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担任
クラスのドアが開いたとき、 秋風のような声が教室を満たした。
担任のその一言に、 教室内のざわめきが静まり返る。 誰もが注目する中、ひとりの少年が前に立った。
和人
明るい声。 屈託のない笑顔。
自然と視線を集めるその姿に、 僕――桜木 雅哉は、目を伏せた。
雅哉
僕は人と話すのが苦手だ。 誰かと目を合わせるのも、声をかけられるのも、得意じゃない。
いつのまにか「ひとりでいること」が 日常になっていた。 それなのに――
和人
昼休み。 僕の席の前に、さっきの転校生が立っていた。
雅哉
和人
雅哉
断ったはずなのに、彼は笑顔を崩さなかった。
和人
その無邪気な一言が、不思議と嫌じゃなかった。
それから、何度も和人は僕に声をかけてきた。 毎日少しずつ。 距離を詰めすぎず、でも確かに近づいてくる。
和人
和人
和人
そんな会話を重ねるうちに、 僕は気づき始めていた。 和人と話すと、 心の奥のほうが少しずつ温まる。
怖くて閉じていた心に、 風穴が空いたみたいだった。
ある日。 教室で笑っている和人の姿を遠くから見て、 胸がちくりと痛んだ。
雅哉
そう思った瞬間、僕の顔から笑みが消えた。 何かを期待していた自分に、嫌気がさした。
その日の放課後、 先に帰ろうとした僕の背中に、声がかかる。
和人
振り返ると、和人が息を切らして立っていた。
和人
雅哉
和人
その問いに答えられなかった。 でも、胸がぎゅっと苦しくなった。
和人が続ける。
和人
雅哉
和人
その言葉に、思わず涙が出そうになった。 誰かに、そう言われたのは、初めてだった。
和人
差し出された手は、あたたかかった。 人のぬくもりって、こんなにじんわりと 届くものなんだって思った。
僕は、そっと手を伸ばした。 指がふれあい、繋がった瞬間、 世界が少しだけ変わった気がした。
――秋の夕日が、校舎のガラスに反射して、二人を包み込んでいた。