首元を押さえつけられた子猫は、
苦しそうに
みゃぅ…
と鳴いた。
手にしたナイフが
微かに震えていた。
高々と振り上げられたナイフ。
子猫は逃げようと
一生懸命手足をバタつかせるが
少年の手から
逃れることは出来なかった。
”弱いお前は”
”一生、俺の言う事聞いてりゃいいんだよ”
振り下ろされたナイフは
子猫ではなく
地面に突き刺さった。
解放された子猫は、
振り返ることなく
闇の中へと走り去って行った。
《寺の裏で猫を殺そうとするなんざ》
《いい度胸じゃねぇか》
《ん?》
《オレの声が聞こえるのか?》
《ああ…》
《やっとあのガキの封印が解けたのか》
《すぐそばにいる》
《お前の目の前…》
しかし、
懐中電灯の明かりを向けて見れば
立派な木の幹に
一本の鎌が突き刺さっていた。
《そう、その鎌だ》
《幻聴なもんか》
《まぁいい》
《やっと人に声が届いたんだ》
《オレを抜いてくれ》
《もう何百年と》
《雨風に晒され続けて…》
《このままじゃ駄目になっちまう》
《頼む》
《お願いだ》
《お前、力がほしいんだろ?》
《じゃあ、オレを抜け》
《オレを使え》
《お前を虐める奴を懲らしめてやる》
《それで諦めるのか?》
《そうやって諦めて》
《これからも一生》
《見下され》
《さげすまれ》
《不幸の渦中でもがき苦しみながら》
《無残に死ぬのか?》
《ここで出会ったのも何かの縁だ》
《お前にオレの声が届いたのも》
《何かの導きだろうさ》
《遠慮すんな》
《お前にだって力を得る権利はある》
《そうだろ?》
《……》
《ふっ…》
《はははははっ!!》
《問題は無い》
《切れ味は悪いが》
《人は殺せる》
《さぁ!抜け!》
その言葉に背中を押され
恐る恐る手を伸ばし、
鎌の柄を掴む。
抜くのに力が必要かと思ったが、
思いの外あっさり鎌は抜けた。
《お前を虐める奴らに》
《天罰を下そうじゃないか!》
鎌はそう言って
楽しそうに笑った。
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春太
春太
白凌
白凌
白凌は目をショボショボさせながら、
布団から起き上がる。
春太
春太
そう言って見せてきたのは、
空っぽの丸いクッキー缶。
白凌
白凌
白凌
白凌
春太
春太
春太
春太
春太
春太
白凌
春太
春太
白凌
白凌
白凌
そう言いながら立ち上がると、
着物の懐から
食べ掛けのクッキーが転がり落ちた。
白凌
春太
春太
白凌
春太
春太
春太
白凌
春太
春太
春太は白凌に向かって
缶を投げつけると、
家を飛び出して行った。
白凌
白凌
白凌
白凌
白凌
白凌
白凌はため息をこぼして、
湿気たクッキーを一口かじった。
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春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
ジョセフィーヌ
春太
春太
春太
ジョセフィーヌ
春太
ジョセフィーヌ
春太
ジョセフィーヌ
ジョセフィーヌ
春太
ジョセフィーヌ
春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
春太
ジョセフィーヌ
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白い兎
白凌
白凌
白い兎
兎月の声で喋る白いウサギは、
背筋を伸ばして
部屋の中を見渡す。
白い兎
白凌
白い兎
白いウサギが
じっと白凌を見つめる。
白凌
白い兎
白い兎
白凌
白い兎
白い兎
白い兎
白凌
白凌
白い兎
白い兎
白い兎
白凌
白凌
白凌
白凌
白い兎
白い兎
白凌
白凌
白い兎
白い兎
白い兎
白い兎
白い兎
その言葉を聞いて、
白凌は何かを思い出すように
ゆっくりと目を細めた。
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