若利
なあ
ふいに、若利が口を開く。
若利
もうすぐ引退だな
伊鳳
……そうだね
若利
最後の大会、必ず勝つ
伊鳳
全力でサポートするよ
若利
ありがとう
若利が小さく笑った。その表情が、どこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。
若利
それと___ ___
彼が言葉を続けようとした、 その時だった。
部員
伊鳳ー!鍵持ってる?
遠くから部員の声が飛んできた。
私は
伊鳳
あ!
伊鳳
ちょっと待って!
と返事をし、若利を見た。
伊鳳
ごめん、行かなきゃ
若利
……ああ
若利は少しだけ視線を落としたが、 すぐにいつものように笑った。
若利
またあとで
その言葉が、なぜか胸に引っかかった。
でもその理由を考える間もなく、私は駆け出した。
知らなかった。
この夜、若利が言いかけた言葉が、私の世界を変えるものだったなんて。