす。
羆は親子目掛け、駆け出し、狩るために、上体をやや起こした。
その瞬間を狙い、心臓目掛け、引き金を引く。
パァン!っと音ともに火花なと薬莢(やっきょう)が飛ぶ。立ち上る、硝煙の匂い。
銃口から発射された銃弾は、羆の心臓に命中する。
ひぐま
やはり、分厚い筋肉に阻まれ、銃弾は心臓まで、到達しなかったようだ。
羆は撃たれた事で、更にいきり立つ。
俺に弾かれた事で、羆は親子ではなく、俺へと標的を変え、俺へ向いて駆け出してきた。
小峠華太
羆の走る速度は時速60キロメートルと聞くが、噂通りに早え。 (※比較として、100m走の金メダリストのウ○イン・○ルト選手の最高スピードは、時速44.46キロメートル。よって、金メダリストでも、逃げるのは不可能。熊に追いかけられた時点でオワタ)
香月紫苑
小峠華太
香月紫苑
小峠華太
小峠華太
小峠は木陰に紛れ、親子の元へ駆け出す。
香月紫苑
羆が小峠に標的を変えぬよう、間で発砲し、俺に視線を引き付ける。
羆は小峠には目もくれず、一直線に俺に向かって走ってくる。
その距離
300メートル
もう一度、弾丸を放つと、羆の右耳を掠めた。しかし、羆は突進する速度を緩めない。
獣特有の獣臭が強くなる。
200メートル
段々と熊との距離が縮まってくる。
100メートル
焦るな。まだだ、極限まで引き付けろ。
5メートル
小峠華太
お互い射程圏内。熊の前足目掛け、足元に落ちていた石を蹴る。驚いた熊が咄嗟に、立ち上がる。
不安定な態勢にも関わらず、熊は俺を仕留めようと、腕を振り上げる。
香月紫苑
狙いは一点。
心臓手前で、止まっている弾丸。
初弾の弾丸と同じく、心臓に向けて、弾く。
弾いた弾丸は寸分違(すんぶんたが)わず、心臓手前で止まっている弾に着弾する。後方から、弾かれた事で、手前の弾丸は、前と押し出され、羆の心臓を貫く。
羆は手を振り上げたまま、絶命し、俺の方へ向いて倒れてきた。
俺は発砲と同時に、バックステップで下がっていた為、羆の下敷きにならなくて済んだ。
香月紫苑
クソみたいな飼い主に当たらなければ、少なくとも俺に殺されなくて済んだのに。
小峠華太
香月紫苑
無事、親子は安全な場所に逃がせたのか、小峠は駆け寄ってきた。
小峠華太
俺の無事を喜ぶ、小峠の姿を目にした途端、プツリと俺の緊張の糸が切れ
気づいたら、ペタンとその場に座り込んでしまった。
香月紫苑
最後の最後で、格好悪い姿を見せちまった。
小峠華太
小峠華太
小峠から欲しかった言葉が、つむがれる。
小峠は俺に対し、綺麗という賛辞を送る事はあっても、他の兄貴達のように格好いいとは言った事はなかった。
香月紫苑
小峠華太
香月紫苑
香月紫苑
小峠のパーカーの襟を掴み、俺の方に手繰り寄せる。
俺と小峠の唇と唇が重なる。
小峠華太
俺の行動に面食(めんく)らったらしく、小峠は言葉ではない言葉を発していた。
香月紫苑
小峠華太
香月紫苑
勉強代として、主導権は俺がいただくけどな。
香月紫苑
香月紫苑
小峠華太
モブ3
モブ4
コテージの中に、二人組の男が入ってくる。
小峠華太
小峠が銃を弾く。
モブ3
次の瞬間、男の額に風穴が空く。
モブ4
俺は男に近づき、額に銃口を突きつける。
香月紫苑
モブ4
モブ4
仲間が弾かれるのを、目の当たりした為か、男の舌は滑らかで、俺に尋ねられるままに、今回の経緯を洗いざらい、喋った。
男が言うには、熊の生態について研究していく内に、熊は本当に、人肉の味を覚えたら、人肉しか食べなくなるか、実験したくなった。
もともと、全員裕福な家庭の出なので、金に物言わせて、熊を捕獲した。
しかし、熊を手に入れたまでは良かったものの、熊を野離しにしてしまうと肝心なデータが取れず、住宅街で熊の目撃情報など出回ったら、熊を買った相手から通報されかねない。
何かいい手はないか、話あった結果、グランピング施設を作り、そこで実験しようという流れになったらしい。
情報漏洩(ろうえい)を危惧(きぐ)し、最初の内は、少人数しか利用しない日のみ、熊を放っていた。
その為、あそこのグランピングを利用したら、失踪するという噂はたったものの、熊を放っていない日に、利用した客達が、そんな事はないと擁護してくれていたお陰で、眉唾程度の噂話として片付けられていた。
しかし、ちまちまデータをとるのが飽きてきたので、今回、大人数の時に、熊を放ったら、熊は自分が食べる量以上に、獲物を狩るのか、何人殺すのか、客達はどんな反応を見せるのか、データを取る為に、熊を放ったとの事だった。
モブ4
小峠華太
モブ4
香月紫苑
モブ4
逃げれないように、俺は男の左足背を撃ち抜く。
モブ4
小峠華太
小峠が右足背を撃ち抜く。
モブ4
香月紫苑
わざと右大腿(だいたい)を撃ち抜く。
小峠華太
モブ4
小峠も、わざと左大腿に銃弾を撃ち込む。
香月紫苑
モブ4
さっきと同様に、言葉と反対の、左前腕を撃つ。
小峠華太
モブ4
小峠も言葉と反対の左手背(しゅはい)に弾丸を撃つ。
香月紫苑
小峠華太
香月紫苑
右腹部に弾丸がめり込む。
モブ4
小峠華太
小峠は躊躇いなく、男の股間に弾丸を撃ち込む。
股間を撃たれた事で、男は激痛によるショック死したようで、最期は一声も鳴かなかった。
こうして、俺達の潜入捜査は幕を閉じた。
え?そっちはどうでもいいから、あの後、小峠と、どうなったか聞きたいつて?
そんなもん秘密だよ。秘密。
艶事を吹聴(ふいちょう)する男は、嫌われるからな。
そんなに聞きたいなら、小峠に聞いてみろよ。
まぁ、口は割らないだろうけど、可愛い反応は見れるかもな。
おわり
あとがき タイトルをこれにしたら、また幼児化もんかな?って、騙されるかなと思って、あれにしてみた。 香月たんは受け派だけど、華太ちゃんとなら、華太は受けなの。二人で百合ってても好きだけど、たまには雄みのある香月たんが、書きたかった。 ミリオタではないんで、銃の種類には詳しくいないけど、野田ニキには、リボルバー式(回転式拳銃)を撃って貰いたい。連射向きでないから、オートマチック(自動式拳銃)でないと無理なのはわかってるけど、野田ニキは、コルトパイソン.357マグナムが似合うと思うんだ。香月たんには、ワルサーppk/s、華太ちゃんは、ベレッタ92が似合いそう。 カンボジアに行けば、ロケットランチャー体験あるから行ってみたい。でも、ロケットランチャー一発10万する。これにより、海瀬の資金源がとこなんか気になる。 日本三大獣害事件など見るの好きなので、熊には詳しい。小さい頃、三毛別羆襲撃事件を、一話完結ドラマにしたやつをみて、トラウマになったせいか、テディベアもプーみても、所詮、本性は熊やもんなと思うと、可愛いとは思えない。全部は覚えてないけど、川で洗濯していた所に、人の生首ぶら下げた熊が出てきて、なんとか退治したんだけど、振り向くと新しい熊がそこに立っていて、俺達の戦いは終わらないって感じのラストだったのは覚えてる。 因みに住宅街に熊が出没した場合、射殺以外の方法は取れません。 まず、麻酔薬を取り扱える免許持った人以外は、麻酔銃の使用が出来ないのと、麻酔銃の射的距離も短く、外せば、麻酔銃を撃った人の方が死にます。麻酔銃撃っても麻酔が効くまで、20~30分掛かる。個体によっては、一時間、全く効かないのもいる。そして、銃で撃たれた事に対し、興奮して、民家を襲う可能性があるので、射殺する他ない。 実は、射殺もしにくい。 鼻先から頭頂に向かって傾斜が少なく被弾しにくく、30口径の弾で頭を撃っても、固い頭骨にはじかれるか、外側の肉を削ぐだけで致命傷にはならない。熊を仕留め損ねた時点で、ハンターが食べられる。
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