TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ダム、ダム、ダム…ガ、ガン。

聞こえてきた音は聞き間違えようも無い俺が5年間ほぼ毎日聞いてきた音…。

リズム良く硬い地面にボールが打ち付けられバックボードとゴールリングに弾かれる音…。

俺はその音に誘われる様に無意識に歩き出していた…。

弥生

あー、また外した…。

そこに誰がいるのかは大方予想ができていた。 そして何をしているのかも…。

文月

…。

祖母の家もそうだったが家の敷地を区切る大層な垣根は無く、角度さえ合えば家の周囲はほぼ全て見える事もあり音の出所がすぐに分かった。

自宅の敷地内の一画の地面をコンクリートで固めそこに聳え立った一機のバスケットゴールの前に彼女がいた。

先程、ウチの家に来た時の姿と変わって半袖のTシャツにハーフパンツ姿。 学校でもよく見かけた女子バスケ部らしい格好で練習をしていた。

田舎家で土地が広いのか自宅に専用のバスケットゴールがある一昔前の俺なら心底羨んでいただろう。

俺に見られている事に気付いていない彼女は練習を続けている。

ダム、ダム、ダムと再びリズム良くボールを突いてドリブルを開始しゴールに向かって弥生は助走を付けて大きく跳び上がりレイアップシュートを放つ。

文月

入ったな…。

自分が放つ仲間達が放つそうして何度見てきた光景だ…。 弥生のジャンプの高さと位置、ボールの軌道を見てゴールリングに入るであろう事が分かる。

俺の予想通り弥生の放ったボールはゴールリングに触れる事なくその間を通過して、リング下に付いているネットがカシュ…っと静かに気持ちのいい音を立てる。

文月

ナイシュ!

弥生

え?

文月

え?

文月

あ…。

自分でも驚いた…。

癖とは怖いもので2年もバスケから離れていたのに綺麗なシュートだったのでつい声が出てしまっていた。

弥生

あはは、ありがとうございます!

文月

ごめんね、覗くつもりはなかったんだけど…。

弥生

いえいえ!
壁とかありませんから通りかかった人みんな見えてしまいますから。

文月

ありがとう。

弥生の見せる表情と返答に安堵した俺はすぐにその場から離れようと弥生に別れを告げようとしたが。

弥生

あの!
もしかしてなんですけど、バスケやってますか!?

文月

え?あ、うん…。

弥生

ですよね!
身長も高いですし体付きもしっかりされてるのできっとバスケがバレーをやってらしたかと!

文月

なるほどね。

弥生

どこでやってたんですか!?

弥生

ポジションは!?

弥生

おいくつですか!?

弥生

あ、もしかして現役ですか!?

文月

ちょ、ちょっと待った…。

弥生からの怒涛の質問攻めに一歩後ろに下がって両手を上げてオーバーリアクション気味に彼女を静止させる。

文月

流石にそんな一気に聞かれても…。

弥生

あ、ごめんなさい…!

文月

いやいや、謝るほどのことじゃ無いよ。

文月

えっと、※※高校でやっててポジションは3番…。

弥生

あ!私もスモールフォワードですよ!

弥生

あ…、ごめんなさい話の途中に…。

文月

いやいや、大丈夫。

文月

えっと、なんだっけ?
あぁ、そうそう、歳は19で。

文月

今浪人してるから現役じゃ無いよ。

弥生

そうなんですね。
でも、※※高校ってすごい強豪校じゃ無いですか!

文月

そんな事ないよ…。

弥生

もしかしてスタメンですか?

文月

あ、うん…。
一年と二年の時は…。

どんどん繰り出される弥生の質問にふと怪我をして引退した時の事が頭によぎった…。

弥生

すごい!!

弥生

あれ?さんね…。

皐月

弥生ー、飯できてるぞー!

弥生

あ、はーい!

弥生の質問は家の中から現れた熊の様な大柄の男性の声によって遮られる。

皐月

ん?誰だお前?

文月

あ、こんばんは…。

弥生

如月おばあちゃんの所の文月さんだよ!

文月

…です。

皐月

おぉ!そうかそうか!

皐月

俺もできる限り協力するから、入院してる卯月さんの代わりに如月おばあちゃん助けてやってくれな!

文月

あ、はい。
明日からよろしくお願いします!

皐月

おう、それと弥生とも仲良くしてやってくれ!
この辺りは爺さんと婆さんしかいないからこいつも喜ぶはずだ!

弥生

お父さん、それ聞かれたら近所から怒られるよ…。

皐月

大丈夫大丈夫、周り見てみろどこに聞いてる人がいる?

弥生

それはそうだけど…。

見た目はあまり似てないが明るい性格が似た2人の会話を聞き眺めていた。

皐月

おぉ、そうだった飯だ飯。

弥生

あ、うん今行くね!

文月

それじゃ俺はこれで…。

皐月

おう、明日の朝迎えに行くから早めに起きておいてくれ。

弥生

また明日!

そして家に入る2人に背を向けて俺も家に帰ろうとした時に…。

弥生

今度よかったらバスケの練習相手お願いします!

文月

え、あ、うん…。

突然背後から掛けられた声に驚いてつい返事をしてしまった…。

文月

やってしまった…。

しかし、俺はどこか安堵していた。 弥生の質問攻めの最後…彼女が最後に言いかけた質問をしなくて良かったと…。

きっとこう聞きたかったのだろう…。

「あれ?三年の時は?」

翌朝午前6時頃に弥生と弥生の父親が迎えに来てくれた。 昨日は散歩を終えてからすぐ風呂に入って少し勉強をして早めに寝る事にしてが念の為におばあちゃんに起こしてもらう様に頼んでおいて正解だった。

文月

ふぁ…、ねむ…。

弥生

おはようございます!

如月

おはよう、弥生ちゃん。

皐月

おはようございます、おばあちゃん。

如月

おはよう皐月さん。
悪いねぇ、うちの畑の面倒も見てもらって。

皐月

いやいや、大丈夫ですよ。
おばあちゃんや卯月さんにはいつも世話になってますから!

文月

おはようございます…。

皐月

おう、起きてたか。
んじゃ、早速行くか!

玄関を出た瞬間太陽の眩しさに目を少し細め空を見上げる。

今日も暑くなりそうだが湿気も少なく清々しい空気を大きく吸い込んで背筋をグッと伸ばした。 時折り吹く涼しい風がなんとも心地よかった。

皐月

よし、それじゃ文月お前は荷台に乗れ。

文月

え?ここ人が乗っていいんですか…。

伸びをする俺に皐月さんが指差して乗るように指示したのは収穫した野菜を入れるプラスチックのケースや収穫の道具、ネコ車と呼ばれる一輪の手押し車が積まれた荷台だった。

皐月

大丈夫、後ろに荷物積んでりゃ人乗せてもいいって法律で決まってんだよ。

文月

はぁ…。

弥生

荷台楽しいですよ!
舗装されてない道を走る時結構揺れてアトラクションみたいです!

文月

危なくないのそれ…。

弥生

しっかり車を掴んでいれば大丈夫です!
お父さん、私も荷台に乗っていい?

皐月

好きにしろー。

そして、俺と弥生は荷台に乗り込み畑へと向かう事になった。 途中弥生が言っていたように未舗装の道を走ると荷台は思った以上に跳ね弥生と二人小さく歓声とも悲鳴ともとれる声を上げて街中ではは味わえない様な体験をした。

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚