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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

2029年8月9日

クーラーもついていない 熱気が立ち込める廊下

乾立(いぬい・りゅう)は

僅かな間隙を隔てて正面にいる

霜月絵美衣(しもつき・えみい)からの

「答え」を待っていた

口をきゅっと結んだまま こめかみに汗を浮かべている絵美衣

それは額に入った1枚の絵画のように 美しく残酷な風景だった

立はこらえきれず 絵美衣にそっと

震える手を差し出した

絵美衣は しかし立の意に反して

顔を斜にそむけた

絵美衣

でも

絵美衣

わたしは

絵美衣

これまでの乾くんと

絵美衣

違う関係になるんだったら

絵美衣

このまま、友達でいたい

予想だにしなかった 彼女の答えに

立の手の震えは ぴたりと治まった

なんで…

おれ

もっと絵美衣といたいんだ

でもこれ以上近づけないってこと?

絵美衣

わたしってね

絵美衣

ずっとこうなの

絵美衣

むかしから

絵美衣

ステージ5の高等民として

絵美衣

できるだけ正しく生きようとした

ステージ…5?

絵美衣

…隠してたのごめん

絵美衣

あんまり話さないようにしてるの

絵美衣

わたしはそうやって

絵美衣

人から遠ざかって生きてきた

絵美衣

だれかに世話をしてもらえなきゃ

絵美衣

生きていけないほど弱いのに

絵美衣

自分ひとりがよくて

絵美衣

だれにも心配をかけないでいいなら

絵美衣

なるべく誰にも干渉せず

絵美衣

干渉されずに生きていたいの

絵美衣

ごめんね

だって

だっておれといるときの絵美衣ちゃんは

とっても楽しそうで

おれにとって心地いい存在で

ずっとふたりのままがいいって

本気で思ってるのに

すると絵美衣は 地面に視線を落としたまま

ぽろぽろ泣き出した

絵美衣

ごめんね…

絵美衣

でもふたりでいたら

絵美衣

きっとわたし乾くんのこと

絵美衣

不幸にしてしまうから…

不幸になんてならない!

たしかにおれはステージ3だ

一般民寄りの下民だよ

でもこれからは勉強も頑張って

いい職場で働いて

きっと絵美衣ちゃんのことを

絵美衣

ご…

絵美衣

ごめんっ!

そういうなり絵美衣は 涙を拭いながら

立のもとから遠ざかっていった

階段をかけ下りる足音が

ただ痛々しく 立の耳に残った

絵美衣のふんわりとした匂いが そこにただよっていた

そっか…

そうだよな

俺なんかじゃ

絵美衣ちゃんと釣り合わねえよな…

そう呟きかけたときだった

聞きなれないサイレンのような音が

窓の外に鳴り響いた

たしかこれって

緊急事態発生のアラート…

立は校舎の窓ガラスを開け放ち

放送に耳を傾けた

町内放送

こちらは中央地方緊急事態対策本部です

町内放送

本日発表された「ガス」からの避難に関するお知らせです

町内放送

ステージ4、ステージ5の方から

町内放送

国外への避難が始まります

町内放送

対象の方々は順次

町内放送

「避難所」までお越しください

町内放送

繰り返しお伝えします…

立には その放送が何を意味しているか

理解出来なかった

ガス…避難?

どういうことだ

すぐにスマートフォンを開き ワードを検索にかける

……引き続き 地殻変動による

「ガス」噴出について ニュースを続けます

2027年に端を発した 日本列島各地の火山活動

これによる実害は あと30年は先だと

見込まれていました

ですが今年 2029年に入ってから

活動は急速に発展し

まもなく日本各地で 高濃度のSO2をふくんだ 有毒な「ガス」が噴出すると

見込まれています

この「ガス」は吸引すると 数十秒で死にいたる

非常に危険な物質です

政府は避難の目安として 有識者による見解を

採用しました

「ガス」は 日本各地でいっせいに

7日後 2029年8月16日午後4時36分前後に

活火山から噴出する見込みで

同時多発的かつ急速に 日本各地に噴出すると みられています

この時間は引き続き 「ガス」に関するニュースを……

民主第一党の幹部たちは

首相官邸の地下深くに ひっそりと存在する

「部外秘会議室」で 話し合いを進めていた

燈炬首相

あと一週間か…

閣僚

もう一刻の猶予もありません

閣僚

国民を退避させる手段を講じなくては

閣僚

現在各国合計1957万人の受け入れができますが

閣僚

あと一週間で8000万人

燈炬首相

あーきみはどう思うかね

閣僚

どうするべきか…

閣僚

わ、わたしは

閣僚

国民を退避させるための国と

閣僚

速急に会合し…

燈炬首相

つまらんねぇ

燈炬首相

わたしが日々カメラの前で訴えているのは

燈炬首相

いいかい――

燈炬首相

わたしに耳を貸さない国民にではなく

燈炬首相

わたしを支持する高等民に対してだ

燈炬首相

わたしの話になど興味が無い

燈炬首相

常民以下の国民に粛清を下す

燈炬首相

これはその絶好のチャンスなのだよ

閣僚

し…しかし

閣僚

われわれの責務は

閣僚

国民すべての命を救うことでは

燈炬首相

わかってないねえ

燈炬首相

基本的人権の尊重?

燈炬首相

くだらないねぇ

燈炬首相

憲法はつねにより良く

燈炬首相

書き換えなければならないんだ

閣僚

閣僚

しかし総理

燈炬首相

状況が変わったんだ!

燈炬首相

仕方ないと思え

燈炬首相

それともなにか?

燈炬首相

きみは下民に成り下がりたいか?

閣僚

そういうことを申し上げているわけでは……

燈炬首相

いいだろう、見せしめだ

閣僚

総理!

燈炬首相

上桶議員を本日付けで解任し

燈炬首相

国民レベル2に引き下げる

閣僚

そんな…総理!総理!

唐突に日本中に伝播した 「ガス」のニュース

人々の中から 「ガス」への恐怖によって

破壊衝動を持つものたちが 現れた

混沌と暴力に満ちた街に 立ち並ぶ専門店は

軒並み民衆を 「遮絶」していた

「臨時休業」の張り紙の上からは スプレー缶で描かれた落書きが

この街の荒廃感を 際立たせていた

時折 閉じられたシャッターを破り

その中に侵入していく 暴徒の歓声が上がった

どこからともなく 現れた暴徒たちは

店内の商品 とくに金目のものをうばい

あるいは食品を 手当り次第食いあさったりした

あるビルからは火の手があがり

次第に大きくなる火炎が ガスタンクに引火し

ビルは中層で爆発した

上層部がバランスを失い

ビルは地上に吸引されるように落ち

周囲一体を覆い尽くす噴煙を

まきあげて崩壊した

立の自宅は 幸いにも歩いて帰ることのできる

距離にあった

どこかから爆発音のような音が 聞こえる

はあ…

おれもひとりでいたいよ…

考えれば考えるほど

底なし沼に足を取られるようで

絵美衣との間の隔たりが 大きくなっていくようで

何もかも投げ出したくなる

おれは…

その時だった

目の前に閃光が走った

思わず目を腕で覆う

ほんの10m先で

火柱が舞い上がった

爆風に吹き飛ばされ

地面に叩きつけられる立

う…

???

立て!こっちだ!

ふと 何者かの声を聞いた

???

早く!

うっ…

どうにか上体を起こす 歩けそうだった

するとその何者かの手が

立を路地裏にひっぱりこんだ

日本終了まであと一週間

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