テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
まるちゃ
37
Mint
60
#あたたかい目で見てください!
藤塚 太陽
24
廃病院の錆びついた門扉は、夜風にわずかに軋んでいた
弓野真夜は、制服のスカートの裾を軽く払いながら、暗い敷地内に足を踏み入れた
背中に背負った鳴弦呪法用の和弓を降ろし、袋から出して構える
街灯の届かないこの場所で、彼女の瞳だけが鋭く輝いていた
弓野真夜
鳴弦呪法は弓の弦を鳴らして魔を祓う
つまり両手を使う
真夜は右手にフラッシュライトのストラップを巻きつけ、 いつでも手放せるよう準備すると、病院の中に入った
薄暗い廊下に、懐中電灯の丸い光が揺れた
真夜は弓を左手に持ち、弦に指をかけながらゆっくりと進む
心臓の音が少しだけ速い
彼女は小学生ながら、退魔師の家系に生まれ、 幼い頃から霊的な気配には慣れているはずだった
けれど――
暗い。静かすぎる。埃の匂いと、かすかなカビの臭いが鼻を突く
弓野真夜
弓野真夜
弓野真夜
足音を殺し、廊下の角を曲がる
崩れた天井から月光が差し込む待合スペース
倒れた車椅子や散らばったカルテの山が、影を濃くしている
真夜は息を潜め、気配への感覚を研ぎ澄ませた
背中に冷たい汗が一筋伝う
そのとき、視界の端で何かが動いた
弓野真夜
小さく、素早い影
人間の子供くらいの背丈だが、明らかに動き方が違う
真夜は咄嗟に弓の弦を引き絞り――
ビィンッ!
澄んだ弦の音が病院の闇を切り裂いた
しかし影はすでに跳んでいて、音の波はわずかに逸れた
衝撃が壁に当たって埃が舞う
弓野真夜
真夜は後退りながらフラッシュライトで影を追いかけた
光の輪の中に、瞬間だけ浮かび上がったもの――褐色の肌をした小人
大きな目と、裂けるような口
言葉は発さない
ただ、じっとこちらを見つめ、笑うような形に唇を歪めるだけ
小人
弓野真夜
次の瞬間、彼女の意識がふわりと浮いた
視界が柔らかく揺らぎ、頭の奥が甘く痺れる。
催眠の力が忍び寄っていた
真夜は歯を食いしばったが、手の力が抜け、和弓が床に落ちるカツンという音がした
弓野真夜
真夜の指が、制服のブラウスに掛かる
ボタンに触れ、ゆっくりと外し始めた
スカートのホックに手が伸びる
心のどこかで「いけない」と警鐘が鳴っているのに、体が勝手に動いてしまう
頰が熱い
羞恥と焦りが、胸の奥で渦を巻く
小人の影が近づいてくる
満足げに、じっと彼女の様子を眺めている
小人
弓野真夜
真夜は最後の理性で、両手を合わせた
パァンッ!!
柏手の音が、廊下に炸裂した
鳴弦より威力は劣るが、霊力の波が一気に広がる
催眠の霧が引き裂かれ、真夜の意識が急激に引き戻された
弓野真夜
彼女は素早く後ろへ飛び退き、落ちた弓を拾い上げながら制服の前を押さえた
頰はまだ赤いまま、息が荒い
小人――南米の邪霊・チャネケは体を震わせ、苛立ったように後ずさった
小人
催眠が不完全だったことに、明らかな動揺を見せている
真夜は弓を構え直し、冷たい瞳で小人の影を睨みつけた
弓野真夜
弓野真夜
一方、その頃
戦いの様子を廃病院に仕掛けられていた暗視カメラを通じてみていた丸木戸は――
丸木戸
丸木戸
丸木戸
丸木戸
その様子を見て、「人形遣い」は内心で思った
人形遣い
人形遣い
人形遣い
人形遣い
丸木戸
丸木戸
夢中になって対策を考える丸木戸少年をみて、「人形遣い」はほくそ笑んだ
人形遣い
人形遣い
人形遣い
人形遣い
人形遣い
弓野真夜に対する包囲網が、着々と狭まりつつあった
続く
コメント
3件
「廃病院の戦い」第11話、読みました……! 真夜が催眠で無意識に制服を解き始めるシーン、すごく生々しくて緊張した。理性と体がバラバラに動く感じ、ゾワッとしたけど、最後の柏手で自分を取り戻すところ、かっこよかった。チャネケの不気味な笑い声も、ちゃんと映像が浮かんできた。丸木戸くんと人形遣いの会話で、物語が広がっていく感じも好きです。続きが気になる……!