番人
あなたの名前は?

黎翔
七瀬黎翔です

黎翔
高校で数学を教えています

番人
“れいと”

番人
とても律儀で穏やかな名前だね

黎翔
いえ……ありがとうございます

番人
教師なんだね

番人
あ、だから、ここなんだね

黎翔
はい、今は休み時間なので

番人
時間作ってくれて、ありがとね

番人
弟は……涼くん、だっけ?

黎翔
はい

黎翔
あいつ、少し突っ走るタイプで……

黎翔
まぁ、真っ直ぐで、情にも厚いやつですけどね

黎翔
誰かのために動こうとするのは昔から変わっていません

番人
ふふっ…

番人
あなたはすごく丁寧な敬語で話すんだね

番人
タトゥーが背中一面に入ってる人って聞いてたから、

番人
もっと怖い人かと思ってた

黎翔
…

番人
……それとも、それは“表の顔”?

番人
教師としての

黎翔
……はぁ

黎翔
なんだ

黎翔
知ってたのかよ、

黎翔
さすが番人って感じだな

黎翔
せっかく教師らしく、敬語で通してたのに……

黎翔
ま、無駄だったか

番人
ふふ、残念

黎翔
ま、悪いことしてるわけじゃないしな

黎翔
タトゥー彫るって言っても、服着たら見えないし

黎翔
あ、別に怖いわけじゃねぇよ?

黎翔
ただ、教室で、

黎翔
『先生、背中に龍います?』とか聞かれたら困るだろ?

黎翔
だから隠そうと思ってただけ

番人
ふふっ…それは面白い状況だね

黎翔
…

番人
……悠斗くんが彫ったって言ってたけど

黎翔
……そうそう

黎翔
あいつが師匠の元離れて、自分の店をもったときに、

黎翔
1番に頼んだんだ

番人
じゃあ、悠斗くんにとっても特別なタトゥーだね

黎翔
そうかもな

番人
ねぇ、みんなに話を聞いてて思ったんだけど…

番人
憂唯くんと、悠斗くん、それから君は何か繋がってるの?

黎翔
あ、あぁ、昔からよく3人でつるんでたんだ

黎翔
中学の時のバスケチームが同じでさ

黎翔
俺たちのチームは中学最強校って言われてて、

黎翔
一つ下の憂唯が飛び抜けて上手かった

黎翔
俺も悠翔もそこそこ自信あったのに、あいつだけ別格でさ

番人
そんなにすごかったんだ

黎翔
で、偶然なんだけど──弟たちも同い年で

黎翔
だから、自然と6人で集まることも多くてな

黎翔
泊まりとか、よくやってた

黎翔
バカみたいに朝までゲームとかして、笑って──

黎翔
…まぁ…昔の話だけどな

番人
楽しい時間だったんだろうね

黎翔
うん

黎翔
その頃は確かに楽しかった——

番人
その頃は?

黎翔
うん……

黎翔
最近、魅音が家にいてさ、

黎翔
涼と魅音と俺の3人で暮らしてる

番人
そうなんだ

黎翔
魅音は……夜、よく泣いてるんだ

黎翔
小さく丸くなって、布団の中で……

黎翔
誰にも気づかれないように声を殺して

黎翔
何かを堪えるように、震えてることもある

黎翔
時々、“兄ちゃん”って、かすれた声で呼ぶんだ

黎翔
何かを怯えるみたいに…

番人
…

黎翔
……夜、帰ってくるのが遅い日があるのも、知ってるよ

黎翔
朝方に、目を真っ赤にして、息を荒げて……

黎翔
玄関で泣きながらうずくまってた日もあった

黎翔
『寒い』『ごめんなさい』『怖い』って……

黎翔
きっと、憂唯と何かあったんだと思う

黎翔
けど、俺は聞けない

黎翔
大人のくせに、保護者ヅラしてんのに……

黎翔
怖くて、聞けないんだ

番人
……そっか

黎翔
憂唯とも、たまに会うんだけどな……

黎翔
今のアイツは、ちょっと怖い

黎翔
何考えてるか分からない目をしてて、まっすぐ見てこない

黎翔
いっつも言われるんだ、“魅音、家にいねぇ?”って

黎翔
その度に俺は、嘘をついてる

黎翔
“いねぇよ”って……

黎翔
2人に何があったのか、俺には分からない

黎翔
だから、その嘘が正しいのかどうかすら、分からねぇんだ……

黎翔
でも、それも限界かもしれない……

番人
…ッ

黎翔
情けないだろ。教師のくせに、兄貴のくせに……

番人
…そんなことないよ

黎翔
いや

黎翔
無力なんだよ、俺は

黎翔
何もしてやれない

黎翔
魅音の辛さも、涼の痛みも、全部見てるだけで──

黎翔
声をかけようとすると、手が止まるんだ

黎翔
かける言葉が見つからなくて……

番人
黎翔くんも、辛いんだね……

黎翔
俺なんて、全然だ

ただ寄り添うしかできない自分を、何度も何度も責めた。
小さく震える背中が、今日もあの家に帰ってくるなら。
せめて、あいつが戻ってきたとき、
何も聞かずに“おかえり”と言ってやれる大人でありたい
誰よりも不器用で、誰よりも優しいその男は、
今日も黙って、“弟たち”の未来を見守っている。